2018年4月21日(土)、名演小劇場(名古屋市東区)のサロン1(105席)には大勢の映画ファンが詰め掛けた。
4月14日から公開が始まった『ばぁちゃんロード』は2週目に差し掛かっていたが、篠原哲雄監督、そして主演の文音(あやね)が舞台挨拶に立ったのだ。
『ばぁちゃんロード』あらすじ
富山県氷見市。ガソリンスタンドで働く田中夏海(文音)は、高校時代の同級生・荒井大和(三浦貴大)と付き合っている。ある日、彼に連れ出された夏海は、大和が漁船“垂姫丸”を任されることになったと聞かされる。「俺と結婚してください!」それは、漁師として独り立ちを果たした大和からのプロポーズだった。
突然の申し出に戸惑いつつも結婚を決意した夏海は、大和と一緒に両親へ報告するが、父・匠(鶴見辰吾)は一人娘の嫁入りをなかなか認めようとはしなかった。一人だけ卓を離れて拗ねる父に、懇願する大和と、苦笑いする夏海と母・朝子(竹内晶子)。しかし、実は夏海にはもっと大きな悩みの種があった。
両親が共働きの夏海は幼い頃からばぁちゃんっ子で、ずっと祖母・高山キヨ(草笛光子)と一緒だった。だが、施設への入所が決まった時に「もう来ないでちょうだい」と言われて以来、距離を置いてしまっている。キヨは足の骨折が切っ掛けで歩けなくなってしまい、今は車椅子の生活をしているのだ――。
篠原哲雄監督 扉の向こうにいたんですが、(映画が)終わったら拍手が聞こえたんで……我々にとって、とても嬉しく思います。
文音 今日は、神戸、大阪と舞台挨拶してきたんですが、こちらはこんなステージがある劇場だとは思ってなかったので、ちょっとテンションが上がりました。多分、一番“舞台”挨拶ですね、ここが(笑)。
MC 4月14日から公開が始まっていますが、周りの方からの反応は如何ですか?(映画パーソナリティ 松岡ひとみ)
篠原監督 おかげさまで、良いですよ。
MC 4月13・14日の「ぴあ映画初日満足度ランキング」で、実写の1位なんですよね(場内拍手)。印象に残っているシーンのお話を聞かせていただけますか?
文音 「どのシーンか?」と言われると、本当に沢山のシーンに思い出が凄く強いんですけれども……でも、やっぱりバージンロードのシーンは、本当に撮影の一番最後の日に撮ったもので、田中夏海という役を2週間弱生きてきて、最後おばぁちゃんへの想いだったり、お父さん(鶴見辰吾)やお母さん(竹内晶子)、リハビリチームがいて、向こうに大和(三浦貴大)がいたりと、本当に心にグッと来るものがありましたね。監督も、あのシーンのファーストカットは全部カットを掛けなかったので、ずっとバージンロードを二人で歩く長回しも記憶に残っています。最後の集大成だったのかなという気がします。
篠原監督 最初に「本当に起きてる出来事のように出来たら良いですね」という話は、お二人(文音、草笛光子)と個別に会った時に出来ていたんです。お二人は前から共演もされてるし、本当におばぁちゃんと孫という関係性になりやすいということもあったんですね。おじぃちゃんじゃなく「おばぁちゃんと孫」って、女性の強い所だなと思うんですけど、密になれる、励ましあえる関係が濃く出来るんじゃないかという話をお二人にしたんです。会話の在り方なんかも、出来るだけ台詞っぽくないように、草笛さんは「お芝居をしないように」って言い方をされてましたが、皆で心掛けてやっていました。大和と夏海の芝居も、そういう風に演じていく方向に段々なっていったんです。なので、ワンカットで撮ることが多かったんですね。皆さん(出演者)それぞれのなりゆきを僕はなるべく見詰める方向になって、カットを掛ける予定のシーンでも長く回したくなってしまうというか……見ていると、一瞬一瞬が面白い訳ですよ。
MC 文音さんは、草笛さんとプライベートでも仲が良いとか?
