2018年1月20日、名古屋シネマテーク(名古屋市千種区)で『恋とボルバキア』(監督:小野さやか/2017年/94分)が封切となり、初日舞台挨拶が開催された。
満員、超満員となった2回の舞台挨拶をレポートする。
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昼の部(12:30~)
小野さやか監督 『恋とボルバキア』は、編集を9ヶ月、構成を50回ほど変えながら……出演者たちの人生の色んな節目に立ち合いながら、やっとこうして公開することが出来ました。井上魅夜(笹倉すず)さんは今名古屋にいるというご縁のある場所になっています。
井上魅夜(出演) 一番最初に思ったんですけど、私、私服のセンスが無いですね(場内笑)。本当に……かっこつけすぎですよね、この頃(笑)。今は少し肩の力も抜けたんですけど、昔のかっこつけてるのも含めて私なので。適当にやってる私の映像を、良くまとめてくれたと思います。でも、この人のせいで散々な目に遭ってきたので、本当にもう(笑)。別れがあったり、酷い目に遭いましたから。
小野監督 私のせいにしないでください。別れたのは、自分のせいですよ(笑)。
井上 カメラって暴力だよ、本当に!でも、そういうのに身を晒しつつ、楽しめましたね。
小野監督 「カメラが暴力である」っていうのは毎回井戸(隆明:出演者)さんとか出演者の方とトークをする度に言われています。恋愛とか親子の関係性とかと、大きなカメラを持って対峙する……人が普通入ってほしくないパーソナル・ラインにどんどん近づいていく訳で、確かに凄く暴力的な装置であるかも知れないです。ただ、それを編集するというもう一つの作業があって、そこで見守り続けてきた訳ですよ。魅夜さんは上手くいってたお店を離れて一回全部が崩れてしまった時に、私に出来ることって話を聞き続けることや、傍にいて一緒に考えることだけだったので。私たちは、そこでどういう風に在り続けられるのか……物凄く考えさせられました。その後ご自分で決めて、愛知県の期間工を選んだんですよね?
井上 身体ひとつで行かなきゃならなかったからね。
小野監督 でも、色々揉めたこととか、別れた方に関して、私がネチネチ言ってたら、「いや、別れた女の悪口は、一切言わん!」って……男らしいなと思いました。
井上 どうせやるなら、かっこ悪いことはしたくないし。向こうもこっちも、ベストを尽くしてそうなったんだから、仕様がない!って思い込むしかないじゃないですか。そんなことよりも、先に進まなきゃいけないんで。
小野監督 撮影を通じて、魅夜さん自身の変化ってありました?
井上 最初は「こういう風に見せないかん」ってかっこつけてたんですが、だんだん解けてきて、自分が生きていくことが表現なんだな……って。でも、何が変わったかと聞かれるなら、何も変わってません。変わってないけど、確認が出来ました。どこの土地でいても、誰と仕事をしても、何をしていても、自分は自分でしかないので。撮影時、埼玉にいた時は本当に酷い目に遭って……父親に縁のある会社でこき使われて、父を恨んだりもしました。でも、それもやっぱり通過儀礼なんで。化粧をしないで一人の男性……一兵卒として倉庫で作業させられて、一般社会が、世間がこんな酷い扱いをするなら、「自分で“世間”を作ったれ!」ってなったんです。東京にいた当時、「女装やニューハーフ、性同一性障害の人は、一般社会に出て行かなきゃいけないんだ!こんな水商売をやってるだけじゃなくて」って思っていたんですが、バカヤロー!って話ですね……「一般社会の方が、ヒデーよ!」って(笑)。自分の世界が広がりましたよね。一言でいえば、「負けてらんねえ」と……自分は自分でしかないなら、どこにいても、誰に対しても、ぶつかっていくしかないよね。そういうのを確認し続けた4年間だったかなという気がします。
小野監督 【女装ニューハーフ プロパガンダ】で運営の方から、【化粧男子】をやっていた魅夜さん、女装雑誌を作っている井戸さん、【男の娘だらけの魔女会】というサークルをやっている王子を紹介してもらって、女装をフックにして大切な居場所を作ってる彼らを凄く尊敬できると思ったんです。皆さん凄く魅力的で、是非撮りたいと思って。魅夜さんは、最初凄く抵抗されました。「メディアなんて、オカマとかオネエとか、皆一緒くたにしやがって!」「お前たちは、私たちの価値をちょっと笑っていい存在としてイメージを作り上げてきたんだぞ」って。私はショックで……自分が無意識に、当たり前のように思っていたのは、自分勝手に作ったイメージだったのかな、と。そういうイメージを一回壊して、ちゃんと人として向き合うことに、この作品の価値があるかなと思っています。
