独立系映画会社【スポッテッドプロダクションズ(SPOTTED PRODUCTIONS)】が、2012年に立ち上げた『ムージック・ラボ(MOOSIC LAB)』。
映画監督とミュージシャンがタッグを組み、一本の映画を製作、全国各地で上映する、「音楽と映画の祭典」である。

これまでに、
『労働者階級の悪役』(2012年/監督:平波亘/音楽:松野泉、見汐麻衣)
『おとぎ話みたい』(2013年/監督:山戸結希/音楽:おとぎ話)
『おんなのこきらい』(2014年/監督:加藤綾佳/音楽:ふぇのたす)
『いいにおいのする映画』(2015年/監督:酒井麻衣/音楽:Vampillia)
『光と禿』(2016年/監督:青木克齊/音楽:クリトリック・リス)
など、語り草となる傑作を次々と世に送り出している。

6年目を迎えた『MOOSIC LAB 2017』でも、私たちは新たな才能に驚かされることになった。
東京から遅れること2ヶ月、『MOOSIC LAB 2017 名古屋編』が11月18日より開催されているシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)。
11月25日(土)『名古屋編 Cプログラム』を観た映画ファンは、衝撃のニュー・カマーを目撃することとなった。
舞台挨拶に立った、首藤凜(しゅとう・りん)監督その人である。

DSC_0790

今回のムージック・ラボ、『名古屋編』は特集上映に近い構成で、Cプロも首藤凜監督の作品が2本。
処女作と最新作が観られるという、作家性の強いプログラムであった。

坪井篤史(シネマスコーレ副支配人) 何か一言お願いします。

首藤凜監督 (客席との距離が)近いですね(笑)。今日は遅くまで、皆さんありがとうございます。

直井卓俊プロデューサー 『なっちゃんはまだ新宿』は、【MOOSIC LAB 2017】の準グランプリと、ベストミュージシャン賞(POLTA)と、女優賞(池田夏海)で……

坪井 そして、シネマスコーレのNo.1です。

首藤監督 ありがとうございます!

直井 そして、12月9日から一般公開することになりました。

『さよなら沢田先生』ストーリー

尾藤さんは、塾の講師・沢田先生のことが気になって仕方ない。
生徒たちは、休み時間は質問しに職員室の沢田先生を訪ねる。受験生だから当然なのだが、尾藤さんにとっては先生が他の子と話すだけで一大事。
沢田先生への想いは妄想を呼び起こし、尾藤さんの行動は次第に常軌を逸していく――。

坪井 『さよなら沢田先生』について教えていただけますか?

首藤監督 撮ったのは、4~5年前ですか……

直井 18歳の時に撮ったんですよね?今まで観せてもらえなくて、これを観るがために名古屋に来たみたいなものです(笑)。

DSC_0797
坪井 2回観たんですけど、色々理解が追いつかないところが(場内笑)……

首藤監督 高校を卒業した年の夏に撮ったんですけど、受験期に通っていた塾で考えていたこと……半分くらいは実話を、そのまま(笑)。

直井 どのシーンが実話なんでしょうね(笑)?塾の先生に対する気持ちが……その、盛り上がってしまっていたという?

首藤監督 そうですね(笑)、好きな先生がいて。トイレにゴミ箱が置いてあったんですけど、その先生はいつもマウントレーニアを飲んでいて、飲み終わるとそのゴミ箱に捨てるんですよ。トイレの中にあるゴミ箱なんで……漁っても、バレないという(笑)。そのストローを、いつも盗んでジップロックで保管していて(場内笑)。友達とかに最初は引かれてたんですけど、皆慣れてきて「マウントレーニア、トイレに捨ててあったよ」って教えてくれるようになったりして(笑)……そんな受験期でした。

直井 顔を見せないようにしたのは、なぜ?

首藤監督 イメージが強くて……どうして良いのか分からなかったんです。映画を撮るって言っても、役者の人を探してきてって考えてなかったんで……そこら辺にいる人にお面を被せて出てもらったんです(場内笑)。

坪井 先生が嫁と食事するシーンも、凄かったですね。

首藤監督 あれも、受験期に妄想してたことで……身近な女子生徒で「もしこいつが(先生の)嫁だったら……」みたいな妄想をしてる、勉強できなさそうな感じの受験生だったもんですから(笑)。

直井 蚊のシーンって、皆さん伝わりましたか?ちょっと、監督から解説を。

首藤監督 けっこう厳しい塾だったんですけど、「先生の肌に触れたい!」って強く思っていたんです。その想いが高じて、「一度叩いてみたい」と思っていたんですね。どうしたら叩けるのか考えて……蚊を捕まえて、ティッシュに包んで塾へ行って、爪楊枝で接着剤を付けて、質問しに行って……でも、叩けず、ゴミ箱に蚊を捨てるという……

直井 ……実話だったんですね(笑)!

