体育の日を次の日に控え、三連休ど真ん中の名古屋は汗ばむくらいの陽気でした。
この日、公開中の、障害のある“最強のふたり”が織り成す奇跡のラブストーリー『パーフェクト・レボリューション』に、松本准平監督、主演リリー・フランキーさん、企画・原案の熊篠慶彦さんが舞台挨拶に立ったのでした。
自虐ネタその①

松本准平監督 この作品を選んでいただいて、今日来てくださってありがとうございます。
リリー ねえ。普通だったら『三度目の殺人』か『アウトレイジ』に行くところでしょう(場内笑)。
松本監督 そうですね、観たいですからね(笑)。
名古屋の思い出
松本監督 そうです、初めてなんです(場内拍手)。自分の作品で来ることができて、ちょっと感無量です。ありがとうございます。
MC(松岡ひとみ) 今までは素通りだったってことですね?
松本監督 ですね。上空か、陸か、どっちかで素通りです。
リリー 近いのにね。
松本監督 そうなんですよ、機会がなくて。知り合いは一杯いるんですけどね。
MC 企画・原案の熊篠さんは、名古屋には思い出があるらしいですね?
熊篠慶彦 このヒロインのミツ(清野菜名)のモデルになった……まあ、元カノなんですけど、4年くらい前にエスカでコメダ(珈琲店)と味噌煮込うどんを一緒に……
MC 名古屋めしですね?
リリー コメダと味噌煮込うどんなら、5m置きにありますよ、名古屋は(場内笑)。
熊篠 昨日、介護のお兄さんとたまたまそこ(エスカ)に行っちゃいまして……「あ、ここのコメダだった」とか思い出して、「うわぁ」と(笑)。そんな思い出を噛み締めながら、味噌カツを食べて早々に寝ました。
リリー この映画は、熊篠くんのほぼ実話で構成して作られたものです……熊篠くんは映画を観ると、色々とつらい過去を思い出すんですよね?
熊篠 まあ、大丈夫ですけど……大丈夫じゃないですけどね(笑)。
クマさんと、熊篠さん
リリー 10年弱くらいですかね。最初は、イベントに行った時に紹介されたんですよ。その後、僕が熊篠くんのイベントに参加させてもらったりして。
熊篠 「ノアール」というNPO法人で色んなことをやってるんですけど、障害者の支援を幅広くやってるんです。
リリー 単純に、車椅子に乗ってるだけで「この人は恋愛感情とかはないんだろうな」と誤解されることを、「そうじゃないんだよ」と。当たり前のことなんですけど、その当たり前のことに意外と皆は気付いてない、気付かないようにしてるところがあります。
MC お2人でいらっしゃると楽しそうな雰囲気ですが、どんな話をしてるんですか?
リリー 想像されてるような話とかはしてないです。
熊篠 まあ、与太話ですね。
リリー 僕が熊篠くんの役を演ってるんです訳ですが、一緒にいるところを見てから映画を観られると、「リリー、あんまりコピー出来てないな」と思われちゃうんですよね(場内笑)。ですから本当は、こうして一緒にいる姿は(映画を観た)後に見てもらいたかったですよね。
MC リリーさんのクマさん役、ご自身でご覧になって如何でしたか?
熊篠 いや、完コピですね。形態模写だけだったら、それほど難しくはないだろうとは思うんですけど、その上に演技もするじゃないですか。車椅子の捜査をしながら、形態模写をしながら、台詞のやりとりとか表情とか……凄いな、と思いますよね。
リリー でも、本当はクマ役は、山崎賢人くんに演ってもらいたかったんですよね?「そうだったらな」って、ずっと言ってました(場内笑)。
清野菜名さんについて
リリー 自分の知り合いで生きている間にその人の役をやるのは、多分最後だと思うんですよ。中々ないですから。生きてる人の役を演るって、みうらじゅんさんのお父さんの役(『色即ぜねれいしょん』)以来ですかね。だから、菜名ちゃんも(『トットちゃん!』)凄いと思いますよ……(黒柳)徹子さん、全然お元気ですし。
MC 清野菜名さん、ミツ役も素敵でした。
リリー 素晴らしいですよね。僕は最初から最後まで車椅子に乗ってるんですけど、スクリーンを大きく使って躍動感や瑞々しさを発揮する菜名ちゃんは素晴らしかったです。
MC 監督は、初めから清野菜名さんで決めていたとか?