井上 わかりやすくレッテル貼りますけど、みんな微妙に種族が違う。性別はグラデーション、どこに目線を合わせるかで違うので……そんなの、どうでも良くないですか?名前も、性別も、記号ですよね。その人間を分かりやすく提案するための……Twitterのタグと一緒。でも、そこに頼ることで安心できるってことも、あるんですよね。私も、皆さんの作ってくれる“居場所”にくっ付いてて、自分の居場所も作ってるんですよ。何でしょう……アイドルの楽屋にいるマネージャーみたいなものですよね(笑)。
小野監督 作品では色々な人が見られます。魅夜さんの限らず、誰ひとり同じ人はいないので、どこに共感してくれるのかは凄く気になるんですけど……魅夜さんが「また次に新しく人を愛せるのかな?」って言った時に、私は「この台詞を世に出すために撮ってたのか!」と思うくらいに共感したんです。
井上 私は元々舞台の大道具もやってまして、自分で施工した店を錦(名古屋市中区)でやらせていただいています。【若衆bar やまと男の娘】という、錦にしては安いお店じゃないかと勝手に思っています。
夜の部(20:00~)
小野監督 『恋とボルバキア』は前身にテレビ版(NONFIX『僕たち女の子』)があるんですけど、蓮見さん、樹梨杏さんの二人は、映画版で初めて撮影させていただきました。お二人は名古屋の出身なので、こんなに沢山の方に来ていただけて嬉しく思っています。テレビ版で深く掘れなかった部分が撮りたくて、2年間自腹で追加撮影をしました。だから、二人とは3年くらい関わらせてもらっています。初めの2年間くらいは、映画になるのかなんて分からないまま撮らせてもらってたんです。最初は、「ベトナムに行く」って言ってたんですよね?
蓮見はずみ(出演) ベトナムで撮った場面は、1秒も使われてないよね(場内笑)?「ベトナムに行こう!」って言う理由が、3年前にタイムリープ出来るんだったら、ぶん殴ってやりたいって理由でしたしね(笑)。
小野監督 どういう理由でしたっけ?
蓮見 対人恐怖症みたいになって、「気がおかしくなってしまいそうだ」って思ってた時期があって……「知らない国に行けば、私なんて瑣末な存在なので誰も気にしてくれないだろう」、と(笑)。行ってみて2~3日したら、そういう問題じゃないと気づいたんですね(場内笑)。国とか、目立つとか目立たないとかの問題じゃなくて、私の問題なんだ、って。
小野監督 樹梨杏ちゃんは、どうでしたか?
樹梨杏(出演) やっぱり、撮られるのは、凄い嫌でした。一応、【NSM】っていうアイドルグループをしてて、見てほしいのはキラキラしてる自分なのに……プライベートというものは全く見せたくなくて。
蓮見 だけど、小野監督が「お前の“ベトナム”を1秒も使うことが出来なかったから、どうにかしてくれ」って、ずっと言われ続けてたので(場内笑)。
樹梨杏 いつもだったら、「無理なことはやらなくても良いよ」って言ってくれるんですけど……「これだけは、お願い!」って(場内爆笑)。
小野監督 樹梨杏ちゃんが凄くいいのは、一番初めの撮影から、切実な本音をカメラの前で話してくれたんですよね。大事に撮らなきゃいけないなって思いました。撮りながら、こちらも傷つくんですよ。
樹梨杏 とにかく、辛かったです。一回別れる、別れないって話になった時、「それ撮らせて」って言われたんですね。時間が解決してくれることってあるじゃないですか、「今は喋りたくない」ってことも。それを無理矢理話させるんですよね、理由とかを。それをすることによって別れちゃうかもしれないのに……これ、別れた方が映画になるからってことなのかな?って(場内笑)。仲良くなるにつれてLINEも増えたんですけど、「別々の道でも応援したい」とか……おいおい!と思って(場内爆笑)。何回も何回も電話してケンカして……キツかったですね、本当に。メンバーにも凄い愚痴ってたし(笑)。
