2026年5月17(日)、史跡「揚輝荘」(名古屋市千種区法王町二丁目5-17・5-21)にて
音楽コンサート
【揚輝荘で味わう大正デモクラシーと印象派音楽】
が開催された。


会場となった聴松閣(南園:名古屋市指定文化財)の地階多目的室は、かつてアジアの留学生らが集った舞踏場であり、インド様式の意匠と留学生による壁画が残る象徴的な空間だ。
大正から昭和初期の建築美に包まれ、西洋の印象派音楽と日本の近代歌曲が響き合った当日の様子をレポートする。

時代を紡ぐ3名の奏者本コンサートを担ったのは、実力派3名。
安保有美 (ヴァイオリン)
https://aboyumi-official.com/
名古屋市出身。プラハ音楽芸術大学等で研鑽を積み、オーケストラからアーティストサポートまで幅広く活動する。
使用楽器は1915年イタリア製の「Ettore Soffritti」。まさに揚輝荘が築かれ、大正デモクラシーが花開いた時代に製作された名器であり、その音色は歴史的な真正性を伴って空間に溶け込んだ。
鬼頭愛 (ソプラノ)
武蔵野音楽大学卒業。
バロックからオペラ、現代音楽まで網羅する確かな技術で、印象派の色彩感と日本の抒情を見事に歌い分けた。
シュトラーラ美保 (ピアノ)
https://www.msmusik.net/
兵庫県立西宮高校音楽科を経て愛知県立芸術大学卒業。ドイツに4年間居住し、現地でピアノや日本語を指導した経験を持つ。
現在はドイツ語教育にも携わっており、言語と音楽の密接な関係を理解する伴奏者として、旋律を端正に支えた。



印象派芸術がもたらした光と色本プログラムの着想源の一つは、揚輝荘北園の風景にある。
北園の池に架かる白雲橋(名古屋市指定文化財)は京都・修学院離宮の千歳橋を模したものだが、その池に睡蓮が浮かぶ様は印象派画家クロード・モネがジヴェルニーの自宅に造営した「水の庭」を強く想起させる。
19世紀後半フランスで興った印象派は、光の移ろいや空気感そのものを捉えようとした。
この動きは音楽にも波及し、ドビュッシーらによって「響きそのものの色彩感」を追求する革新が起きた。
当日演奏されたドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」は、五音音階(ペンタトニック)を多用した東洋的な響きが特徴だ。
これは万博等で接したアジア音楽の影響を反映したものであり、インド様式の舞踏場跡という融合空間において、音楽的な「ジャポニスム」の再解釈として鮮やかに響いた。





大正ロマンと「赤い鳥」運動の遺産揚輝荘が建設された大正時代は、自由主義的な大正デモクラシーの潮流により、都市の新中間層を中心にモダンな文化が享受された時期であった。
特に1918(大正7)年、鈴木三重吉が創刊した雑誌「赤い鳥」は、子どもたちに芸術的な歌を与える「童謡運動」を巻き起こした。
それまでの国家主導の唱歌とは異なり、子どもの純粋性を尊重したこの運動には北原白秋や山田耕筰らが参画した。
セットリストに含まれた「赤とんぼ」は、まさにこの運動の最高到達点であり、西洋の技法を用いながら日本人の郷愁を射抜く名曲である。




古くて新しい叙情の邂逅プッチーニのオペラアリア「私のお父さん」に込められた情熱、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」に込められた郷愁……
大正ロマンを代表する竹久夢二の詞による「宵待草」の恋慕、文豪・島崎藤村の詞による「椰子の実」の旅愁……
音楽に宿った想いは、国際交流の拠点であった揚輝荘の歴史的文脈と深く共鳴した。
100年前の日本とヨーロッパが共有した「新しい美への渇望」を現代の感覚で蘇らせたコンサートは、揚輝荘という「生きた文化財」に新たな記憶の断章を刻み込んだ。
素晴らしいアンサンブルで聴衆を酔わせた「爆烈美女トリオ」の意外(?)な共通点について、
全楽曲の背景について、三名から興味深い解説が添えられた。
午前の部、午後の部と合わせ何と競争倍率270倍(!)というプラチナ・チケットとなったオーディエンスを前にして、
リーダー・安保有美の爆笑マイクパフォーマンスも、今回はノーブルな香を纏っていた。
亜麻色の髪の乙女 (ドビュッシー)
ヴォカリーズ (ラフマニノフ)
宵待草 (多忠亮)
歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」 (プッチーニ)
赤とんぼ (山田耕筰)
椰子の実 (大中恩)

