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尾張の中枢・名古屋市から14km、移動時間にして30分の距離に津島市はある。
津島市は愛知県中西部、海部津島地域の中心地で、人口は約6万人。
木曽三川を渡る舟着場「津島湊」として鎌倉時代から発展し、戦国時代には織田信長の経済的基盤を支えたと伝えられる歴史の街である。
全国に3千社あるという津島信仰(天王信仰)の総本社である「津島神社」(津島市神明町1)の、鳥居前町として知られている。

歴史と信仰の街ということもあり、津島市内には寺院の数も多い。
御朱印を頂ける神社仏閣も自ずと多いのであるが、津島市には他に類を見ない特徴がある。
なんと津島市、仏画も描いていただける寺院が、3箇寺もあるのだ。
「牛玉山 観音寺」(津島市天王通6丁目43)「牛頭山 宝寿院」(津島市神明町2)「大珠山 龍渕寺」(津島市瑞穂町1-8)の3山で、しかも1.5km圏内に集中しているのである。

その内の一つ、宝寿院は、元々津島神社の神宮寺で、明治の神仏分離で神宮寺が廃止させてからも津島神社に隣接している。
津島神社の大鳥居(東門)の右手には池があり、その小さな湖沼の水面には宝寿院の山門が映る。
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今回、宝寿院の副住職、落合宥貴さんにお話を伺う機会を得た。
筆者は昨年5月に宝寿院を訪れ、御朱印を頂いたことがある。かいて頂いた宥貴さんにお見せした。

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宥貴 懐かしいですね(笑)。観音寺さんが(仏画を)始められて……あの方は凄く絵が上手なので「こういうのをやってるんだよね」って見せていただいて。私も同じ宗派(真言宗智山派)で歳も近いので、「凄いね!」って。……それで、私も勝手にやり始めたんです。でも、これ(観音寺の御朱印)の隣に描くのが、凄く嫌で(笑)。

Q. 場所も近いですもんね?

宥貴 そうなんですよ!隣りあわせで、うちの御朱印は「ゆるっ!」って(笑)。タッチが全然違いますから。

Q. そうやってお二人が頑張ったので、龍渕寺さんも始められたんですよね?

宥貴 それで、今は“描く御朱印”が3つあるので、津島に来る甲斐はあると思いますね。

Q. 絵入りの御朱印がこれほど近くに固まってるのは、全国でも珍しいようですよ?

宥貴 そうなんですか?でも、本当に歩いて行ける距離ですからね。どうしても御朱印を描くと待ち時間があるので、津島を巡ってもらいたくて……私なんかは「散歩して来やぁ」って言うんですけどね(笑)。

Q. 逆に、地元のPRに使われてしまってることに抵抗はないですか?

宥貴 どうでしょう……でも、うちのお寺の性質上、お葬式をやるお寺と言うよりは、お参りに来てもらうお寺なので、どういった形であれお堂に入っていただいてお参りしていただく切っ掛けになるのは、ありがたいです。なかなか、宣伝にお金を掛けられないですし(笑)。今はお寺が存続するのも大変で、うちも例外ではないので……でも、あんまり「ダメだ」って言っとってもいかんし、ここが踏ん張りどころじゃないですけど、逆に「ピンチはチャンス」くらいの気持ちでいたいと思います。長い目で見てけば、「お寺って、やっぱり大切だよね」って思ってもらえると良いな、と(笑)。

Q. ご縁を結ぶために、御朱印を頂く方は多い気がします。

宥貴 私も、かいてる最中になるべくお話しさせていただくんです。そうすると、「こういう理由で回ってるんだよね」とか、色んな話が聞けたりするので。待ってる方からしても、お寺の人と話す切っ掛けにもなるんじゃないかとも思うんです。そのなかで、けっこう素朴な疑問をぶつけられて、「それは、こういうことなんですよ」とか遣り取りも色々あったりして……私たちにとっては、仏教の布教の意味でも凄く良いなと思いますね。お寺をお参りしても、お寺の人と話すことは中々なかったりするんですけど、御朱印を介して「ちょっと聞きたいんだけど……」ということがあると、嬉しいですね。
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Q. お若いのに、本当にしっかりされてて……

宥貴 いや、若いからこそですよ!……いえ、そんなに若くもないんですが(笑)。このまま行くと、「30年後はお寺ってどうなってるんだろう?」って本当にみんな危機感を持っていると思うんです。昔は何の努力もしなくてもお布施が入ってきて……そういう時代が長かったと思うんですけど、今は情報社会で、あまりいい加減なことをやってると、すぐ淘汰されてっちゃう所があるので。けっこう若いお坊さんの方が、危機感を持ってやってるんですよね。私なんかは、どちらかというと何もしてない方です(笑)。