『なっちゃんはまだ新宿』ストーリー

秋乃(池田夏海)は、高校生。将来は東京へ出て、同級生のバンド・POLTAを世に出すことを夢見ている。
秋乃が想いを寄せる岡田(河西裕介)は、他校に彼女がいるらしい。「なっちゃん」というらしい彼女とは、どんな子なのか……秋乃は、思いを巡らせる。
ある日、秋乃は自分の部屋で、見知らぬ女の子(菅本裕子)と出会う。ニッコリと笑う女の子は……なっちゃん、なの――?

坪井 『さよなら沢田先生』と『なっちゃんはまだ新宿』の間に撮った作品はあるんですか?

首藤監督 2作撮ってます。

直井 『加賀谷だけが好き』っていう作品と、『また一緒に寝ようね』というのがありまして……『また一緒に寝ようね』はPFFで、『加賀谷だけが好き』は下北沢映画祭で、賞をもらってるんですよね。

坪井 何分くらいの作品なんですか?

首藤監督 それぞれ、30分と40分です。

DSC_0798
直井 主演は全部、池田夏海さんですよね。

首藤監督 中・高の同級生で、彼女は別に女優をやっていたとかではないんですけど、大学生の時に「出てよ」って毎年言って撮らせてもらって。

直井 今は、就職しちゃったとか……

坪井 じゃあ、『なっちゃん』が最後の作品に?

首藤監督 ……そのうち、会社辞めてほしいですけどね(場内爆笑)。

直井 ミューズですもんね!

首藤監督 また、30歳くらいで撮れたら良いなと思います。

直井 まさに、『なっちゃん』の後半のように(笑)。この『なっちゃん』ですけど、坪井さんが「推しましょう!」って言ってくれたのは、どんなところで?

坪井 『なっちゃん』を観たら、青臭さと、「ここは観せたい!」という想いの部分と、全部入ってるんですよ。タイトルが出る前の、図書館の足のくだりのシーンや、電車に乗る前のイナバウアーも含めて、もしかしたら映画が崩れるパターンもあるかもしれないのに、思い切ってやっちゃう。高校生に見えない人が出てきても(場内笑)、多分「あれは高校生!」と思って撮ってるから、その熱量が写っちゃってる訳ですよ。そんな「欠片の寄せ集め」を映画館で観ると絶対面白いことになるだろうなと思ったんです。

直井 自主映画で、10年というサイクルは普通描かないですからね。

坪井 バスのくだりも良かったですね。

直井 ラッシュ(試写)の時から、バスからのくだりは凄かったです。台詞が上手だと思うんですよ。何気ない会話をずっと聞いてられる感じで……台詞って、やっぱり演劇からの影響があるんですか?

首藤監督 演劇は、映画をちゃんと観はじめる前にハマッていました。あと、洋画で気の利いた言い合いをずっとやってるじゃないですか、ああいうのが凄く好きでやってみたいと思っていたんです。

坪井 思い返せば、印象的な台詞が沢山ありますよね。

直井 ラーメンとソフトクリームの話とか?

坪井 あれを聞いちゃうと、僕ら名古屋の人間は「寿がきや」をすぐ思い浮かべる訳ですよ(場内笑)。

直井 (笑)……確かに!そうだ、名古屋的だ(笑)!

坪井 その後の展開も含めて、衝撃的でしたから!ああいうことをストレートにやれちゃうのが、魅力だと思います。

首藤監督 ありがとうございます。

坪井 あれをやると映画が壊れるからと言って、多くの監督は逃げちゃうんですよね。でも、別に壊したって良いじゃないですか。お客さんがどう思うかは、自由な訳であって。そこを気にせず撮ってるところが、僕は面白いと思ったんです。

直井 POLTAの曲は、エンディングで歌われてる『ラスト ストップ』がこの映画に書き下ろされた曲なんですが、それ以外は元々あった曲なんです。でも、凄く(映画に)ハマッてますよね。

DSC_0816
首藤監督 あんまり寄せて書こうとしたつもりは無かったんですけど……私の作品は、1作目もそうなんですが、「私」と「沢田先生」みたいな映画しか撮ったことが無くて……第三者が出て来たとしても、本質的には「わたし」と「あなた」しか出てこない映画しか撮れなかったんですけど、今回POLTAさんと一緒にやることになって、けっこう自然に「他者」が存在することを許せるようになったというか。

坪井 ちょっと可能性が広がったと言うか?

首藤監督 そうですね。感謝しています。

坪井 『なっちゃん』は93分……どうですか、今までは長くて40分の作品を撮っていた訳ですが、全然違いますか?

首藤監督 逆に、どうやって40分で作っていたんだろう、と(笑)。

坪井 とにかく、「やり切った感」があるのが素晴らしいと思います。ラストも、素晴らしかったです。

直井 あれは、けっこう苦労しましたもんね、監督?