コンサートが提示する未来への展望【揚輝荘で味わう大正デモクラシーと印象派音楽】は、一つの音楽イベントという枠組みを超え、名古屋という都市が持つ文化的記憶を呼び覚ます高度な批評性を備えた企画であった。
出演者の安保有美、鬼頭愛、シュトラーラ美保の3名は、確かな技術と深い時代考証に基づき、100年前の日本とヨーロッパが共有した「新しい美への渇望」を、現代の聴衆に提示した。
モネの絵画を想起させる北園の風景から、ドビュッシーの革新的な和声、そして大正デモクラシーの理想を結実させた童謡へと至る構成は、バラバラに見える芸術事象が、実は「自然、自由、そして抒情」というキーワードで固く結ばれていることを証明した。
揚輝荘は、かつて多くの人々が交差し、新しい思想や文化が生まれた場所であった。
今回のコンサートは、その歴史的な磁場を借りることで、現代における文化交流のあり方を再考する機会を与えてくれた。
私たちがこのコンサートから受け取ったものは、美しい旋律の記憶だけではなく、異なる文化を認め合い、それを自らの血肉として新たな表現を生み出そうとした先人たちの、しなやかな精神性そのものである。
歴史的建造物と音楽が共鳴するこの稀有な体験は、今後も揚輝荘が「生きた文化財」として、次世代にその精神を繋いでいくための強力なマイルストーンとなるであろう――。

音楽コンサート
【揚輝荘で味わう大正デモクラシーと印象派音楽】
が開催された。


会場となった聴松閣(南園:名古屋市指定文化財)の地階多目的室は、かつてアジアの留学生らが集った舞踏場であり、インド様式の意匠と留学生による壁画が残る象徴的な空間だ。
大正から昭和初期の建築美に包まれ、西洋の印象派音楽と日本の近代歌曲が響き合った当日の様子をレポートする。

時代を紡ぐ3名の奏者本コンサートを担ったのは、実力派3名。
安保有美 (ヴァイオリン)
https://aboyumi-official.com/
名古屋市出身。プラハ音楽芸術大学等で研鑽を積み、オーケストラからアーティストサポートまで幅広く活動する。
使用楽器は1915年イタリア製の「Ettore Soffritti」。まさに揚輝荘が築かれ、大正デモクラシーが花開いた時代に製作された名器であり、その音色は歴史的な真正性を伴って空間に溶け込んだ。
鬼頭愛 (ソプラノ)
武蔵野音楽大学卒業。
バロックからオペラ、現代音楽まで網羅する確かな技術で、印象派の色彩感と日本の抒情を見事に歌い分けた。
シュトラーラ美保 (ピアノ)
https://www.msmusik.net/
兵庫県立西宮高校音楽科を経て愛知県立芸術大学卒業。ドイツに4年間居住し、現地でピアノや日本語を指導した経験を持つ。
現在はドイツ語教育にも携わっており、言語と音楽の密接な関係を理解する伴奏者として、旋律を端正に支えた。



