『冬のソナタ』を大ヒットさせ、日本でも“ヨン様ブーム”など社会現象を巻き起こした“韓流”の立役者といえば、御馴染ペ・ヨンジュンだ。
そのヨン様が、『冬ソナ』のイメージを払拭すべく当時80本以上のオファーの中から選んだのが、初主演作『スキャンダル』である。
『スキャンダル』は公開当時「韓国映画最多週末観客数記録」など数々の記録を塗り替え、ペ・ヨンジュンは韓国最大の映画祭典【青龍映画賞】で新人男優賞(2003年)にも輝いた。
ペ・ヨンジュンにとって、それまでの誠実なイメージを一新した『スキャンダル』は、“ヨン様の呪縛”から自らを解き放ち“俳優ペ・ヨンジュン”として大スターの地位を不動のものとした、記念碑的映画である。
2004年には日本でも公開され、プレイボーイを熱演したペ・ヨンジュンは大評判。当時の興行収入は9億円にも上った。
そんなペ・ヨンジュン初主演作『スキャンダル』が製作から15年の時を経て、デジタルリマスター版として劇場に帰ってきた。
『スキャンダル』ストーリー
18世紀末、李氏朝鮮時代の泰平の世を享受する朝鮮半島。貴族夫人として優雅に暮らすチョ婦人(イ・ミスク)は、ゲームのような恋愛の駆け引きを生き甲斐にしていた。自分に子宝が恵まれないため夫が愛妾・ソオク(イ・ソヨン)を娶ることが面白くないチョ婦人は、一計を巡らす。それは、従兄弟チョ・ウォン(ペ・ヨンジュン)にソオクを犯させるという、文字通りの姦計である。
だが、名うてのプレイボーイであるウォンは、これを拒否。16才のソオクを陥とすことなど容易すぎるとして、標的の変更を願い出る。ウォンがターゲットに指名したのは、熱心な天主教教徒のスク婦人(チョン・ドヨン)。初夜の直前に夫を亡くした悲劇の未亡人で、それから9年間もの長きに亘って貞節を守り続ける、筋金入りの淑女である。
賭けの成功報酬は、初恋の相手でもあるチョ婦人の肉体、失敗の代償は、出家して禁欲の身。果たしてウォンは、この恋愛ゲームを物にすることが出来るのか――。
華やかなキャスト、雅やかなステージ
雅やかな朝鮮王朝を舞台に恋愛ゲームを繰り広げるのは、韓国を代表する華やかな俳優陣である。
天使のような貞潔で処女を守り続けるスク婦人を演じるのは、今や韓国を代表する人気女優となった実力派チョン・ドヨン(『シークレット・サンシャイン』監督:イ・チャンドン/2007年/142分)。
魔女のような氷の微笑みで人々を手玉に取るチョ婦人役には、『造られた殺人』(監督:ノ・ドク/2015年/125分)などで抜群の存在感を示すイ・ミスク。
無邪気な笑顔と幼さも残る瑞々しい肢体で観客を魅了するソオクには、『わたしたち』(監督:ユン・ガウン/2016年/94分)のイ・ソヨン。
そして、稀代の女たらし・ウォンを堂々とした立ち居振る舞いで演じ切ったペ・ヨンジュンには、尋常ならざる凄味を感じた。
監督は、『世界で一番いとしい君へ』(2014年/117分)『バッカス・レディ』(2016年/111分)などのイ・ジェヨン。
朝鮮王朝時代というさながら絵巻物の如き優雅な舞台設定が、背徳感溢れるシナリオに見事に嵌り、衣装や小道具などの舞台装置も瞬き禁止の豪華さだ。
また、未亡人であるスク婦人を、劇中の時代に伝来したばかりのキリスト教(天主教)の教徒にした設定も揮っている。
19世紀に実際に起きた巡威島の宗教弾圧や、フランスとの紛争の原因になった丙寅教獄を彷彿とさせる展開もあり、緻密に練られた物語に唸らされること請け合いだ。
原作はフランスの古典恋愛小説
本作は、スペイン系ユダヤ人ピエール・アンブロワズ・フランソワ・コデルロス・ド・ラクロが1782年にフランスで出版した恋愛小説『危険な関係』(Les Liaisons dangereuses)が原作となっている。
書簡のみで構成されるという大変珍しい恋愛小説で、作者のピエール・コデルロス・ド・ラクロが職業軍人だったこともあり、巧みな心理を描いた作品として230年以上を経て尚愛されている名著だ。
しかも、内容が背徳的なこともあり、発行当時から眉を顰められつつ読み継がれてきた。
かのフランス王妃マリー・アントワネットが、表紙を差し替えて密かに愛読していたという逸話も、『危険な関係』ならさもありなんと思わざるを得ない。
この“心理小説の元祖”とも謂われている原作、実は多くの映画で取り上げられている。
1959年のロジェ・ヴァディム監督版、1988年のスティーブン・フリアーズ監督版、2003年のジョゼ・ダヤン監督版、日本でも、1978年の藤田敏八監督版と、多くの作品が『危険な関係』のタイトルで制作されている。
もっとも記憶に新しいのは、ホ・ジノ監督版の『危険な関係』(2012年/110分)だ。チャン・ドンゴン、チャン・ツィイー、セシリア・チャンというアジアン・ビューティの豪華共演が大変に話題となった作品で、舞台は1931年の上海だった。
だが、今観返しても『スキャンダル』は、どの作品にも見劣りすることはない。
原作に無くてはならない“手紙”が、『スキャンダル』劇中でも非常に効果的な小道具となっていることに注目したい。
そして、スキャンダラスに振り切らず、メランコリックに偏らず、観客が雅な恋愛ゲームから目を離せなくなる絶妙なバランス感覚に酔い痴れたい。
ヴァルモン子爵たるウォンにも、メルトイユ侯爵夫人たるチョ婦人にも、ツールヴェル夫人たるスク婦人にも、セシルたるソオクにも……原作とは違った運命が待っている。
『スキャンダル』未観の映画ファンは、この機会に是非。
15年前に鑑賞した方も、更に面白く観られること請け合いだ。
氷の湖面に咲く寒椿に、是非とも共に泣こうではないか――。
『スキャンダル デジタルリマスター版』
2018年1月20日(土)より名演小劇場ほかロードショー
監督:イ・ジェヨン
原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ『危険な関係』
キャスト:ペ・ヨンジュン、イ・ミスク、チョン・ドヨン、イ・ソヨン、チョ・ヒョンジェ
作品情報:2003年/韓国/124分/カラー/R18+
配給:ハーク
©2003 BOM FILM PRODUCTION CO,. LTD. ALL RIGHTS RESEVED.
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