首藤監督 撮ったけど、切ったり(笑)……

直井 編集で、色々と……。ゆうばり映画祭(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017)で上映されてるバージョンと比べたら……

首藤監督 かなり、切ってます。前半も、後半も。

直井 あと、なっちゃん役を菅本裕子(ゆうこす)さんがやってくれたのが大きかったですよね。って言うか、多分これ以外に映画出ないですよね、あの子(笑)?

首藤監督 もう出てくれないんじゃないですかね?

直井 今、全然違う方面で活躍されてますけど、本人は映画に全然興味ないんですよね。

首藤監督 なんか、「全く集中して観られない」そうで(場内笑)。言い回しとかは、全部当て書きしました。HKTをスキャンダルで辞めた方なので、それが凄く(役柄と)被って……「スキャンダルを起こしたことありきで撮りたいです」って言ったら、向こうも「あ、全然いいですけど」って開き直って……凄い強い子なんです。

直井 それを堂々と言った監督も凄いけどね(笑)。

坪井 磁場があると、皆を呼ぶんですね。本当に、ベストなキャスティングだったと思います。

直井 しかも、上手かったですもんね。

坪井 POLTAさんもそうですけど、皆上手いですよ。

首藤監督 そうですね。でも、演技って誰でも出来るんじゃないですかね?

直井 お、名言ですね!

首藤監督 (笑)。でも、そう思ってるんです。それこそ、そこら辺の人も……

直井 『沢田先生』のように(笑)?

また一緒に観ようね


坪井 今後の展望は如何ですか?

首藤監督 原作物をやってみたいなあ、と。少女マンガ物も良いですし、好きな小説もやってみたいですし。

直井 首藤さんが撮る、キラキラとか、壁ドンとか観てみたいですね。

首藤監督 何か、出来る気がしてます(笑)。

直井 これから、首藤さんもお仕事されるんですよね……4月から、就職してしまうんです。

首藤監督 はい、一応、映像系に。

坪井 じゃあ、スコーレでも3月までに(『なっちゃんはまだ新宿』の)本上映をやれば、来てもらえるかもしれないですね?折角ですから、4本全部やりたいです。『なっちゃん』を帯で上映して、併映で、『さよなら沢田先生』『加賀谷だけが好き』『また一緒に寝ようね』を作品集ということで。

直井 これ、タイトルセンス良いと思いませんか?

坪井 一目見て、一瞬聞いて、気になりますもんね!次回作も、期待しちゃいますね。

直井 首藤さんは、撮る毎に良くなる人だと思いますので。あと、首藤さん演出の演劇とかも観てみたいです。

首藤監督 はい、演劇も一回やってみたいんです。

坪井 『なっちゃん』は本当に、究極のガールズ・ムービーだと思います。

直井 この題材って、今まで無かったですもんね(笑)。これも、監督の中で「なっちゃん」って存在が居るんだよね?

DSC_08131
首藤監督 はい。もう、凄く憎んでて(笑)……大変だったんですけど、本当に会ったことは無くて。でも、ある時(自分の中で)凄く上の感情に行ったなという気持ちになったことがありまして……

坪井 え、『なっちゃん』も実体験だったんですか?

首藤監督 そうなんです、切っ掛けは。その子が最近……会ったこと無いんですけど、4年間くらいずっと監視してた子で(場内爆笑)……最近、バイト先に来るんですよ。

坪井 凄いですね(笑)。

首藤監督 次に来たら、前売り券を渡そうとずっと思っていて(場内爆笑)。

坪井 (笑)……「あなたの映画が出来ました」っていうご報告を?

首藤監督 向こうは知らないんですけどね、私のことを(笑)。

『さよなら沢田先生』に『なっちゃんはまだ新宿』に酔い痴れた観客を爆笑の坩堝に叩き込んだ、キセキの舞台挨拶……この夜のことは、出席者の間で永く語り継がれるに違いない。
『ムージック・ラボ』は作品だけでなく、登壇者のトークも語り草になる映画祭なのだ。

熱気冷めやらぬ観衆は、首藤監督のサイン会に長い列を作り、尾張名古屋の秋の夜長は、興奮と共に更けていくのであった。

IMG_20171129_223318

シネマスコーレで『なっちゃんはまだ新宿』が本公開される際、坪井副支配人と首藤監督、そして直井プロデューサーは、必ずや面白い仕掛けを用意してくれるに違いない。
本公開は2~3月で考えているそうなので、是非とも公式サイトでチェックしてほしい。


『なっちゃんはまだ新宿』本公開の折は、『首藤凜初期作品集』が同時上映され、監督本人の再来名も期待できそうな予感がする。
その時は、万難排して劇場に駆けつけ、映画館で執り行われる前代未聞の「就職祝い」を、存分に楽しみたいと思う――。

『なっちゃんはまだ新宿』
12.9(土)〜新宿シネマカリテ、シネ­マスコーレほか全国順次上映!