印象派芸術がもたらした光と色本プログラムの着想源の一つは、揚輝荘北園の風景にある。
北園の池に架かる白雲橋(名古屋市指定文化財)は京都・修学院離宮の千歳橋を模したものだが、その池に睡蓮が浮かぶ様は印象派画家クロード・モネがジヴェルニーの自宅に造営した「水の庭」を強く想起させる。
19世紀後半フランスで興った印象派は、光の移ろいや空気感そのものを捉えようとした。
この動きは音楽にも波及し、ドビュッシーらによって「響きそのものの色彩感」を追求する革新が起きた。
当日演奏されたドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」は、五音音階(ペンタトニック)を多用した東洋的な響きが特徴だ。
これは万博等で接したアジア音楽の影響を反映したものであり、インド様式の舞踏場跡という融合空間において、音楽的な「ジャポニスム」の再解釈として鮮やかに響いた。





大正ロマンと「赤い鳥」運動の遺産揚輝荘が建設された大正時代は、自由主義的な大正デモクラシーの潮流により、都市の新中間層を中心にモダンな文化が享受された時期であった。
特に1918(大正7)年、鈴木三重吉が創刊した雑誌「赤い鳥」は、子どもたちに芸術的な歌を与える「童謡運動」を巻き起こした。
それまでの国家主導の唱歌とは異なり、子どもの純粋性を尊重したこの運動には北原白秋や山田耕筰らが参画した。
セットリストに含まれた「赤とんぼ」は、まさにこの運動の最高到達点であり、西洋の技法を用いながら日本人の郷愁を射抜く名曲である。




古くて新しい叙情の邂逅プッチーニのオペラアリア「私のお父さん」に込められた情熱、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」に込められた郷愁……
大正ロマンを代表する竹久夢二の詞による「宵待草」の恋慕、文豪・島崎藤村の詞による「椰子の実」の旅愁……
音楽に宿った想いは、国際交流の拠点であった揚輝荘の歴史的文脈と深く共鳴した。
100年前の日本とヨーロッパが共有した「新しい美への渇望」を現代の感覚で蘇らせたコンサートは、揚輝荘という「生きた文化財」に新たな記憶の断章を刻み込んだ。
【動画公開】
コンサートの全貌は、こちらの動画で確認できる。素晴らしいアンサンブルで聴衆を酔わせた「爆烈美女トリオ」の意外(?)な共通点について、
全楽曲の背景について、三名から興味深い解説が添えられた。
午前の部、午後の部と合わせ何と競争倍率270倍(!)というプラチナ・チケットとなったオーディエンスを前にして、
リーダー・安保有美の爆笑マイクパフォーマンスも、今回はノーブルな香を纏っていた。
セットリスト
故郷 (岡野貞一)亜麻色の髪の乙女 (ドビュッシー)
ヴォカリーズ (ラフマニノフ)
宵待草 (多忠亮)
歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」 (プッチーニ)
赤とんぼ (山田耕筰)
椰子の実 (大中恩)

コンサートが提示する未来への展望【揚輝荘で味わう大正デモクラシーと印象派音楽】は、一つの音楽イベントという枠組みを超え、名古屋という都市が持つ文化的記憶を呼び覚ます高度な批評性を備えた企画であった。
出演者の安保有美、鬼頭愛、シュトラーラ美保の3名は、確かな技術と深い時代考証に基づき、100年前の日本とヨーロッパが共有した「新しい美への渇望」を、現代の聴衆に提示した。
モネの絵画を想起させる北園の風景から、ドビュッシーの革新的な和声、そして大正デモクラシーの理想を結実させた童謡へと至る構成は、バラバラに見える芸術事象が、実は「自然、自由、そして抒情」というキーワードで固く結ばれていることを証明した。
揚輝荘は、かつて多くの人々が交差し、新しい思想や文化が生まれた場所であった。
今回のコンサートは、その歴史的な磁場を借りることで、現代における文化交流のあり方を再考する機会を与えてくれた。
私たちがこのコンサートから受け取ったものは、美しい旋律の記憶だけではなく、異なる文化を認め合い、それを自らの血肉として新たな表現を生み出そうとした先人たちの、しなやかな精神性そのものである。
歴史的建造物と音楽が共鳴するこの稀有な体験は、今後も揚輝荘が「生きた文化財」として、次世代にその精神を繋いでいくための強力なマイルストーンとなるであろう――。

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