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2018年5月26日(土)、『海を駆ける』ロードショー初日は大勢の映画ファンが劇場に詰めかけた。
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した(『淵に立つ』2016年/119分)深田晃司監督2年ぶり待望の新作は、ディーン・フジオカを主演に迎えた日本・フランス・インドネシアの合作映画だ。
深田晃司監督と主演のディーン・フジオカが舞台挨拶に立つとあって、ミッドランドスクエアシネマ2(名古屋市中村区名駅)のスクリーン8(296席)は満員のファンで埋め尽くされた。

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MC. 本日は世界に先駆けて日本で初日を迎えたということですから……せっかくなので、インドネシア語か英語でご挨拶をいただけますか?(映画コメンテーター 松岡ひとみ)

ディーン・フジオカ Nama saya Dean Fujioka. Saya senang bertemu anda semua di sini hari ini.

MC. ……今は、何て仰ったんですか?

フジオカ 「ディーン・フジオカです。今日、皆さんとここでお会いできて、とても幸せに思います」最後まで楽しんでいってください。

MC. では、深田監督、よろしくお願いします。

深田晃司監督 Good evening. My name is Koji Fukada. I'm happy!……済みません、この辺が限界です(笑)。せっかく、インドネシア語を想定していたんですが……

フジオカ インドネシア語で、是非(笑)!

深田監督 Selamat malam. Nama saya Koji Fukada. Terima kasih.……「terima kasih」は「ありがとうございます」という意味です。僕は、ほぼこの「terima kasih」だけで現場を乗り切ったと記憶しています(笑)。

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MC. ディーンさん、最初に深田監督からオファーを受けた時はどんな風に感じましたか?

フジオカ 最初この作品のお話を頂いた時、アチェで撮影するということで……インドネシアの中でも、一番西なんですね。ジャカルタから飛行機で3時間くらい掛かるほど遠い所で、それまで僕はスマトラ島に行ったことがなかったんです。アチェというと、津波もありましたし、ジャカルタとは歴史も文化も違うこともあって、ちょっと怖いイメージがあったんですよ。家族や友達に行ったことはあるか尋ねても、皆(当然のように)「行く訳ないじゃん」「外国より遠いような場所だ」って話を聞いてたので。そこで撮影するのは、僕には狂気としか思えなかったんですよね。実際に行ってみたら、アチェには映画館も無いという(笑)……映画を撮るシステムが無いところに、機材を全部持っていって、ゼロから組み立てていったんです。深田組のチームワークは、素晴らしいと思いました。最初にお話を伺った時は、撮影が全くイメージできなかったです……具体的にどう撮影を進めていくのか?とか、どんな所に泊まるのかな?とか、インターネットあるのかな(笑)?とか、そんな感じでした。

MC. 実際にアチェに行かれたら、どうだったんですか?

フジオカ 全く平気でしたね(笑)。皆凄く優しくて……僕はお酒を飲まないんですけど、普通にお酒を売ってるお店もありましたしね。

深田監督 インドネシアはイスラム教徒が多い国なんですけど、アチェは独立地区みたいになっていて、「シャリーア」というイスラム法で統治されている地域なんですね。なので、お酒は基本的に売ってないと聞いていたんです。ジャカルタから行くインドネシア人のスタッフは、そんなに敬虔ではないイスラム教徒が多くて……

フジオカ ……不良が多かったんです(笑)。

深田監督 機材はジャカルタからスマトラ島を陸送で縦断したんですが、その車にはお酒もたくさん積み込んで行ったんです(笑)。

フジオカ ……密輸ですよね(笑)。

深田監督 でも、行ってみたら、「ビンタン(Bintang)」が頼めば出てくるような感じでした。あと、どぶろく的な感じで、地元で椰子の実か何かから作った密造酒みたいなのが……「お酒ではない、ジュースだ」って言ってるんですけど、皆お酒代わりにそれを飲んでました。

MC. スタッフの方は、撮影が終わった後に盛り上がったりしてたんですか?

フジオカ ……撮影中も盛り上がってましたよね。もちろん、カメラが回ってる時は仕事をしていますけど、テイクの合間とか、ちょっとした……例えば、「アザーン」(礼拝(サラート)の呼びかけ)が鳴って仕事が休憩になった時とか、ずっと歌ったり踊ったりしてましたね、不良たちは(笑)。

深田監督 してましたね(笑)。

フジオカ 真面目なイスラム教徒の方は、お着替えをして、絨毯を敷いて、メッカに向かってお祈りするんですよ。でも、皆が皆そうではなかったですね(笑)。

深田監督 そこら辺は意外と緩やかでした。印象的だったのは、日本の現場だと仕事中はずっと緊張感を持ってやるんですけど……もちろんインドネシアのスタッフも、やる時は仕事は速いですし、緊張感を持ってやってくれるんですけど、例えば昼休憩で1時間空くという時、誰かが歌うとその歌がどんどん伝播していって、インドネシアの人が皆歌い始めるんです。イルマ役のセカール・サリちゃんはダンスもやってる凄く明るい子なんですけど、歌に合わせて踊り始めたりとか。日本人も負けじと、「歌おうぜ!」ってことになるんですけど……日本人は、先ず皆で声を合わせて歌える歌が中々見付からなくて。「長渕剛さんの『乾杯』なら歌えるんじゃないか」とか、スマートフォンを見ながら歌おうとするんですけど、声が揃わなくて……歌合戦は、インドネシア人に完敗でした。逆に、インドネシア人のスタッフが気を遣って日本語の歌を歌ってくれたり(笑)。