松本監督 ミツという役は色んな過去を背負ったりしてるんですけど、それでも真っ直ぐに色々なものを突き破りながら進む感じが欲しかったんです。清野菜名さんの「コウノドリ」のポスターが駅に貼ってあって、チラ見して通り過ぎようとしたんですけど、二度見しちゃったんですよね。菜名ちゃんの笑顔があまりにも屈託がない感じで、それが本当に凄いと思って、ミツはこの方に演じてもらえたら良いなと思い、お手紙を書いたんです。
リリー またその手紙の内容が、凄いキモいことが書いてあって……何か言ってましたよ、菜名ちゃんが。
熊篠 笑顔がどうのこうの、って。
MC 熊篠さんは、ずっと撮影現場に行ってたんですか?
熊篠 たまに行ってました。
リリー ずっと主演女優を見てましたからね(場内笑)。
熊篠 それは、役得なんで(笑)。
リリー 車椅子のダンスのレッスンみたいなのがあって、僕が行けない日は熊篠くんが代役をやったんです。ダンスの中で、菜名ちゃんが膝の上に乗ったり、抱きついたりするんですけど……熊篠くんが代わりにやったりしてたんです。
熊篠 ……冥土の土産ですね(笑)。
重いテーマ、軽妙なエンタメ
リリー 熊篠くんは、映画が出来るまで5年くらい、監督と話し合ったんだよね?元々、ドキュメンタリーで行くって方法もあったんですけど、多くの方に観てもらいづらいということもありまして、エンターテインメントで行くことになったんです。こういうバカ映画も、中々ないですし(笑)。
松本監督 ご存命の方の映画化ってあんまり無いのと、僕があまり障害という事柄に係わったことがないということで……障害者の方も、熊篠さんくらいしか友達がいないので……テーマをどうやって処理したら良いのか、どう映像化すれば良いか分からなくて、ずっと(熊篠さんと)2人で会って、週1とか週2で話してました。
自虐ネタその②
松本監督 いやいやいや(笑)!
MC これからですよ!
松本監督 これからです!
MC 松本監督って、東大出て、お笑い行ってるんですよね?
リリー 東大の建築を卒業して、吉本に行って、映画を撮って……それまでのキャリアが何も生きてない道に(場内笑)。
松本監督 これからですよ(笑)!
MC 次の作品も、期待しています。
リリー 次まで、長いと思いますよ(場内笑)!スマッシュヒットでもすりゃあ、何か話もくるでしょうけど。
松本監督 まずは、回収しないと。
リリー ……無理でしょう。
松本監督 ちょっと、身内がそういうの止めてもらえますか(場内笑)!
リリー ですから、今日はこんなにお客様が入ってくれたんで……まあ、焼け石に水ですけども(場内笑)。
「赤い彗星」は熊篠専用車
MC この車椅子「赤い彗星」は、映画にもそのまま出てくるんですよね?
リリー 後ろに乗れるんですよ。
MC これ、普通は乗れるものなんですか?
熊篠 いえ、乗れないです。
MC 他にも色々工夫があるとか?
熊篠 横のパイプを出すと、座れるんです。電車とかバスとか乗ってる時、介助者がちょっと座れるように。
松本監督 これも、実際に“ミツ”から……
熊篠 元カノが「なんで私だけ立ってるのよ!」って言うんで、特注で付けたんです。
リリー あと、この映画のポスターは、今日だけじゃなくずっと最近プライベートでも熊篠くんこうやってるんですけど(場内笑)、そうしたらこないだ車椅子の人が寄ってきて、「そのバイトって、いくら貰えるの?」って(場内爆笑)。車椅子の方、後ろが寂しいなら、ラッピングバスみたいにして、色んなクライアントからお金もらって……皆でやりましょう。この間、映画の初日に、熊篠くんと福山雅治さんのラジオに出たんです。1時間の間、福山くんずっとこの車椅子のスペックについて質問してたんですよ。とにかく、とにかく、この車体に興味があるようで、欲しがってましたもんね……乗るんじゃねえかと思いました(場内笑)。
障害者あるある
MC 劇中、クマさんの住まいは、熊篠さんが住んでるお家を参考にされたとか?
