シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で開催されていた【MOOSIC LAB 2017 名古屋編】が、12月1日(金)好評のうちに幕を閉じた。
先日、『なっちゃんはまだ新宿』についてレポートしたばかりだが、衝撃のニュー・カマーは首藤凜(しゅとう りん)監督に留まらなかった。

11月30日(木)、シネマスコーレに足を運んだ映画ファン達は、衝撃作を目にすることになったのだ。
この日の【MOOSIC LAB 2017 名古屋編】は【Fプログラム】、
『ぱん。』(監督:阪元裕吾・辻凪子/2017年/15分)
『ゆれてますけど。』(監督:辻凪子/2016年/11分)
『べー。』(監督:阪元裕吾/2016年/38分)
の3本が上映された。
【MOOSIC LAB 2017】作品『ぱん。』と、辻凪子監督の処女作『ゆれてますけど。』、阪元裕吾監督の過去作『べー。』という、名古屋ならではの作家性の強いプログラム構成だ。

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この日は阪元裕吾・辻凪子両監督が舞台挨拶に立つとあって、平日のレイトショーとは思えない程の大入りだった。

『ゆれてますけど。』ストーリー

大学生のゆり子(辻凪子)とその家族は、変わった習性を持っている。貧乏ゆすりのように足がずっと揺れているのだ。
ゆり子は、講義中に隣り合わせた山田くん(北村勇気)に恋をする。ゆり子の恋は、時間を、空間を、人種を、種を、超越していくのだった――。

坪井篤史(シネマスコーレ副支配人) では、『ゆれてますけど。』が出来た切っ掛けを教えてください。

辻凪子監督 私は京都造形(芸術大学)の映画学科に通っているんですけど、青山真治さんのゼミを取っていまして、2回生の時「仕草で映画を作ろう」みたいな企画があったんです。私が電車に乗ってる時、目の前に両足メッチャ貧乏ゆすりをしてる凄い方がいまして、「貧乏ゆすりを題材に映画を作りたい」という企画を出したんです。『Mr.ビーン』が大好きで、小っちゃい時にメッチャ観てまして、机のシーンとかはそこから来てます。

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坪井 僕は『ぱん。』を観てから『ゆれてますけど。』を観たんですけど、ギリギリのラインでした(笑)……一個間違えたら大惨事になるところギリギリの。タライのシーンとかは賛否両論だったんじゃないですか?

辻監督 メッチャ迷ったんです、どうしようか!

阪元裕吾 でも、最初から「タライを落とす」っていうのは決まってたよね?

辻監督 もう一個、「ペンキをバーッて落とす」って案もあったんです。コケる可能性もちょっと考えてたんですけど、青山さんとも喋ってて「タライしか無いな」と。

坪井 青山さん、タライOK出したんですね?

辻監督 そうなんですよ!ビックリしました。でも、メッチャ硬いタライを買ってしまって、先生に「これ使ったらアカン!」って怒られて(笑)……カツラの中にザルを仕込んで、安全対策をしたんです。それで、あんな展開に(笑)。

坪井 阪元さんは、最初からカメラの予定だったんですか?

阪元 そうですね。何個かアイデアを出したりもしましたが……長い時間カメラを置いて、日が暮れていくシーンとか。

辻監督 あのシーンは、私とスタッフ4人で頑張りました。

阪元 ワンカットで、1回しか撮ってないんです。

辻監督 傍(はた)から見たらヤバい人と思われたでしょうね(笑)。

阪元 『青い春』で新井浩文さんの屋上のシーンがあるじゃないですか、あんなんやったら面白いやろな、と思って。

辻監督 アイデアを下さったんですよ(笑)。

阪元 「これ、どう?」って見せたら、「ああ、良いですね」って……「え、マジでやるの!?」ってなりましたけど(笑)。

辻監督 「鳩40羽」も、メッチャ頑張りました!

阪元 あれ、俺一回消しちゃって……

辻監督 そうそう!それも、OKシーン以外、全部消されたんですよ(笑)。

阪元 いや、分かんなくて……誰も教えてくれないんですよね、先生とか。

辻監督 映画って、色々選択肢があるじゃないですか、編集中に。それが、1つのシーン1個しか無いから……それだけで頑張りました。逆に良かったんですけどね、それしか使われへんから。

阪元 バックアップ取るとかも知らなかったですし、元データが分かれてるとかも知らなかったんで……

辻監督 結局、「鳩のシーン」は、撮り直しました。

阪元 「本当に、本当に……」みたいな地獄のような長文LINEを……「もう一回します……同じことをします」って。

辻監督 メッチャ謝ってた(笑)!食パンで鳩を集めるのも、大変で……カラスが1羽来たら、飛んでっちゃうし。

阪元 観光地みたいな場所だったんですよ。

辻監督 平安神宮の前だったんです(笑)。

坪井 『ぱん。』は競作ですけど、もう1本あるんですよね?