フジオカ 日本で時間通りに来るといえば、電車でしょうか。インドネシアだと時間通りに来るものといえば、アザーンなんです。アザーンに合わせてスケジュールを組むんですけど、撮影をやってて細かく時間を気にするのって、日本だと電車の音なんかを回避するためですよね。アザーンと違って、電車が来る一瞬じゃ休めないですもんね。

深田監督 1日5回、強制的に休まなくちゃいけない時間があるというのは、むしろ慣れると気持ちいいですね。メリハリなんだと思います。例えば日本の映画の現場だと、おやつは大抵「お茶場」という場所にずっと置いてあって、スタッフは体が空いたら自由に食べるんです。ところが向こうでは、10時と3時におやつの時間があって、その時間になるとスタッフが皆に持ってくるんですね。最初は結構「お、このタイミングで来るか!?」みたいにビックリしたんですけど、慣れると良いんですよね。

フジオカ ココナッツで出来てるのが多くて……全部グルテンフリーでしたよね。米粉とかココナッツとかでしたから。あとマンゴーとか、凄くたくさん果物も使ってて……

深田監督 私も下戸で甘党なんで……もう、あのジュースの豊富さが天国でした(笑)。

フジオカ アボガドジュース、美味しかったですよね。

MC. アボガドの、ねっとりした感じのジュースなんですか?

深田監督 そこに、チョコレートが入ってるんですよね。

フジオカ 凄く美味しいですよ。

深田監督 嵌まりますよね。

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MC. 蝶々のシーン、凄かったですね。

深田監督 蝶々の場面は中盤よりちょっと前くらいのスケジュールで撮影したんですけど、あの一連のシーンを撮った時、本当にディーンさんにお願いして良かったなと思いました。鶴田真由さんなんかも、「凄く美しいお顔!」って言ってました。あんなに無邪気な表情で蝶を追える人がいるんだ!って(笑)。

フジオカ 「エア蝶」を(笑)。

深田監督 そうなんです。後で作ったものなんですよ、蝶は。本当に、お願いして大正解だったと思いました。

フジオカ ありがとうございます。猫背にした甲斐がありました。

深田監督 多分、自分がディーンさんに一番投げかけた言葉は、「猫背にしてください!」だったかと(笑)。

フジオカ 朝現場に来ると、ラウ的には肩を丸める感じなので、少しずつダンスというかアート・インスタレーションみたいな感じで、身体を少しずつ“ラウモード”にしていくという……パーツを動かして、変身していくんですよ。笑顔の感じとか、目線とか。

深田監督 笑顔もアルカイックスマイルというか、仏様のような笑顔みたいなものを目指して。

フジオカ 「アルカイックスマイル」ってググったら、「縄文土器」が出てきましたからね(笑)。

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MC. 最後に一言ずつメッセージをお願いします。

フジオカ むしろ、皆さんがどう思ったかを聞きたいんですよね。それを表現していただくことで、より一人でも多くの人にこの作品のことを知ってもらえるんじゃないかと思っています。願わくば、「#海を駆けてきた」で……よく間違えるんですけど、「#海を駆ける」じゃなく、「#海を駆けてきた」です。皆さんのご意見、ご感想をネット上で表現していただくと、それがバタフライ・エフェクトのようになって、フランスへ、中国へ、台湾へ、インドネシアへ繋がっていくんじゃないかと、僕は思っております。皆さん色々思うことが沢山あると思うんで、現実に帰るリハビリだと思って、自分の感想を是非書きとめて……明日も頑張ってください!

深田監督 映画を作る時いつも自分が気に掛けているのは、映画のメッセージとか、舞台となった場所を皆さんに教えるといったようなものではなくて、100人いたら100通り映画の観え方が分かれるものになってほしいということです。自分は、「入口と出口の高さが違う映画にしたい」と思っています。「こんな映画かな?」と思って入ったんだけど変なところに連れて行かれちゃった、みたいな。多分、出口の高さというのは人それぞれ違うと思うんです。ラウに対してどう思うかは、もしかしたら皆さんそれぞれの自然に対する考え方と重なるのかもしれません。そういう、体の鏡ではなく、心の鏡になるような映画が……皆さんそれぞれの心の在り方が炙り出されてくるような映画が、良い映画だと思っています。「#海を駆けてきた」で感想を書いてくれると、もれなく我々スタッフが拾い上げることになるので、是非教えていただけると嬉しいです。映画って、完成したら完成という訳ではなくて、人に観てもらってその反応を受けて、「ああ、自分はこういう映画を作ったんだな」といつも分かるんですね。監督だから映画のことを全部分かってるってことは全くなくて、親と子供の関係のようなものだと思っています。親って子供のことを、比較的近くにいるんだけど全然分かってなかったりするじゃないですか。「こんな側面があったんだ」というようなことを、皆さんから教えてもらえると嬉しいと思います。

実は今回の舞台挨拶、お二人が登壇したのは観客が作品を鑑賞した後だったこともあり、かなりのネタバレ発言が乱れ飛んだ。
今記事からは削らせていただいたが、せっかくなので別記事を起こしてみる。

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映画『海を駆ける』

出演:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由
脚本・監督:深田晃司
配給:日活 東京テアトル

2018/日本・フランス・インドネシア/107分


2018年5月26日(土)より ミッドランドスクエアシネマほか公開中