Q. ちゃんと、後を継ぐ決心もされて……

宥貴 こんな姿になってしまったからには(笑)、「ちゃんとやろう!」というところはあるかも知れないですね。

Q. 宝寿院さんを継ぐというのは、以前から頭にあったんですか?

宥貴 このお寺は母方の実家で、今の住職は祖母なんです。実は、曾祖母もここの住職だったんですよね。別に尼寺って訳ではないんですが、たまたま……気の強い女ばかりだったんでしょうね(笑)。でも、私が継ぐつもりは全然なかったんです。普通に女子大を出て、就職して5年くらい働いてたんですよ。うちのお祖母ちゃんはめちゃくちゃ元気な人だったんですけど、歳を取ってきて、「よく考えたら、お寺はどうなるんだろう?」と気にはなってたんですが、大阪のお寺さんにいる従兄弟がやるのかと漠然と思ってたんです。けれど、大阪のお寺は凄く大きいので、どうやら「ここには来れない」って話になってたみたいで。祖母は「他所のお坊さんに入って、やってもらう」と言ってたんですけど、私はしょっちゅうお寺に来てたので「それも寂しい」と思ったんですね。そこから意識しはじめたような感じでしょうか。

Q. それから、僧籍を取られたんですか?

宥貴 そうです。お祖母ちゃんに「私やるわ」って言ったのが、26歳の時でした。会社をすぐに辞めたりも出来ないので、1年くらい身辺整理をしました。父方はお寺の家ではないので、父に話を切り出すのが、ちょっと……。最初は母も反対していて、けっこう両親には反対されました。でも、今は凄く応援してくれています。と言いますか、ほとんどうちの母と一緒にやってるようなもので……私は、客寄せパンダみたいなもので(笑)。「こういう人もいるんだ」って、それで興味を持ってもらえるのも良いかなと思っています。

Q. 宥貴さんのブログやTwitter、ファンが多いです

宥貴 面白いのは、どこからうちのブログに来てくれたのか追ってみると、“尼僧 剃髪”って検索ワードがあったり(笑)。私なんかは家族がお寺で、結局お寺を継いでるんですけど、お寺とは全然違うお家で育っても仏教が好きで「お寺に行きたい」「お坊さんになりたい」って相談も、よく受けるんですよ。

Q. 剃髪といえば、髪を切るのは抵抗があったのでは?

宥貴 髪の毛を剃ってないお坊さんも幾らでもいますが、私の場合は剃って初めて覚悟が付いたみたいなのはありました。それまで、髪を染めたりパーマかけたり何だかんだやってたんですけど、そのままでは気持ちが切り替わらなかったんで、今考えると剃って良かったのかなと思いますね。

Q. そうか、剃髪は必須ではないんですね?

宥貴 でも、私たちの宗派は必須です。中には髪の毛を剃らなくても良い宗派もあるんですけど、真言宗の場合はお坊さんの資格を取りにいく為には、男も女も一回は絶対頭をツルツルにしないといけないので。お坊さんの資格を取ってからは自由なので、私も別に伸ばしても良いんですけど……何か、伸ばすタイミングを逃しつづけてるんです(笑)。けっこう伸ばすのにも、大変なんですよ……途中が嫌で。二ヶ月くらい生やしっぱなしにしたことがあったんですけど、段々と寝癖が付いてきて……嫌になって、剃っちゃいました。

Q. 今は、毎日剃られてるんですか?

宥貴 そうですね、五枚刃の剃刀で(笑)。

Q. バリカンじゃないんですね?

宥貴 バリカンだと、虎刈りみたいになっちゃうんですよね。私は、やっぱり剃刀が一番しっくり来るかな……鏡なしで剃れますよ(笑)。

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御本尊の薬師如来尊は、宥貴さん曰く「何でも願いを聞いてくださる仏さま」だそうなので、何はなくとも本堂は必ず御参りしたい。

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宝寿院の庭は、四季の花々で仏性を表現しているという。

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釈迦如来の母・麻耶夫人の故事に因んだ、阿吽の象の山門

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伊勢湾台風(昭和34(1959)年)で大きな被害を受けたものの、昭和49(1974)年に再建された地蔵堂

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かつて在った泉の龍神様を祀った御神体が、いつとはなしに願いを叶えるとの伝説が生まれた、重軽さま

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脚元に水琴窟がある、漱水仏

等々など……パワースポットが一杯なので、御朱印を頂いたなら隈なく散策してほしい。

また、仏画入りの御朱印をかいていただける日はブログなどで告知しているので、希望される方は公式ホームページのご確認を。

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宝寿院の縁起は、弘法大師 空海が疫病に苦しむ人々の祈祷をするために開廟した薬師如来堂が始まりだとか。
弘仁9年というから818年……なんと、1200年も前から信仰の対象となっていたことになる。

「津島神社に来たら、お薬師様もお参りしないのは、もったいないですよ!」

1200年の伝統を現在に伝える宥貴さんは、そう言って穏やかに微笑んでみせた――。

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元神宮寺 真言宗 智山派
牛頭山 宝寿院
〒496-0851
愛知県津島市神明町2番地
TEL 0567-25-4154
FAX 0567-25-4199
受付時間:8時~16時

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