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辻監督 『しあわせのオカメウンコ』(監督:辻凪子・村上由規乃/36分)という映画があります。やはり青山さんのゼミで、3回生の時に撮った作品で、映画を撮るためにオカメインコを飼いました。『ひなぎく』が好きで、ああいう映画が撮りたいと思ったんです。

坪井 阪元さんも、何か関わってるんですか?

阪元 俺は、全然何も……

辻監督 ゼミが違うんですよ。

阪元 結構、アイデアは何個か出したんですけど……あまり採用されなかったんです。

辻監督 (笑)。でも、全然ちゃうよな、『ゆれてますけど。』とは?

阪元 もうちょっとこう……

辻監督 お洒落な感じと言うか……

阪元 「学生が撮る自主映画」ですね(場内笑)。

坪井 (笑)。『ゆれてますけど。』を撮ったのは……

辻監督 19歳の時で、初めて撮りました。「幼稚園の時に書いた字」みたいな感じですね(笑)。

坪井 そんなことないですよ!

辻監督 でも、学校ではメッチャ高評価やったな?

阪元 「メチャクチャ面白い!」って言われましたよね。

辻監督 高橋伴明さんが「ショートムービーの天才や!」って(場内笑)!

『べー。』ストーリー

美大生・祐樹(吉井優)は、キレたら見境がない暴力的な一面を隠し持っている。
だが、祐樹の暴力は、彼女・千春(辻凪子)への愛情表現であった。
強請り屋と婚約者、絶対的ヤンキー、そして通り魔……祐樹と千春は、愛を貫き通すことが出来るのか――?

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阪元監督 『べー。』は全然タイトルが決まらなかったんです。撮影が終わって、編集が終わって、予告編作っても、まだ決まらなくて。「映画祭(学生残酷映画祭2016)に明日出すけど、どうする?」って……色々案が出て、『ストロベリー・シャーベット』とか(笑)。で、出演者の一人が「『べー』でええんちゃう?」って言って。

坪井 「あっかんべー」してるシーンは、元からあったんですよね?

阪元監督 元からあったんですけど、深い意味は無かったんですよ……タイトルに繋げて撮った訳ではなく。

坪井 いつ撮った作品なんですか?

阪元監督 20歳ですから、去年……去年の7月ですね。

坪井 観る人によって、ある人にとっては凄惨な映画、ある人にとっては究極のラブストーリーだと思います。阪元さんは、どこを軸で撮ったんですか?

阪元監督 やっぱり、ラブストーリー……毎回、色んな人に「これは、ラブストーリーです」って言いましたね。その頃は、僕に彼女もいて気分が良かったんです。その子とデート中にイチゴのかき氷を食べてて、「べーって、して」って言われた時に「これで血が出たら面白いな」って思ったのが一発目ですね。

 初めて知りました(笑)。

阪元監督 それが脚本を書いてる時で、それからどんどん俺の人生に暗雲が立ち込めてくるんです。……フラれたり、財布失くしたり、眼鏡失くしたり、色々あって、撮影中は「うわぁ!!」ってなってたのかも知れないですね。脚本に全く無かったキャラクターを追加で出したり(笑)。その二人組の1人に殺陣を任せたら、あんな感じになりました。

坪井 あれは、どこのトイレなんですか?

阪元監督 大学のトイレです。許可を取って、何気にシートも敷いて、ちゃんと真っ白な状態に戻しましたよ。

坪井 ちょっとユーモアも入りますよね、気付かずに出て行く人がいたりして?

阪元監督 あれは、『アウトレイジ』の中華料理屋から……

坪井 なるほど(笑)。ところで、学生残酷映画祭でグランプリを獲るって、思ってました?