文音 そうですね。3年前に一緒にドラマで共演させていただいて、その時も私のお祖母ちゃん役で出ていらっしゃいました。そのドラマはこの映画のようにガッツリお祖母ちゃんと孫を描く作品ではなかったんですが、お家が近いこともあって親しくさせていただいたんです。草笛さん、今年34歳に……34歳じゃない!84歳なんですけど(場内笑)……加圧トレーニングとかされてるんですよ。私も体を動かすのが好きなので、そういう話で盛り上がって、「あなた、うちにいらっしゃいよ。一緒に加圧しましょうよ」って言われて、一緒にトレーニングさせていただいたり。私より激しいトレーニングをされてるくらい、凄くお元気なんですよね。そんな風にプライベートでも親しくさせていただいているので、今回おばぁちゃん役が草笛さんだって聞いた時は、私たちにしか出来ないものがこの作品では絶対あるなって凄く感じました。草笛さんは体が動く分、今回は動けないお芝居だったので、撮影中その辺は悩まれたり、「どうやったら動かないように見えるのか?」というリアリティを凄く追及されてました。監督も撮影しながら、一緒に力が入って(笑)……
篠原監督 動かないってことは、どこかに力が入っちゃうんですよね。
MC 介護の講習のシーンがありましたが、物凄く自然な感じでした。
文音 あれは……自然です(笑)。もう、ドキュメンタリーみたいに……
篠原監督 そうなんです。あれは本当に「ニチイ学館」さんという所でやったんです。介護師の方に話をしてもらって(文音さんが)聞いてる姿を普通に撮って、実践の時も周りの人たちに「こういうことで悩んでる設定なんですよ」って説明したら、本当に「じゃあ、こうしたら良いんじゃないの?」って考えてくれて……普通に、夏海ちゃん、文音ちゃんに教えてくれた感じで。2キャメ(カメラ)だったんで編集してるように観えるんですが、僕らはずっとワンカットで……
文音 20分以上回してらっしゃいましたよね。最初は、全然できないんですよ、やっぱり。出来ないのを、教わって教わって……出来た瞬間を監督が使ってくれたんです。
篠原監督 介護の方と本当に一緒にやった姿が、そのまま写ってる感じです。
文音 私は元々おばぁちゃん子で、おじぃちゃん子でもあったんですけど、15~6歳くらいの時にどちらも亡くなっちゃいまして。思春期の時期とかに一番相談したいのって、おばぁちゃんだったんじゃないかという気持ちが凄くあるんです。今回「年配の方たちに対して、考え方は変わった?」って言われるんですけど、元々おばぁちゃんは大好きだったので変わった訳ではないんですけど……この作品をやって良かったと思いますし、「おばぁちゃん、見ててくれてるかな?」とか思ったりしてます。
MC 撮影地は氷見ですが、美味しい物が一杯あったんじゃないですか?
篠原監督 旬じゃなくて食べられないものもありましたが、撮影した時期だとシロエビが美味しかったですね。
文音 映画でも、出てきてるんですよ。大和によそってる食事も氷見の料理ですし、居酒屋のシーンでもシロエビの素揚げとか、色々なお魚が出てきてて。大将が(カウンター越しに)私たちに渡すんですけど……実は、監督なんですよ(笑)。
篠原監督 「カマスの開き」って……
文音 あれ、監督の手です(笑)。
MC これは、良いエピソード……もう一度観ようかな(笑)?
