
2026年6月19日(金)に劇場公開される
映画『偏向報道』
元テレビ朝日ディレクターの荻野欣士郎が、自身のメディア人としての「反省と謝罪」を原動力に完成させた社会派サスペンスドラマである。
本作はオールドメディアの構造的歪みを扱いながらも、単なる暴露主義的な告発映画ではない。
監督自身が「まずは難しいことを考えずに楽しんでもらいたい」と語る通り、観客を惹きつける強固なドラマツルギーを持った「一級の娯楽作」としての意義が強調されている。

予定調和を拒絶するキャスト陣の貢献
本作のエンターテインメント性を支えているのは、計算し尽くされたキャスト陣の熱演と配置である。主演の鳥居みゆきは、お笑い芸人としての枠を超えた鋭い眼光と強烈な実存感を持って主人公・油神鈴子を体現した。
「テレビという枠すら飛び越える異分子としての魅力」が、鈴子の行動に脱・予定調和の爽快感と深い説得力を与え、物語終盤の「報道下剋上」シーンにおいて圧倒的なカタルシスを提供している。

また、威厳と権力で周囲を圧する報道局長役の誠直也は、組織の絶対的な壁として重厚に立ちはだかり、サスペンスの緊張感を最高潮に引き上げた。
誠といえば、「特捜最前線」で吉野刑事、「秘密戦隊ゴレンジャー」でアカレンジャーなど正義のヒーローを体現する存在であり、主人公・岬大介を演じた「ファイヤーマン」のオープニングテーマでは
「だれかが むかって 行かねばならぬ
不思議の謎を とかねばならぬ」
と歌われていたのは実に象徴的だ。

さらに東さや香、大迫一平、時東ぁみ、螢雪次朗といった実力派たちが、記号的な役割に留まらない生身の人間としての内的葛藤を描き出すことで、本作を多層的な群像劇へと引き上げている。

エンタメを楽しめる=「没入する」人とは
しかし、本作の優れたエンターテインメント性こそが、観客を最大の逆説(パラドックス)へと誘う入り口となる。心理学の「ナラティブ・トランスポーテーション(物語没入)理論」によれば、人は情報を感情豊かな物語として受容した際、論理的な検閲機能を休止し、防御壁を下げて「体験モード」へと移行する。
つまり、高度に構築されたストーリーを楽しみ、登場人物に深く感情移入できる豊かな感受性を持った人間こそが、現実の偏向報道やプロパガンダを最も無批判に鵜呑みにしやすいのである。
劇中で描かれる「知事のパワハラ捏造映像」も、視聴者が直感的に理解しやすい「悪の権力者と弱者」という物語の構図を与えるだけで、真偽の検証を経ることなく瞬時に世論を誘導してしまう。

プロパガンダからの「知的防衛策」
メディアが発揮するプロパガンダの威力は、巧妙な嘘だけでなく、情報の「反復」によってもたらされる。「真実性の錯覚」と呼ばれるこの現象は、たとえ誤った主張であっても繰り返し接することで脳がそれを「真実」と誤認してしまうものであり、科学的に正しい知識を持つ者でさえその罠を逃れることは困難である。
さらに、「自分は冷静なので騙されないが、他者は騙されやすい」と思い込む「第三者効果」という自己欺瞞が、自分自身が特定のプロパガンダに染まっている事実への内省を麻痺させる。
現代の視聴者が一方向的な情報編集や感情的なエコーチェンバーから自律した思考を守るためには、「吟味思考(クリティカルシンキング)」の実践が不可欠である。
・単一のプラットフォームに頼らず、異なるスタンスを持つ複数の情報源に当たる。
・提示された情報がどのような物語の文脈(ナラティブ)で編集され、自分の怒りや正義感を刺激する仕掛けが施されていないかを一歩引いて観察する。
・自分の中に「自分だけは大丈夫」という過信や、敵対的メディア認知が生じていないかをメタ認知的に問い直す。
このような「収集」「分析」「反芻」といったプロセスは、現代の情報社会では必須のスキルと言える。

心が動いてこ そのエンタメ
映画『偏向報道』は、「安易な物語に身を委ねて安心したい」という私たちの怠惰な認知姿勢を揺さぶる極上のスパイスだ。鈴子の「はっきりとものを言う」生き様は、劇中の登場人物のみならず観る者の心をも打つ。
「『偏向報道』で油神鈴子を演じました。主役に選んでいただけて、嬉しかったのと同時に「ちゃんと伝えなきゃ」と
責任が生まれました。情報がどう作られ、どう切り取られ、どう信じられていくのか。その裏にある怖さや違和感を、
鈴子として、鳥居みゆきとして全力でぶつけています。観終わったあと普段見ているものを少しだけ疑いたくなっ
たら嬉しいです。このコメントも都合よく切り取られませんように。」
鳥居みゆきのコメントを、大切なことなので全文引用した。
あらゆる表現は、享受することで娯楽となり得る。
甘受するばかりでは、私たちは発信者の意のままに肥え太るばかりだ。
思考という名のスパイスで吟味していこう。
情報を鵜呑みにして動くことが出来なくなる前に――。

映画『偏向報道』
2026年6月19日 池袋シネマ・ロサほか全国順次公開脚本・監督:荻野 欣士郎
鳥居 みゆき
東 さや香 大迫 一平 時東 ぁみ 郷田 ほづみ 小野 進也
岬 千泰 中島 健太 大内 智裕 中冨 杏子 三枝 りな 新井 花菜 中野 祥
誠 直也 螢 雪次朗
製作:荻野憲之 長谷部恵子 永堀真 山岸晶子
プロデューサー:阿久根裕行 アソシエイトプロデューサー:石川翔一
撮影:神野誉晃 照明:上田雅晴 録音:地福聖二 美術:金勝浩一 編集:石川貴大
音楽:中西ゆういちろう
テーマ曲:中島卓偉「最後の一人になっても」 (For Roots. Co.,Ltd)
製作:偏向報道パートナーズ 制作プロダクション:キネマスタジオ 配給:エクラン
©2026偏向報道パートナーズ
2026|日本|カラー|90分 映倫|G
公式サイト:https://henkohodo.com/
公式X(監督X):@kinshirou_FD
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