IMG_20180222_123642
「あなたには、夢がある?」
「君は、何か夢中になっているか?」

青春を生きる者にとっては、耳にタコが出来るほど聞かされる言葉だろうが、許してほしい。
青春を潜り抜けたと信じる者は、自分が生きてきた時間を反芻することが苦手なのだ。
でなければ、何度も浴びせられては歯噛みしたであろう台詞を、自らが口にするはずもないだろう。

だが、君よ、敢えて言おう。
君が、青春を生きる君が、今、観なければいけない作品は確かに在るのだ、と。

福岡県八女市という人口65,000人の決して大きくはない街で撮られた映画は、まさにそんな1本だ。
タイトルは、『野球部員、演劇の舞台に立つ!』という。
ちょっと長くて覚えづらい……そう、君たちの日常と同じだ――酸っぱくて、優しくない青春の日々と。

『野球部員、演劇の舞台に立つ!』ストーリー

IMG_20180222_123705

ジュン(渡辺佑太朗)は、高校2年生で野球部のエース。しかし地区大会最終回ファーストのカズマ(川籠石駿平)のエラーから投球を乱し、まさかの一回戦敗退となってしまう。それ以来チームはギクシャクし出し、キャプテンのリョータ(舟津大地)も頭を悩ませている。
国語教師の三上朋子(宮崎美子)は、演劇部の顧問。アヤネ(佐々木萌詠)、トモカ(芋生悠)、チサト(山田杏奈)など女子部員の多い演劇部で、OBの田川(林遣都)が書いた脚本の上演を実現させる為、野球部から助っ人を借りることを思いつく。
野球部員たちは、猛アタックにタジタジ。何とか止めてもらうよう野球部監督の八幡(宇梶剛士)に相談するが、返ってきたのは「野球だけの人間になるな」との言葉。そして、三上先生から「君たちに何が足りんやったか知りたいなら、演劇部に来なさい」と言われる。
こうして、ジュン、リョータ、カズマの3人は、コンクールが開催される11月まで、野球部と演劇部を掛け持ちすることになったのだが――。

八女市発、本気の青春映画!

IMG_20180222_123605

映画『野球部員、演劇の舞台に立つ!』の原作は、竹島由美子が著した同タイトルの実践記録。
八女市で長年教諭を勤めた筆者の、10年間に亘る実体験が記されている『野球部員、演劇の舞台に立つ!』(高文研刊)である。
監督である中山節夫が原作を知り、是非とも映画化を成し遂げたいと思い立ったのが10年前。
中山監督の想いに応え、鈴木一美プロデューサーは八女市に移り住み、何と7年掛けて市民に映画製作を訴えかけたとか。
八女市とその周辺地域の個人、団体から多くの支援が集まり、行政やJAなどの賛同も得た。
野球のシーンでは八女学院高等学校のブラスバンド部が協力し、演劇コンクールのシーンでは県立八女農業高校の500人近い生徒がエキストラ出演したそうだ。

中山節夫監督は、『あつい壁』(1970年/95分)で長編デビューしたベテラン。
独立プロに所属し、『原野の子ら』(1999年/127分)などの劇映画、『みえない壁を越えて ―声なき者たちの証言』(1998年/120分)などのドキュメンタリーを問わず、数多の名作を世に出している。
『青春狂詩曲』(1975年/95分)『兎の眼』(1979年/92分)『ブリキの勲章』(1981年/105分)など、青春、教育をテーマにした作品を数多く手掛けており、まさに『野球部員、演劇の舞台に立つ!』の監督に相応しい名匠だ。

前述の鈴木プロデューサーだけではなく、スタッフも一流の人材が揃った。
音楽を担当したのは、『ゴジラ』(監督:橋本幸治/1984年/103分)『オーロラの下で』(監督:後藤俊夫/1990年/123分)を手掛けた小六禮次郎。
登場人物の心情にシンクロした、実に印象的な劇伴を付けてくれている。
また、テーマ曲、挿入歌を歌うGood Comingの楽曲にも傾聴してほしい。

キャストも熱演で呼応!

IMG_20180222_123835

ジュンは、野球部のエース。その才能は誰もが一目置く存在だが、性格は子供のままだ。
頭に血が上りやすくカッとなるし、嫌なことからはすぐに逃げる。おまけに、協調性ゼロ。
凄くイヤな奴だけど、目が離せないのは、きっと誰もがジュンみたいな弱さを抱えているから。
それは観ている僕らだけでなく、劇中の登場人物たちも同じで、皆どこか子供っぽい自分に悩んでいる。
特に演劇部のミオ(柴田杏花)とサトシ(鹿毛喜季)は、まるでジュンの欠点の一部をクローズアップさせたような性格。
そんな彼らだから、激しくぶつかり合う。その結果は……観てのお楽しみだ。

ジュンを演じた渡辺佑太朗は、『5つ数えれば君の夢』(監督:山戸結希/2014年/85分)や『101回目のベッド・イン』(監督:サーモン鮭山/2015年/80分)で記憶していたが、今回それらを超える見事な当たり役となった。
主演作『震動』(監督:平野朝美/2012年/74分)が印象的だった川籠石駿平が演じるカズマとのボクシングシーンも必見だ。

『バッテリー』(監督:滝田洋二郎/2007年/119分)で天才中学生ピッチャー役でデビューした林遣都が、母校のOBとして後輩のエースを指導する……実に粋な配役だ。
演劇部での演技指導ではあるが。

ジュン、リョータ、カズマは演技初挑戦(という設定)なので、何から手を付けたら良いのかさえ分からない。
地道に役作りを励む演劇部員のミホやチサトたちとの対比が、素晴らしい。

高校生役のキャストたちの熱演を、宮崎美子、宇梶剛士らのベテラン勢が、どっしりと受け止める。
スクリーンの中で展開される青春ドラマは、撮影現場の雰囲気そのままなのではないか……そんなことすら想像される。

君よ銀幕に熱くなれ

IMG_20180222_123807

そもそも「青春」とは、古代中国の五行思想から色を季節に当てた言葉が転じて、若く未熟な青年期を指すようになったものだ。
人の一生を80年として考えるなら、20年ごとに割り振ればちょうど四季になる。

人生が始まったばかりの、未成熟な季節……青春。
人生の盛りとなる、暑い暑い季節……朱夏。
人生の実りとなる、次世代を育てる季節……白秋。
人生の終わりを待つ、色を失くした季節……玄冬。

だが、そうではない。
人生の節目とは、心の有り様によって変わるものだ。
均等にペース配分を出来る生涯など、どれほどの人が送れようか。

若者よ、断言する。
生涯の全盛期である朱夏なる時期は、短い。
生涯を締め括る玄冬の時期など、更に短い。

人生で一番長いのは、迷いながら足掻く、青春期。
そして、青春を生きる者を育てつつ共に迷いながら藻掻く、白秋期だ。

青春を生きる君よ、
青春に迷う者を育む白秋を生きる君よ、
『野球部員、演劇の舞台に立つ!』は、あなたが、今、観るべき映画なのだ。

IMG_20180222_123737

映画『野球部員、演劇の舞台に立つ!』

2/24(土)〜ユーロスペース/ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13/T・ジョイ久留米 /小倉コロナシネマワールド
3/17(土)〜名演小劇場 ほか

【配給】パンドラ

©2017映画「野球部員、演劇の舞台に立つ!」製作­配給委員会/京映アーツ/コチ・プラン・ピ­クチャーズ