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5月4日から全国ロードショーとなる『サバービコン 仮面を被った街』が素晴らしかったので、緊急レビューを書く。
ジョージ・クルーニーの監督作品最新作だ。

ジョージ・クルーニーといえば、アカデミー賞助演男優賞も受賞した、言わずと知れたハリウッドの大スター。
だが、ジョージ・クルーニーは俳優業だけでなく、プロデュース業、脚本など映画制作全般に早くから才能を発揮しており、殊に監督業でその手腕を如何なく発揮しているのだ。

豪華キャストを擁した大作『ミケランジェロ・プロジェクト』(2015年/118分)、2017年の“悪夢”を予見したような『スーパー・チュ-ズデー 正義を売った日』(2011年/101分)、そして、ヴェネツィア国際映画祭で男優賞・脚本賞を受賞、アカデミー賞6部門ノミネートで話題となった『グッドナイト&グッドラック』(2005年/93分)。
ジョージ・クルーニー監督作品といえば、どうしても自身も出演した作品が取り沙汰される。
無理なからぬことではあるが、だからこそ今作『サバービコン』に注目してほしい。
『サバービコン』は、ジョージ・クルーニーは出演せず、監督・脚本・制作と裏方に徹した意欲作なのだ。

「ジョージ・クルーニーって、監督もやってるの?」
『サバービコン』を一番にお薦めしたいのは、そんなライト層である。

『サバービコン 仮面を被った街』ストーリー

1950年代、アメリカ。ニッキー・ロッジ(ノア・ジューブ)少年は、サラリーマンの父・ガードナー(マット・デイモン)、事故で車椅子生活の母・ローズ(ジュリアン・ムーア)、家事手伝いとして同居している母の双子の妹・マーガレット(ジュリアン・ムーア 二役)と、サバービコンで暮している。
サバービコンは郊外に造成された新興住宅地で、多くの中産階級のファミリーが夢のマイホームを手に入れ、完成された一つの街として機能しているニュータウンだ。
だが、そんなサバービコンに続いていた平穏で幸せな日常は、ロッジ家の隣宅に入居してきたマイヤーズ家(リース・バーク、カリマー・ウェストブルック、トニー・エスピノサ)によって脆くも崩れ去る。マイヤーズ家は、サバービコン初の黒人だったのだ。
ちょうどその頃、ニッキーにも恐ろしい災厄に見舞われる。強盗(グレン・フレシュラー、アレックス・ハッセル)二人組がガードナー家に押し入ってきて、最愛の母の命を奪ってしまうのだ――。

サブ2

母を亡くした少年の目を通して描かれるクライム・サスペンスを縦軸に、1950年代の郊外住宅地で実際に起きた人種差別暴動を横軸に、物語は展開していく。
実はこの作品、大元は1999年に書かれたものの日の目を見なかった『Suburbicon』という脚本だという。
脚本を書いたのは、ジョエル・コーエンとイーサン・コーエン……そう、『ノーカントリー』(2007年/122分)『ファーゴ』(1996年/98分)の、お馴染「コーエン兄弟」なのだ。
元々の脚本はシニカルなブラックコメディだったようだが、監督のジョージ・クルーニーはペンシルベニア州レヴィットタウンで実際に起きた暴動から着想したストーリーを絡ませることにより、『サバービコン』を一級のクライム・サスペンスに仕上げてみせた。
劇中で度々引用される『Crisis in Levittown』という1957年制作のドキュメンタリーが、映画に重厚さと緊迫感を齎すことに成功している。

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50'sの父親像を再現するため、役作りのため増量して撮影に臨んだ、マット・デイモンは完璧な演技を見せる。
境遇も思考回路も違うため、双子なのに似ても似つかない姉妹……そんなキャラクター造型は、二役という難題を見事にこなしたジュリアン・ムーアのアイデアも光ったのだとか。
また、かつてはジャージ・クルーニー自身がキャスティングされていたクーパー調査官役のオスカー・アイザックに注目してほしい。今作で、クーパーは最高のトリックスターであり、最強のジョーカー(切り札)だ。
そして、名だたる名優の中にあって、見事に実質上の主役を演じきってみせた、ノア・ジューブの名を胸に刻んでおきたい。今年13歳の、天才俳優だ。
キャスト陣の熱演・名演を引き出してみせたのは、演技・演出・脚色・制作と映画作りの全てに精通しているジョージ・クルーニーだからこその手腕であると断言できる。

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コーエン兄弟の作風は、残忍なコメディに真骨頂があると思っている。
どこかシニカルな、ある意味「神の視点」めいた“渇いた俯瞰”が、作品世界に共通して存在している。
コーエン兄弟が作り出す作品世界は何かしら無機質で、無邪気な子供が作り上げた“残酷な箱庭”のようだ。

対して、ジョージ・クルーニー監督が『サバービコン』で描き出した世界は、“アイロニー溢れる悪夢”である。
実在の世界と余りに地続きであるがゆえ、可笑しみを感じても笑うことが躊躇われる、“移動可能なパラレルワールド”だ。
私の隣に暮らしているのは「ガードナー家」かもしれない……そんな妙なリアリティに悩まされ、観る者は笑いを通り越して戦慄を覚えざるを得ないのだ。

サブ7

これは果たして、長年コンビを組んだジョージ・クルーニーとコーエン兄弟が組成した化学反応なのか――
ジョージ・クルーニー監督が持つ、スペシャリティなのか――
次回作にも、目が離せなくなってきた……!

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Photo Credit: Hilary Bronwyn Gayle©2017 Paramount Picture­s. All rights reserv­ed.

映画『サバービコン 仮面を被った街』公式サイト