松本監督 そうですね。
松本監督 色んなことを取材させてもらいました。想像できないようなことも色々ありました。こういうところに、こういう置き方をしてるんだ、と。映画を観ていただくと、気付かれると思います。
熊篠 “障害者あるある”的な。
リリー この映画の宣伝で取材は色々してもらいました。テレビはこういう題材なのでほぼNHKしか出なかったですけど、逆にNHKで朝昼晩ずっと熊篠が訴えてたこととか、障害を持ってる方たちの日々の感情とか、そんな取材で話せたなと思います。熊篠がそんなテーマのイベントを地下のトークライブでやってても、どこにも届かない部分があります。映画を作ったことで、色々メディアの人が取材をしてくれて、熊篠が言いたかったことが少しでも伝わると良いかな、と。
自虐ネタその③
リリー 映画に関しては、観ていただいて「面白くない」とか、「つまんない」とか思っていただければ……
リリー 一言で説明すると、主人公が障害を持ってて、障害を持ってる人の恋愛と性の話です……何か、重たそうじゃないですか。でも、観ていただければ直ぐ分かりますけど、俺本当に試写会で1回この映画を観た時に、「頭おかしいのか?」と思うシーンがあったんですよ。冒頭の方にあるんですが、ワイプがハートになってるんですよ。
熊篠 しかも、ピンク色で。
リリー 凄くセンスの無い映画だと思って……最初からそんな感じなので、そのつもりで観ていただけると(場内笑)。ナイスNOセンスだよね、あれ(笑)!
窮地を救った『BABY BABY』
MC あれは、リリーさんの力で?
リリー 元々は、違う曲を当てる予定だったんですけど、その曲が凄く高いってことになって……
松本監督 ……はい。
リリー 大体、調べとけよ!って話じゃないですか(場内笑)。「愛は全てを変える!この音楽みたいに」って台詞があるんです。その台詞に対してマッチするような曲って、ほぼほぼ無いじゃないですか。それが、峯田くんが本当に大切にしてる『BABY BABY』を貸してくれて。しかも、台詞と詞が、目茶苦茶リンクしてるんですよね。
松本監督 撮影は別の音楽で撮ってるんで、台詞には合ってるけど、リズムが、とか色んなことを考えて……僕も分からなくなって、最後リリーさんにちょっと相談しました。
自虐ネタ最終章
松本監督 『パーフェクト・レボリューション』楽しんで観ていただけたらと思います。テーマは重いですけど、ピュアなラブストーリーでエンターテイメントになっています。クマとミツをたくさん応援していただけると、大好きになってもらえると嬉しいです。

リリー 本当そうですよね。三連休の真ん中の日のお昼、こんな映画に来てくれる……
松本監督 「こんな」って(笑)!
リリー お客さん、民度高すぎますよね!熊篠がモデルの主人公が障害を持ってる映画ですけど、障害を持ってる人を代表して何かを言ってる映画ではないので。熊篠個人の思い出だとか、経験が映画になってる作品です。こういうPOPなバカバカしい感じの映画になったってことが、もしかしたら良かったのかなと思います。中々日本では、何か深刻なものは深刻に取り扱わなければいけないという偏見が逆にあって、恋をしたい、楽しいことしたいという皆が持っている同じ感情を共有する映画が出来ないので。この映画は大失敗ではありましたけれども(場内笑)。
松本監督 いやいや……長く、観てもらえれば。
リリー あ、もう「長く」方面に切り替えたの(場内笑)?いや、この映画はまだ謙虚だったんです。初日にでっかいパネルを皆で持って、写真を撮ってもらうじゃないですか。殆んどの映画って「大ヒット上映中」って初日から書いてるんですよ。あれ、異様なセンスじゃないですか。この映画は違いました……「上映中」って書いてありましたもん(場内笑)。映画は、後半どんどん話が破綻していくんで、前半だけ観てもらえればいいですから(場内笑)。
松本監督 後半が、面白いんです!
リリー 映画評でも、「後半がクエスチョン」って人と、「あれはあれで良いんじゃない?」って人が……
熊篠 そうですね。
松本監督 後半を絶賛の人もいますよ。
リリー ああ……それおかしいですよ、絶対(場内爆笑)。まあ、あれはあれで良かった……のかな?
松本監督 ちょっと、反省会するの止めましょうよ(笑)!
(2017年10月8日 ミッドランドスクエアシネマ2)
『パーフェクト・レボリューション』
リリー・フランキー 清野菜名
小池栄子 岡山天音/ 余 貴美子
監督・脚本:松本准平(『最後の命』)
企画・原案:熊篠慶彦(著書「たった5センチのハードル」)
劇中曲:銀杏BOYZ「BABY BABY」(初恋妄℃学園)
エンディングテーマ:チーナ「世界が全部嘘だとしても」(SOPHORI FIELD COMPANY)
制作・配給:東北新社 PG-12
2017年/日本/カラー/5.1ch/ビスタ/117分
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