阪元監督 全然思ってなかったです。そもそも、脚本書いてる時は、サークルを作ろうとしてるフィリピン人のリーダーがいて、そいつに見せたら「コンナノ作レナイヨ」って言われて。でも俺は、ラブストーリーで、ぶっ殺す話が絶対撮りてぇ!って思ってたんで、押し通してたんですよ。サークルだったので映画学科じゃない子たちと一緒に、ロケハンとかしてたんですけど……キレ出して、そのフィリピン人が(場内笑)。「ナンデ勝手ニ、ろけはんスルノ!?」「私ニ、何デ報告シナイ?」って……ふざけんじゃねぇってことで、そいつとは縁を切って、新しいチームで作ったんです。凄い急ピッチで……5日間くらいで撮ったんですけど、半分くらいは1日で撮ってるんです。

坪井 辻さん、如何でした、出演されて?

 もう、「すぐ終わった!」って感じでした(笑)。どのシーンも、ほぼ一発(OK)で。

坪井 食事のシーンは、長回しで撮ってますね?

阪元監督 あれも1日で……5時間くらいで撮ったんですかね。殺陣を任せた出演者の部屋です。いつもドンチャン騒ぎしてる場所なんです。

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 爆発してて。

阪元監督 あ、一回爆発しましたね。

 カラアゲ揚げすぎて(笑)。真っ黒ですよ、USJのセットみたいな。

阪元監督 高温で、油に火が点いちゃって……バカだから、水を掛けたら、「ドーン!」って!

坪井 (笑)。それは、撮影の後の話なんですか?

阪元監督 いえ、撮影の前ですね(笑)。

坪井 グランプリを獲ってみて、如何ですか?

阪元監督 いや、本当に自信が無かったので……クソミソに言われてたんです。録音部の子に「画が汚ねぇ」とか。映画学科で上映しても、「脚本“は”良かった」みたいなことしか書いてくれなかったり。でも、残酷映画祭に行ったら、凄く褒めてもらえて。

坪井 ホンモノの人には響くんですよ。白石(晃士)さんとか、いらっしゃったんでしょう?

阪元監督 あと、『クソすばらしいこの世界』の朝倉加葉子さんとか、田野辺(尚人)さんとか。本当に、良かったです。でも、ラブストーリーはこの映画が最後ですね。次の『ハングマンズノット』っていう映画は、(『べー。』の)あいつらの続きから始まります。

坪井 じゃあ、辻さんは?

阪元監督 別の役で出ています。

 それもグランプリ獲ったんですよね、金沢で(カナザワ映画祭2017期待の新人監督グランプリ)。

坪井 やっぱり、ホンモノには響くんですよ。これを20代前半で撮るのって、凄いです。

『ぱん。』ストーリー

通学前にパン屋でアルバイトをしている小麦(辻凪子)の朝は早い。 
ある朝、意地の悪い店長(海道力也)とアルバイトのインド人留学生(モハン・マヌ)の諍いに巻き込まれ、小麦は隠し扉を開けてしまう。 
扉の向こうは、楽団(フライデイフライデー)の演奏が鳴り響く、怪しげな工場だった――。

坪井 『ぱん。』は、東京と同じように、名古屋でも短編グランプリです。

阪元監督 ありがとうございます。

坪井 あそこまでやってもそんなにメチャクチャ感が無く、15分の枠の中にちゃんと収まってるというのは、観る人たちのことを考えられてるんだと思いました。お二人が揃うとああいう奇跡的なことが起こるんだなと感じたので、グランプリに相応しいと思ったんです。今回は競作ですが、作る上で如何でした?

阪元監督 あんまり、何も揉めなかったよね?

辻監督 全然揉めてないですよね。

坪井 普段は揉めるんですか?

阪元監督 一回も揉めへんよね。もう最初に「血は出すな」って言われてましたし……

辻監督 「死者ゼロでお願いします」って(笑)。ムージックの企画は、私が出したんですよ。その時パン屋で働いてて、店長がメチャメチャ嫌いやって(場内笑)……ほんまにパン屋を首になったんですよ。店長への恨みがメッチャあったんですけど、私が考えたのは「最後パン屋が爆発する」ぐらいの小っちゃい可愛い平凡なプロットやったんです。それが、「一緒にやろう」って言ったら……ああなりました(笑)。

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阪元監督 ほのぼの邦画コメディ、そういうのを俺たちがやったって別に……もっとこう「うぅわぁーーーっ!!!」って言うのが撮りたいなって。『サウスパーク』みたいな(場内笑)。僕が目指したのは、20数分間で色んなことが起きる『サウスパーク』なんです。なんで、いっぱい考えましたね。シー・シェパードみたいなのが来るとか、宇宙人と戦うとか……

辻監督 王将で爆笑しながら、ずっと……

阪元監督 最後、新人類が生まれて、裸の辻凪子がパンの世界でアダムとイブみたいになって終わる、みたいなことも考えてました。

坪井 キューブリックみたいじゃないですか(笑)。辻さんはどうだったんですか、そのアイデアに対して?

