『映画ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(監督:芝山努/1988年/90分)、『ぼくの孫悟空』(監督:杉野昭夫/2003年/94分)、『西遊記』(監督:澤田鎌作/2007年/120分)……そして、忘れちゃいけない『珍遊記』(監督:山口雄大/2016年/100分)。
私たちは、『西遊記』が大好きだ。
『西遊記』……16世紀の中国、明代に大成したと謂われる伝奇小説。
唐の時代、乱れた世を憂えた玄奘三蔵(三蔵法師)が孫悟空、猪八戒、沙悟浄を供に従え、遥か遠い天竺へ仏教の経典を求め旅をする、第百回にも及ぶ大長編物語である。
実在の人物である玄奘が中国、インド間を往復した壮大な取経の旅路を著した『大唐西域記』を基にしているとされ、原作者は呉承恩(射陽山人)とも丘処機(長春真人)とも謂われているが、決定的な確説は出ていない。
中国四大奇書の筆頭に挙げられる『西遊記』は、成立から400年、玄奘の取経から1300年を経た現代においても尚、日本のみならずアジアを中心とした世界中の人々を魅了し続けている。
もちろん、“本場”である中国が例外であろう筈がない。
だから、私たち映画ファンは、『西遊記 はじまりのはじまり』(監督:チャウ・シンチー/2013年/110分)や『モンキー・マジック 孫悟空誕生』(監督:ソイ・チェン/2014年/119分)など、近年豊作の“中華圏発信の西遊記”には俄然注目する。
チャウ・シンチー版の“妖怪ハンター”的な設定やキャラ造形に心を躍らせ、ドニー・イェン演じるキレッキレの悟空に胸をときめかせ、「ああ、やっぱり『西遊記』は凄い!」と感嘆する。
だが、“衝撃的西遊記之最大級”は、こちらが真打だったのだ。
1月13日より全国ロードショーが始まる、ティエン・シャオポン(田暁鵬)監督『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』である。
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』ストーリー
猿の妖魔・孫悟空(日本語吹替版:咲野俊介)は自分の力を過信し、天界に反旗を翻した。天にも斉(ひと)しい大聖者“斉天大聖”を自称するその力は絶大で、神々も苦戦を強いられるが、釈尊には歯が立たず、悟空は岩の中に封印されてしまう。
それから500年、人間界では妖怪が度々出没し、人々を苦しめていた。妖怪のせいで両親を失った修行僧の少年・江流児(リュウアー:羽村仁成)は、師匠であり育ての親である法明(麦人)との托鉢の途中、大妖・混沌(子安武人)配下の妖怪たちに出くわす。
赤子をさらおうとする妖怪から女の子を助けたリュウアーは、自分も狙われる破目になる。師匠とはぐれ、這う這うの体で逃げるリュウアーは、氷に閉ざされた山の洞窟に逃げ込む。そこは、“斉天大聖”孫悟空が封じられた五行山であった――。
アクション!シナリオ!!世界観!!!
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は、フル3DCGアニメーション作品で、ティエン監督によると構想に8年、制作に3年が費やされた超大作だ。
先ずは、最大の特徴である凄まじいアクションシーンを堪能していただきたい。
ハリウッド作品に匹敵するほどの3DCG技術、キャラ造形、中国のお家芸・カンフー(功夫)を活かしたアクション・シークエンス、そして、斬新な構図とフレームワーク。
観ているだけで身体が勝手に動きだす、超弩級の冒険活劇に目を奪われるはずだ。
また、深みのあるストーリーと練り上げられたシナリオを注目してほしい。
500年の眠りから覚めたとはいえ、お釈迦様の封印が解けきっていない孫悟空は、筋斗雲には乗らないし、如意棒も振るえない。私たちがよく知る悟空ではないのだ。
力も自信も失くした猿の妖怪が如何に“斉天大聖”に戻るのか、手に汗を握ること間違いなしだ。
そして、原作のイメージを崩さない、絶妙な世界観が構築されていることに刮目したい。
いや、「あのキャラクター、実は……」等、余計な知識は不粋なネタばらしにしかならないのかも知れない。
ティエン監督によると既に続編を構想中だそうなので、今後の物語も含め、乞うご期待だ。
熱烈歓迎!待っただけのことはある!!
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』は度重なる資金難を何とか乗り越えて完成に漕ぎつけた作品だそうで、宣伝費はほとんど残っていなかったとか。
だが、そのクオリティの高さに口コミが大きな広がりを見せ、2015年なんと中国制作アニメ歴代1位となる興収192億円の大ヒットを記録した。
さらに、【東京アニメアワードフェスティバル2016】では、コンペティション部門長編アニメーション優秀賞を受賞。
一般公開を今か今かと待っていたが、時間はどんどん流れ、せっかく申だった干支も戌年になってしまった。
だが、待っただけのことはある。
宮崎吾朗監督(『ゲド戦記』『コクリコ坂から』)が日本語版の製作総指揮を務め、作品世界を壊すことのないシナリオ翻訳を成し遂げた。
また、綺羅星の如き錚々たる声優陣が集結、重厚なドラマに相応しい素晴らしい仕事をした。
真紅のマントが翻る時、真っ赤な双眸が開かれる時、
守るべきものを見付けた時、強者は大聖になれるのだ。
そして、正義感しか持たない非力な子どもリュウアーが「大聖を助けなきゃ!」と叫んだ時、観客は劇中の師匠と同じように、英雄の誕生を胸に刻み込む。
確固たる信念を持った時、人は英雄になれるのだ。
大聖と英雄、二人の“ヒーロー”が到来する2018年、素晴らしい一年を予感せずにはいられない――。
映画『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』
1月13日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:田暁鵬(ティエン・シャオポン)
日本語吹替制作監修:宮崎吾朗
提供:アクセスブライト、VAP
配給:HIGH BROW CINEMA
©2015 October Animation Studio,HG Entertainment
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