小野監督 樹梨杏ちゃんに「本当に別れたりしたら、どうしてくれるの?」って言われて。ドキュメンタリーとして凄く大事なシーンだけど、本当に二人の人生を考えた時に、どうなのかな?とは思いました。はずみちゃんの方が、結構「大丈夫だよ」って受け入れてくれましたけど。
蓮見 小野監督は、「撮られて、映画になると、絶対に意味があるから!」「被写体になって、作品が出来上がったら、ギフトがあるから!」ってことをずっと言ってたんですけど……私、撮られてる時からずーっと「そんなもん、ねぇよ!」って思ってました(場内笑)。樹梨杏は「偽物レズビアン」って言われて悲しんでいたんですけど……もちろん、そう言った人には腹立たしい気持ちになりましたが、何もしてあげられない。自分と付き合ってるから、そう言われる訳で。自分も、女の子と付き合っていることによって「お前なんか、偽物じゃん」って言われたこともあるし。でも、“レズビアン”って感覚ないんですよね。女の子は別に好きじゃないし……そんな風に、自分も悩んでて答えが出てないのに、監督からも、こっち(樹梨杏)からも「答え出せ!」みたいなのがガンガン来る訳ですよ(場内笑)。「答えなんか出ねぇよ!」ってずっと言ってるのに……例えば、「指輪の意味は?指輪の意味は?」って……
小野監督 あの時、「指輪の意味は?」って聞かれて、普通に「君のこと愛してるからだよ」で良いじゃん?何でそんな風に逆上してるの?
蓮見 カメラって、怖いですよ。この人(樹梨杏)が主体的に言ってる訳じゃないんですよね。小野がカメラ回しながら(小声で)「指輪の意味は?指輪の意味は?」って(場内笑)。
小野監督 正直言って良いですか?指輪をもらったことがないんですよね。だから、憧れがあって……指輪を贈る=凄い関係性だって妄想が膨らんでたから、もう聞いとけ!って(笑)。『君の名は。』みたいに(場内笑)。二人を撮る上で、一緒に生活している一部として、寝てるシーンは欲しかったんです。でも、寝室を撮るのはNGだったので……ベッドのシーンがあるんですが、あそこは本当にお願いして撮らせてもらったんです。何て説得したか、憶えてます?
蓮見 ……憶えてるんですか?
小野監督 もちろん、憶えてます。「オノ・ヨーコと、ジョン・レノンだよ!」って(場内笑)。
蓮見 そんな陳腐な言葉で、納得しないですよ(笑)!憶えてないけど、何でも良かったんですよ。撮って良いから、早く帰ってくれ!って(場内爆笑)。
小野監督 『恋とボルバキア』は、男とか女とか、LGBTとか、そういう言葉に全く収まらない人たちの話で、それは撮りながら、OKシーンを並べた時に、偶発的にそうなったんです。出てる人たち皆この映画に中だけではなくその先もあって、皆さん是非また映画に出てる主人公たちと出会ってほしいと、見続けてほしいなと思います。この映画は、「出てくれた人の人生が、もっと楽しいものになるよう」思いを込めて作りました。
蓮見 小野さやかという監督が作った作品が世に出て、色んな人が目にしていただいて、それがどんどん広がっていって……また小野さやかが、近い将来映画を撮るチャンスが一秒でも早く来れば良いなって、思ってます。私の友達のために、こんなに沢山のお客様が集まってくださったことを心から感謝して……厚かましいんですが、そんな皆様が「 #恋とボルバキア 」とかでTwitterに呟いていただいたり、Facebookで「『恋とボルバキア』を観てきました」と書いていただいたりして、それを皆さんでリツイートしていく、と(場内笑)……マーケティングの話でした(場内爆笑)。
樹梨杏 私も、色々ありましたけど……映画になって、こうして出来た作品を皆が観に来てくださるってことは本当に嬉しいです。本当に、ギフトだと思っていますので、ありがとうって気持ちで一杯です。観て、何かを感じていただけたらと思っています。
名古屋シネマテークでの『恋とボルバキア』上映スケジュールは、1月26日(金)までは12:30と20:00の2回、1月27日(土)~2月2日(金)は17:40となっている。
井上魅夜の奮闘に、蓮見はずみの苛立ちに、樹梨杏の逡巡に……映画館の暗闇に、あいに来てほしい。
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