文音 もう一回観たくなりますよね(笑)。あのシーンも監督は全然カット掛けないので、台詞も終わっていて台本も終わってるのに私たちは演技を続けていて、「大将、これ何の魚?」って聞いたり……カットされてるんですけどね(笑)。良い思い出です。凄く良い現場でした。
MC 夏海ちゃんと大和くんのケンカのシーンも、凄くリアルでした。
文音 それも監督が、私が大和の家に入って出るまでの一連を、ワンカットの長回しで撮れるようにカット割りをしてくれて。感情の流れが途切れずに、スムーズに行ったから、そういうものが生み出せたんじゃないかと思います。
篠原監督 仲直り(のシーン)なんかも、川の対岸からの引き画で撮ってたんですけど……二人がもつれながら、フレームから見切れていくんですよね。そこで本当は終わりなんですけど、ちょうど撮影中、5時の時報みたいな音が鳴ったんですよ。芝居の途中で鳴りはじめたんで、録音部さんは音を撮ると終わりまで使ってほしいと思うから、これは音を録っとくべきだろうと思ったんですね。こういうのが切っ掛けで(長回しが)始まるんです。二人は「まだカットしないのね?」って、横にフレームアウトした後、もう一度別な形になってフレームに戻ってきて、仲良くイチャイチャしながら家まで入っていくんですよ。まだ時報の音は鳴っていて、鳴り終わる時は家の中に入ってるくらいでしたかね。こんな風に自然な環境を活かしていくと、長くなっていくんですけど、二人が自然により仲良くなったっていう関係が次のシーンにも活かされる……こういうのは経験上よくあることで、だから僕は自然に長くなってしまうのかなと思ったりします。でも、長く回したおかげで草笛さんが『この道』を唄ってくれて……『この道』を唄ってくださいとは一言も言ってないんですけど(笑)、これがそのまま主題歌になるっていう。結構、撮影時の幸運を活かせる作品だったな、と……皆さん、意図しないことを、計算以上のことをやってくれて、作品も非常に盛り上がったんじゃないかと思ってるんですけどね。
MC 『ばぁちゃんロード』は、これからも上映が続きます。最後に何か一言お願いします。
文音 こういう作品は、きっとテレビの中で観る物ではなくて、映画館の暗闇の中でジワッと観る物だと思います。この作品は凄く愛が溢れている映画で、それは現場でも凄く感じました。愛っていうのは目に見えないし、形もないし、感じることしか出来なくて……でも、そういうものが溢れている作品であったら良いなって感じています。そういうものを少しでも感じていただけたら、自分の大切な人……恋人だったり、お母さん、お父さん、おばぁちゃん、おじぃちゃん、息子さんや娘さん、そんな人たちに是非伝えていただいて、また映画館で観ていただけたらと思います。少しでも多くの人に広がってもらえたら嬉しいので、皆様よろしくお願いします。
篠原監督 日本映画も、派手で過激な作品も多い時代になってきてます。こういう取り立てて悪い人も出ない淡々とした映画は、少なくなってると思うんです。けれども、ある種日本映画の伝統というのは、日本人が基本的に持っている人を労わることや、頑張って何とか苦境を乗り越えていくことを描いてきたもんだと僕は思うんですよ。現代こういう時代で色んな情報が溢れて、家族も関係が希薄になってると言われがちです。この映画は、あまり顕在化してないだけで皆どこか根底に持っていることを正々堂々と描くことが出来た作品なので、僕たちも自信を持って世に広めていきたいと思って、こうして挨拶しています。皆さんも、色んな方に広めていただければ嬉しく思ってますので、口コミで広げていく映画になれば良いなと思います。文音ちゃんが言ったように、テレビのブラウン管よりも劇場で観るのが良いと思いますので、今後とも是非宜しくお願い致します。
サロン1はステージが広いため、篠原哲雄監督と文音が壇上を後にするには少々時間を要したが、贈られた万雷の拍手はその姿が見えなくなっても名演小劇場に鳴り響いていた――。
映画『ばぁちゃんロード』
文音 草笛光子
三浦貴大 桜田 通 辻本晃良 富永沙織
小林千里 大谷麻衣 松木大輔 竹内晶子 / 鶴見辰吾
篠原哲雄 監督作品
脚本:上村奈帆 音楽:かみむら周平
主題歌:「この道」(作詞:北原白秋/作曲:山田耕筰)
歌:大貫妙子(アルバム「にほんのうた 第一集(commmons)」より)
製作統括:黒澤 満 エグゼクティブプロデューサー:遠藤茂行
プロデューサー:佐藤 現 近藤あゆみ 音楽プロデューサー:津島玄一 キャスティングディレクター:杉野 剛
撮影:喜久村徳章 照明:才木 勝 録音:臼井 勝 美術:寺尾 淳 衣裳:遠藤良樹 ヘアメイク:清水美穂 編集:小原聡子 音響効果:丹 愛 助監督:竹田正明 製作担当:田中盛広
製作幹事:セントラル・アーツ 製作プロダクション:スタジオブルー
企画協力:映画美学校 撮影協力:富山県氷見市
特別協力:ニチイ学館 北日本新聞社
製作:「ばぁちゃんロード」製作委員会(オフィスレン/セントラル・アーツ/東北新社)
配給:アークエンタテインメント
[ 2018年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/89分 ]
公式サイト︰http://baachan-road.com
©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会
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