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自転車映画

そう言われて、あなたはどんな映画を思い出すだろうか?

『茄子 アンダルシアの夏』(監督:高坂希太郎/2003年/47分)…
『シャカリキ!』(監督:大野伸介/2008年/106分)……
『パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト』(監督:ジェームズ・エルスキン/2014年/92分)………
『劇場版 弱虫ペダル』(総監督:鍋島修/2015年/90分)…………
『あらうんど四万十 カールニカーラン』(監督:松田大祐/2015年/111分)……………
『疑惑のチャンピオン』(監督:スティーブン・フリアーズ/2015年/103分)………………
『疾風スプリンター』(監督:ダンテ・ラム/2015年/125分)…………………

どれもこれもロードバイク(ロードレーサー)をテーマにした自転車映画の秀作だが、「一番の傑作」とするなら、多くの人が名を挙げるのは

『ヤング・ゼネレーション』(監督:ピーター・イエーツ/1979年/101分)

だろう。

ここに是非、加えてほしい映画が公開されている。

『神さまの轍 ―Checkpoint of the life―』(監督:作道雄/2018年/86分)

が、その作品である。

『神さまの轍 ―Checkpoint of the life―』ストーリー

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京都府井手町、中学生の佐々岡勇利(望月歩)は日々に価値を見出せず、クラスでも浮いた存在だった。唯一仲の良い小川洋介(吉沢太陽)もまた、夢を見つけられまいまま進路を決め兼ねていた。そんな彼らを、担任の中坊(津田寛治)も気に掛けている。
ある日、いつも町を徘徊している自転車おじさん(六角精児)とクラスの不良たちとの事件を切っ掛けに、勇利と洋介はロードバイクを手に入れる。初めて乗るスポーツ用自転車の魅力は瞬く間に二人を虜にし、勇利と洋介は農道を、峠道を、井出町の道という道を走った。
数年後、就活に励む洋介(岡山天音)は、かつてのクラスメート橋本(川村亮介)と再会する。そして、しばらく会うことのなかった勇利(荒井敦史)とも再会し、彼が大きな夢を掴んだことを知ることになる――。
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描かれるのは、通過点が放つ輝き

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メガホンを握るのは、本作が商業映画初監督となる作道雄(さくどう ゆう)。
『Mother Lake』(監督:瀬木直貴/2016年/95分)にて担当した脚本で時間の経過と人間の成長というテーマをしっかりと描き印象的だったが、『神さまの轍』でも脚本を担当し作家性が如何なく発揮されている。
『Checkpoint of the life』には、舞台となった井出町に住む者の「人が通過していく町」という自虐的な思いも投影されている。

作道監督が描きたかった「何者でもない若者が必死にペダルを漕いだ物語」を体現するのが、二人の若き才能だ。

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岡山天音は、『ライチ☆光クラブ』(監督:内藤瑛亮/2016年/114分)、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(監督:森ガキ侑大/2017年/104分)、『ポエトリーエンジェル』(監督:飯塚俊光/2017年/95分)と、群を抜く存在感が今作でも光る。
「何にも来んかったから、何にも飛び乗れんかった……ずっと待ってたのに」との洋介の台詞は、物語の根幹を成すパワーセンテンスだ。

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荒井敦史は、無為な生活から大きな夢を叶え、再び無為な日常に戻るという難役を、見事に演じ切った。
六角精児入魂の“自転車おじさん”と共に「明日は何しよ」と唱える場面は、今作屈指の名シーンである。
勇利が初めて「人生と向き合う」瞬間だ。
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助演者では、阿部進之介、久保陽香らの好演が光る。
また、アベラヒデノブが素晴らしい。
『SLUM-POLIS』(監督:二宮健/2015年/113分)『7s セブンス』(監督:藤井道人/2015年/96分)と大きな役で輝きを放ってきたアベラだが、今作のように少ない出番でもやはり存在感を見せつけるのだ。

自転車映画とは?

私たちは、自転車映画に何を見るのであろうか。
如何にして強いロードレーサーになったのか?
手に汗握るレースシーン?
どちらも重要な要素ではあるものの、それが全てではない。
むしろそれは、ドキュメンタリーや記録映像に求められる領分だろう。
私たちが観たいのは、自転車“映画”なのだから。

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『神さまの轍』で描かれているのは、自転車を熱望した少年時代ではない。自転車で救われた、何もない青春時代である。
ペダルを強く漕ぐための、体の使い方には言及しない。ペダルを漕ぐに至る、心の機微を繊細に映し出すのだ。

とは言え、肝心の自転車の場面がおざなりでは画面に説得力がない。
だから、是非とも洋介と勇利がペダルを漕ぐシーンを見逃さないでほしい。
二人の横一線で並んだダンシングを、目に焼き付けてほしい。

時間という概念に囚われ、定められた空間からはみ出すことも出来ず、決められた物理法則から抜け出せない……私たちは、宇宙の運命――“神さまの轍”を、伝っているだけなのかもしれない。
だが、来年を、明後日を、明日を……一秒先をも、人は知ることは出来ない。
私たちは、今を懸命に走るより他ないのだ。
一秒前の景色を惜しむより、一秒後の未来を渇望せよ。
それが、青春というものだ。

立ち止まることは出来ても、決して後戻りは出来ない――人生とは、奇しくも自転車と同じなのだから――。

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映画『神さまの轍 ―Checkpoint of the life―』

2/24(土)〜イオンシネマ高の原 ほか
3/3(土)〜第七藝術劇場
3/17(土)~アップリンク 名演小劇場 ほか

配給:エレファントハウス

©2018映画『神さまの轍』製作委員会