2026年4月3日、済州島四・三事件の発生から78年目となるこの日、韓国現代史の深き傷跡を照射する劇映画が日本ロードショー初日を迎える。

ハ・ミョンミ監督が構想から10年をかけて完成させた

『済州島四・三事件 ハラン』

国家暴力に抗う個人の尊厳を「寒蘭(ハラン)」というモチーフに託した、静かなる鎮魂と祈りの物語だ。

main

「あいち」から全国へ。封印された声を届ける119分

本作は2025年、30周年を迎えた【あいち国際女性映画祭】でワールドプレミア公開され、大きな反響を呼んだ。
これは韓国での初公開となった釜山国際映画祭よりも1週間早かったことになる。

日本・愛知で開催される国際映画祭での上映を選ばれたのは、歴史的悲劇の記憶をかつて多くの済州島民が渡った地である日本へと繋げたいというハ・ミョンミ監督の強い意志があったからだ。
劇場公開版の119分という時間の中には、これまで国家的なタブーとして沈黙を強いられてきた「名もなき女性たち」の息遣いが凝縮されている。


sub06

「焦土化作戦」の理不尽と、剥がされる歴史の闇

物語の背景となる1948年の済州島は、冷戦初期のイデオロギー対立に翻弄されていた。
1948年10月、韓国政府は海岸線から5km以上離れた地域を「敵性区域」と見なし、出入りする者を無条件に射殺するという「焦土化作戦」を断行。
村々が焼き尽くされ、島民の約10人に1人が虐殺されるというジェノサイドが吹き荒れる中、事件の本質は長らく隠蔽されてきた。

本作は、この不条理な暴力によって極限状態に追い詰められた海女のアジン(キム・ヒャンギ)と、6歳の娘ヘセン(キム・ミンチェ)の逃避行を軸に、歪められた歴史を個人の視点から取り戻そうとする。

sub07

キム・ヒャンギとキム・ミンチェが体現する、泥濘の中の「生」

sub01
主演のキム・ヒャンギは、これまでの子役のイメージを脱ぎ捨て、初の母親役に挑んだ。
キム・ヒャンギは、消滅の危機にある済州語(済州方言)を徹底的に習得し、標準語では語り得ない土地固有の痛みを表現した。
済州語の再現については、2013年に済州島へ移住しているというハ・ミョンミ監督の力も大きい。

sub03
娘ヘセンを演じた新人キム・ミンチェの演技は、「韓国最高の俳優と比肩する」と激賞されるほど圧倒的だ。
言葉の少ない彼女がその瞳で捉える暴力と自然の対比は、観客自身の「心」を映し出す鏡として機能する。

かつて天才子役と謳われたキム・ヒャンギと、本作で天才的な演技をみせた新人キム・ミンチェ
ふたりが母娘役で共演していることは、魂の継承という意味で実に象徴的だ。

sub08

タイトル「ハラン」が指し示す、静かなる宣戦布告

タイトルの「ハラン(한란)」は、冬の漢拏山(ハルラサン)に自生し、雪の中で花を咲かせる「寒蘭」を指す。
極寒の試練に耐えて咲くその姿は、凄惨な事件後も「連座制」による差別に縛られながら誇りを失わなかった済州島の人々そのものの投影だ。

ハ監督は、美しい済州島の風景をシネスコサイズの映像美で切り取りつつ、そこに潜む暴力性を5.1chサラウンド音響の銃声や風の音によって際立たせ、歴史を「身体的な体験」として観客に突きつける。

sub10

日本へと繋がる「魂のバトン」

プロデューサーを務めたのは、在日コリアンとして自身の家族史から国家と個人の相克を描き続けてきたヤン・ヨンヒ

事件の前後、多くの済州島民が迫害を逃れて大阪などの日本へ渡り、その記憶を胸に刻んできた。
劇中の
「この恐ろしい惨劇を忘れてしまったら、誰が記憶にとどめると言うの?」
という問いかけは、国境を越え、今を生きる私たちの前にも横たわっている。

sub04
日本と、朝鮮
帝国主義と、共産主義
本土と、離島
鎮圧隊と、反乱者
軍人と、市民
クリスチャンと、巫堂(무당:ムーダン)
現実と、理想……sub05

『済州島四・三事件 ハラン』ではそれぞれの登場人物の視点から様々な対比構造が浮き彫りになり、大きな対立と葛藤をまざまざと見せつける。

この映画は、海の向こうの単なる寓話でもなければ、時代を隔てた歴史の教訓でもない。
私たちが暮らす日常と、今を生きる時代と、地続きの物語なのだ。

sub02

119分の逃避行の果てに、歴史を記述できないまま横たわる「白碑(백비:ペクビ)」にどんな名前が刻まれるのか――。
2026年4月3日、シネマスコーレポレポレ東中野第七藝術劇場などで公開される本作を通じて、その答えを探してほしい。

『済州島四・三事件 ハラン』

2026年4月3日(金)
ポレポレ東中野
シネマスコーレ

ほか全国順次公開

出演:キム・ヒャンギ(『神と共に』2部作、『無垢なる証人』、『雪道』)、キム・ミンチェソ・ヨンジュキム・ウォンジュン
脚本・監督:ハ・ミョンミ プロデューサー:ヤン・ヨンヒ 撮影:オム・ヘジョン 音楽:キム・ジヘ 音響:ムン・チョルウ
編集:イ・ヨンジョン 照明:シン・テソプ 美術:キム・ジンチョル

2025年|韓国|韓国語|カラー|119分|シネスコ|5.1ch|原題:한란

©Whenever Studio

配給:シネマスコーレ、MYSTERY PICTURES

HP: https://hallan-movie.com
X: @hallan_film