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辻監督 もう、メッチャ乗ってましたね。(阪元監督は)これまで色んな所を壊してますからね……京都タワーも壊してるな。

阪元監督 京都が好きじゃないんですよ(笑)。

坪井 憎しみは大事ですね、映画は。

阪元監督 憎しみは、大事だと思います。

坪井 憎しみから始まって、それを笑いに変えるという……

辻監督 とにかく、「笑ってほしい!」という想いがありました。

坪井 辻さんは、主演女優賞も獲ってますからね。

辻監督 いかんと思ってたのに、あれはビックリしました(笑)。グランプリ自体、ビックリでした。「のびしろ賞」くらい呉れるかな、と……

阪元監督 なにか、「頑張ったで賞」みたいなね。

辻監督 授賞式も、ちょっと遅れて行って(笑)。電車が遅れたのもあるんですけど、ゆっくり歩きながら……

阪元監督 メチャクチャ貶されて終わるかな、と思ってたんです。

辻監督 「音楽とコラボ」っていうのも、不安やって……「工場(のシーン)しか無いやん!」って(笑)。

坪井 欲が無いのが良いのかもしれないですね。

ブレイク寸前!明日はどっちだ?

阪元監督 今後は、商業(映画)とかやりたいんですけど……取りあえず、新作をゆうばり(国際ファンタスティック映画祭)に出しています。あと、新しく西村(喜廣)さんが【ゆうばり叛逆映画祭】とかで「ぶち殺すぜ、お前ら」みたいなことをホームページで書いてたんで……ここらでそういう映画を大学の人たちで1本撮りたいです。取りあえず、大学がムカつくんで(場内笑)……本当クソなんですよね、上からガンガン圧力かけてきて、自分からは何にもしなくて。とにかく、大学の教授を殺す映画と、バンドマンを殺す映画と、オタサーの姫とかサークラーとかヤリサーとかの連中を血祭りに上げる映画を、どうしても撮りたいんで……ムカつく奴らが多いんで、とにかく殺しまくる映画を撮りたいなと思ってます。それが終わったら、何かこう『アオハライド』みたいなのを(笑)……少女マンガとかメチャクチャ好きなんですよ。少女マンガの実写映画も『ひるなかの流星』とかメッチャ好きなんで、そういう映画を撮りたいなって思ってます。

Q. 何か、二人で初商業があるとか?

阪元監督 林奈緒美さん主演の『クレイジーアイランド』ですね。

辻監督 アイドル「ミライスカート」の元メンバーを主演で映画を撮ってほしいという依頼が来まして……

阪元監督 今クラウドファンディングでお金を集めてるみたいです。来年撮る予定ですけど、今ちょっと脚本が滞ってます。これも、血は出ない感じで。

辻監督 暴力は無い感じで(笑)。

阪元監督 田舎から逃げる話です。「田舎って綺麗だよね」みたいな映画が嫌いなんで……『サマーウォーズ』みたいな奴が(場内笑)。ああいうのを潰す映画が撮りたいって思ってます……済みません、『サマーウォーズ』好きな人は(笑)。

辻監督 私は普段お芝居をやってて、間寛平さんの劇団(劇団間座)に入って舞台とかもやってます。新しくなった「なんばグランド花月」で12月24日、NON STYLEさんやジミー大西さんと一緒にコント(『ホーリーナイト アーヘーナイト』)をします。今はメッセンジャーの黒田(有)さんとお芝居(『既読アリ』)を稽古中です。あと、来年テレビのドラマに出る予定とかもあったりとか……来年ちょっと、ブレイク寸前という(場内笑)。

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【ムージック・ラボ 2017】は、12月23日(土・祝)から【大阪編】が幕を開け、その後は【九州編】も予定されているとか。
当然『ぱん。』も上映されるので、観逃したシネフィルは是非とも公式ホームページをチェックしてほしい。

【MOOSIC LAB 2017】公式サイト

そして、ブレイク寸前の二人の名、阪元裕吾・辻凪子を牢記し、今後の動向から目を離さぬようにしたい。

映画館の暗闇は、今日もどこかで奇跡の出会いを演出しているのだ――。