「新幹線が遅れて、ちょっと心配だったんですけど……着けてよかったです。今日は、宜しくお願い致します」
2018年3月11日(日)、名演小劇場(名古屋市東区)のサロン1(105席)に登壇した榊英雄監督は、そういって頭を掻いた。
MC. 監督からのお話の前に、夏木マリさんからビデオメッセージを頂いています。
榊監督 ただし、ピンボケです(笑)。目を細めていただくと、何となく夏木さんの顔が見えてくると思います(場内笑)。
(夏木マリ) 名演小劇場の皆様、こんにちは。『生きる街』をご覧くださり、ありがとうございます。夏木マリです。映画、如何だったでしょうか?今日は私、そちらにどうしても来られない事情があって、ちょこっとだけVTRでご挨拶させてください。この映画は、私たちが愛を込めて作った映画です。とっても良い映画になったと思います。ベースには震災の話が流れていますけれども、家族、故郷のお話だと思っています。この映画をご覧になって、親のこととか、故郷のことを思い出していただけたら、凄く私たちも幸せです。今日ご覧になった皆様、是非一人でも多くの皆様に宣伝していただけたら嬉しいです。『生きる街』の夏木マリでした。今日はどうもありがとうございます!
MC. 素晴らしいメッセージをいただきまして、ありがとうございました。監督も、何かメッセージをいただけますか?
榊監督 今日この3月11日という7年目の日を迎えましたけれども、そんな日に名古屋の名演小劇場にお邪魔することが出来て光栄です。本日は、宜しくお願い致します(場内拍手)。
MC. 東京などで舞台挨拶をされて、お客様の反応は如何ですか?
榊監督 東京、仙台、石巻と行きましたけど、正直、反応は良いといいますか……皆様、激しく賛同していただいて、おかげさまで新宿(新宿武蔵野館)では(上映期間が)延びました。
MC. この映画を作られた経緯を教えてください。
榊監督 色んなスタッフの方とか協力の皆さんがいらっしゃったんですが、まず名古屋の西区にある「山田事業所」という土建業の会社さんの話があったんです。そちらの社長ご自身が震災の直後に会社ごとダンプ含めボランティア活動をしたそうで。そこから山田事業所さんは、宮城の石巻に支店を持つほどの縁を持たれたんですね。僕らがお話をいただいたのは5年目、6年目を迎えるところだったんですが、僕と一緒にプロデューサーをやっている秋山命が、忘れたくないという山田さんの想いを受けたんです。僕らは前々作の『捨てがたき人々』(2012年/123分)を撮ったチームだったんですが、僕自身は震災に対し、東京で経験した程度で募金くらいしかしていないという負い目もあり、映画の企画を頂いた初めはお断りしたんです。でも、観ていただいたように、母の話であり、家族の話なので……母が常に娘、息子を想い、何かを待ち、どの国でもどの街でもいる母親、家族の話という事に置き換えれば、僕は勇気を持って撮れるかと思ったんです。
MC. 撮影で苦労したことは?
榊監督 まず、あの“鹿”は本物です。CGではございません。あの鹿は何かの投影なのか色々な解釈ができると思いますが、ともかく脚本に「鹿と千恵子、目が合う」って書いてあったんですよ。「“目が合う”?」などと思いつつ……まず「ここに来てほしい」という場所に、そう容易く野生の鹿が来る訳ないじゃないですか。カメラマンは徹夜をして、撮影が休みの日に自ら撮影場所に光を焚いて……神様がいらっしゃったのか、千載一遇のチャンスを撮らせていただいたんです。我々やっぱり想いとして、デジタル、アナログ色々ありますけど、カメラをまず何処に据えるかというところから映画撮りは始まるんだということを、カメラマンから習いました。尊敬の念をこめて、ありがとうと言いました。
MC. 山田事業所さんは名古屋だそうですが、こちらでも撮影を?
榊監督 済みません……ほぼ、というか全て、名古屋で撮ってません(場内笑)。石巻市、鮎川という浜で撮ったんですが、映画はどうしても経済面やスケジュールもあって、名古屋という設定のシーンは全て石巻で撮っています。トラックが駐まっている俯瞰の画、「山田事業所」の文字はCGです(笑)。
MC. 私は2回ほど観たんですが、「ここは何処だろう、なに区だろう?」と思ってました(笑)。
榊監督 それぞれ皆さんの「心の故郷」ということで(笑)。
Q. 『スリー・ビルボード』(監督:マーティン・マクドナー/2017年/116分)でも、娘を亡くし母親が感慨に耽っている場面で鹿が出てきます。監督の鹿に対して、どんな想いがあるんでしょうか?
榊監督 『スリー・ビルボード』の方が後なので、僕らの方がオリジナルだということをまず宣言した上で(笑)……何となく、「神の使い」とか示唆する意味はあるみたいです。牡鹿半島には鹿が沢山いるんで、脚本家や秋山プロデューサーも、鹿を何かモチーフとして撮れないかなと思ったようです。ただ、『もののけ姫』の鹿ではないですが、僕は『千と千尋の神隠し』の湯婆婆(声:夏木マリ)にリスペクトを込めて撮りました(場内笑)。オープニングの自転車のシーン、スピードが出すぎてちょっと危なかったんですよ、夏木先輩(笑)。
Q. 一番思い入れのあるのは、どのシーンですか?
榊監督 一箇所と言われれば、やっぱり朝食(のシーン)ですね。何はともあれ、日常の断片を拾い集めるのが人間を描く大前提……僕は日常というものは大事にしたいと思っています。朝御飯は大事に撮りたかったんで、朝食を食べるという台本上で4行くらいのト書きを、しっかり4~5時間かけて撮りました。3人のコラボレーションとか、アドリブで……ある程度設定を決めて、偶然生まれた凄く良いシーンになりました。「おかわり」なんて、大好きです。あれが無いと、映画にならなかったと思います。
舞台挨拶が終了し、ロビーでサイン会が開催された。
時間の無い中、観客の質問に丁寧に答えていた榊監督が、実に印象的だった。
Q. ジョンヒョン(CNBLUE)は、どうしてキャスティングされたんですか?
榊監督 彼を知っている方が、名前を挙げてくれました。僕は面識がなかったんですが、知らない方、フレッシュな方が欲しかったんです。これが他の本職の俳優さんだったら、また違ったかもしれないんで、不思議な縁ですよね。
そんな本当に時間の無い中、なんと独占インタビューを頂くことが出来たのだ。
Q. 弊サイトでも、ジョンヒョンへの反響は凄いです。これから『生きる街』を観る彼のペンやBOICEに、「ジョンヒョンのこんなところを観てほしい」という点はありますか?
榊監督 彼の天真爛漫さですね。人の縁を紡ぐメッセンジャー、天使のような役なので、彼の純真無垢で真っ直ぐなところを観てほしいと思ってます。「親からは逃げられない」という場面は、彼じゃないとあの雰囲気は出なかったと思います。とにかくピュアなんで、そこを観ていただけると嬉しいです。そして、同時にユーモアがあるんですよね。宴会の場面なんかは、彼のアドリブです。4~5日間の撮影しか無かったんですけど、自分なりの表現を後半ガッとやっていただいて、本当に好いコラボレーションでしたね。
榊監督、本当にありがとうございました!
『生きる街』、名演小劇場では3月30日(金)まで上映中だ。
©2018「生きる街」製作委員会
コメント