江藤良香(えとう よしか)
10月生まれ B型 雪国育ち 一人っ子 彼氏なし
絶滅した動物が好き wikiで調べてて気付いたら朝になってることもあるくらい好き

これが、12月23日(土 祝)より全国ロードショーが始まる、大九明子監督『勝手にふるえてろ』の主人公。

ヨシカは、故郷を離れ東京で一人暮らしをしている、24歳の事務員。会社では経理課で席を並べる来留美(石橋杏奈)くらいしか友だちはいないが、人形のようなウェイトレス(趣里)、最寄り駅の真面目な駅員(前野朋哉)、週末に見掛ける釣り人(古舘寛治)、オカリナ好きの隣人(片桐はいり)など、話し相手には事欠かない。
そんなヨシカに告白してきたのは、見た目もファッションもイマイチで、常に事後承諾で行動する営業マン(渡辺大知)。好きになることをどうにも躊躇うヨシカは、密かに彼のことを「ニ(2)」と呼んでいる。
と言うのも、ヨシカには想い人がいるのだ。教師以外とはろくに会話もなかった中学時代、唯一話した男子生徒(北村匠海)は、自作マンガの主人公にしたほどの王子様。10年以上経った今でも片想い中の彼こそが、ヨシカにとっての「イチ(1)」なのだ――。

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「ニ」を演じる渡辺大知が、素晴らしい。
『色即ぜねれいしょん』(監督:田口トモロヲ/2009年/114分)での主役抜擢という衝撃の銀幕デビューが今も印象的な渡辺は、『モーターズ』(2015年/83分)で映画監督としても非凡な才能を見せてくれた。
今作では冴えないサラリーマンにこれ以上ないほど嵌ってみせただけでなく、主題歌『ベイビーユー』でロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカリストというもう一つの顔をしっかりと印象付けた。

また、ヨシカの同僚・月島来留美役、石橋杏奈の好演が光る。
『マイ・バック・ページ』(監督:山下敦弘/2011年/141分)、『泥棒役者』(監督:西田征史/2017年/114分)など役を選ばないナチュラルな顔を更新し続ける感のある石橋は、前述の『色即ぜねれいしょん』では渡辺大知と共演している。
今作では、主人公の親友という立ち位置の難しい(実に!)役を、事も無げに演じ切った。独特なバランス感覚を持つ石橋は、絶妙な演技で作品に華を添えてみせた。

もう一人、「イチ」役の北村匠海の存在感も、忘れる訳にはいかない。
劇中、10年という長いスパンを一人で表現する難役をこなしただけでも特筆ものであるが、たった一言の台詞で役柄の印象をがらりと変える緊迫感は、北村だけが持つ特殊能力である。
それは、短いながらも登場するたびに観客の目を奪った『ディストラクション・ベイビーズ』(監督:真利子哲也/2016年/108分)を思い起こさせた。

そして、綺羅星の如き輝きを放つバイ・プレーヤー達の活躍を、観逃さないでほしい。
趣里、古舘寛治、片桐はいり、前野朋哉、池田鉄洋、稲川実代子、柳俊太郎、後藤ユウミ……
長いとは言えない出番に似つかわしくない爪痕が、次々とスクリーンに刻まれていく。

しかし、そんな充実したキャスト陣を向こうに回し、見事に主役を演じ切った女優について語らない訳にはいかない。
『勝手にふるえてろ』が初主演となった、松岡茉優その人である。

松岡茉優(まつおか まゆ)
1995年2月16日生まれ B型 東京都出身 妹あり
『ちはやふる 下の句』(監督:小泉徳宏/2016年/103分)『桐島、部活やめるってよ』(監督:吉田大八/2012年/103分)などが代表作と言われるが、『サムライフ』(監督:森谷雄/2015年/118分)『はじまりのみち』(監督:原恵一/2013年/96分)『悪の教典』(監督:三池崇/2012年/129分)など、出演作すべてが記憶に深く刻まれる、若手屈指の実力派である。

今作が初主演であること自体に驚きを禁じ得なかったほどに華のある松岡茉優であるから、元よりヨシカのイメージには程遠い。
だが松岡が演じれば、「恋愛ド素人」なOLが、引っ込み思案な中学生が、銀幕に現れるのだ。
松岡茉優は、華だけでなく、実もある女優なのである。

原作は、綿矢りさの同名小説。
綿矢作品特有の、金言からの引用かと疑ってしまうほどの会話、モノローグの数々は、言語化が難しい。
発音、抑揚、発声、速度、そして、感情……すべてに高い水準が求められる。
しかも『勝手にふるえてろ』は、圧倒的に台詞の量が多いのだ。

「本能のままに生きるなんて、野蛮。野蛮で承服しかねます」

「視野見です。私の造語なんですけどね。中学の頃にこうやってイチのことずっと見てました」

「こういう個人的な話、普通はSNSでするんですってね。私、無理。だって、世の中の役に1mmも立たないこんな私事を、世間に発表する勇気なんかないわ」

「やっちまったーって思ったもん。本能側の人間になりさがっちゃったって」

「その変な文は、私とイチが精神的に繋がっている証なんです。だから先生、それ自分の手柄にしないで」

「急!現実って、急!あの猥雑なホテル街のリアルなことよ。一見醜い現実こそ、美しいのかもなぁ」

「とにかく一刻も早くやりたいことをやっておかないと人間死んじゃうって、私わかったんです」

「なるほど、孤独とはこういうことか」

台詞を「生きた話し言葉」にする為に、どうしても二人の才能が必要だった。
一人は、話し手である主演、若き天才女優の松岡茉優。
そして、もう一人、大九明子監督である。

『恋するマドリ』(2007年/113分)は、大九監督の台詞への拘りが溢れた作品だ。
新垣結衣も、松田龍平も、菊地凛子も、まるで素の自分を表現しているようで、登場人物たちの会話は観る者の耳に、心に、ストンと落ちる心地好さがあった。
『恋するマドリ』から10年、大九監督は数々のメガホンを取ってきたが、監督、脚本の両方を務める長編作品は『勝手にふるえてろ』が久々となる。

綿矢りさの原作、大九明子の脚本、演出、松岡茉優の演技……3人の類稀なる才女が集い、傑作が生まれた。
金言のような言葉たちは、生命を吹き込まれ、まるで詞華集の如き輝きを放つまでに昇華されたのだ。

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映画『勝手にふるえてろ』は、ポップなラブ・コメディであり、拗らせ女子の成長物語であり、世代を超えた青春ストーリーである。
そして、究極の会話劇である――直接的にも、逆説的にも。
この意味は、ご覧になったなら必ずや膝を叩いてもらえるものと信じている。

劇中、15秒という少々長目の暗転があるので、ここをお観逃しなく。
ここをターニング・ポイントにして、作品世界はガラリと趣きを変える。
『アンモナイト』に問い掛けるヨシカの心の叫びが、音符となって踊る――「絶滅すべきでしょうか?」
そんな、世界イチ贅沢な暗闇と、沈黙を味わうには……やはり、映画館が相応しい――。

『勝手にふるえてろ』
12/23(土・祝)新宿シネマカリテ、センチュリーシネマほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム

©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

映画『勝手にふるえてろ』公式サイト