
2026年1月9日(金)より全国公開(鹿児島では1月2日より先行上映)青春叙事詩
『郷』(ごう)
名古屋ではミッドランドスクエアシネマでの公開となる。
伊地知拓郎監督の故郷・鹿児島を舞台に、構想から約10年をかけて完成した本作は、デビュー作にもかかわらず上海国際映画祭をはじめとする数々の国際映画祭で高い評価を重ねる世界基準の芸術作品だ。

本作『郷』は、「心で見て、心で感じる」ことに挑んだ93分の映像詩。
プロ野球選手を夢見る高校球児・岳(がく)を通して、怒号が飛び交うグラウンドでの厳しい現実、人間社会での理不尽さとの闘いが描かれる。

特筆すべきは、台詞を極力排したその独特の語り口……映画的文法だ。
監督は、物語は音楽のコード進行のような作品の「枠組み」に過ぎず、音と光が潜在意識へ直接働きかける「言語」を備えていると考え、敢えて後半にかけて表現の抽象度を上げていった。
まるで、アトリエを飛び出し、パレットでなくカンヴァスで色を重ねた印象派の画家のように。

極端に少ない台詞、人間の視野に近い画角、浮遊感のある映像、そして音楽も監督自身が80%以上を手掛け、壮大なオーケストラが奏でるクラシック音楽が、観る者自らが「物語」を紡ぐことを求め、「他人の物語」を「鑑賞者の物語」へ転じることに成功している。
これは、知的冒険心の探究である。

映像面では、アジア初となるARRI®社からの機材提供による描写と、全編マジックアワーにこだわった画は圧巻の一言。
夏の田園、青い空、大きな入道雲、噴煙を上げる桜島など、雄大な自然の描写が静かに、深く、繰り返し、観る者の心を穿つ。

人生には思い通りにならないことが起きるが、子供の頃の世界は生き生きとして新鮮で美しいという監督のメッセージが込められている。
社会的幸福度と自然的幸福度との対比は、如何すれば「心」を取り戻せるかという問い掛けのようだ。

今回は、本作の根幹を支えた小川夏果プロデューサーへの共同インタビューを敢行した。
壮絶な挑戦の先にあった「幸福の追求」というテーマ、そして地方創生に懸ける熱き想いを、余すことなくお届けする。

監督との出会い、そしてプロデュースへの道のり
小川プロデューサーは、留学先の北京電影学院で伊地知拓郎監督と出会い、その作品の美しさ、ユニークな音作り、映画作りへの誠実な姿勢に心を奪われたという。元々女優を目指した時も「いろんな人を助けたい」という思いがあったため、監督が抱いていた
「日本の子供たちの精神的幸福度の低さへの危機感」
という制作理念に強く心を打たれたそう。
しかし、最初からプロデューサーを目指していたわけではない。
以前の女優経験からプロデューサー業の大変さを理解しており、最初は「絶対やりたくない」とさえ言っていたそうだ。
しかし、コロナ禍で帰国し鹿児島にいた監督が、日本に知り合いが少ない中で映画を作りたいという状況を見て、
「助けてあげたい」
という思いで手伝いを始めたのが始まりだという。
監督に「小川さんはプロデューサーが向いている」と半年間説得され続け、最終的にこの『郷』という作品だけは最初から最後まで責任を持ってやり遂げるのは自分しかいない、と整理がついてプロデューサー業に踏み切ったのだとか。
銀行で法人営業を経験した後、女優に転身し、さらにプロデューサーとなった小川氏だが、過去の経験は
「全てが繋がった」
と感じていると語った。
特に銀行での繋がりは、今の職業に活かせているという。

3000万円相当の機材提供!ARRIスポンサーシップ獲得の裏側本作の映像美を語る上で欠かせないのが、世界的機材メーカーARRIとのスポンサーシップだ。
アジア唯一の企画プロジェクトとして、製作費約3000万円相当の機材無償提供を勝ち取ったという快挙を達成している。
この成功の鍵は、監督の強いこだわりだった。
監督は、
「この作品の主役は人ではなく自然だ」
とし、自然をいかに美しく撮れるかが勝負であり、ARRIの機材が絶対必要だと譲らなかったという。
小川プロデューサーは当時、ARRIが高価な機材だとは知らずに
「きっと借りれるだろう」
と問い合わせたが、見事に全て断られた。
そこで、中古のARRI機材を購入するためにクラウドファンディングで資金を集め、初期の野球のシーンを撮影したという。
この中古機材で撮られた素材を送ったところ、ARRI本社側が
「すごく綺麗だ」
と評価。
さらに、この企画が、監督・プロデューサー・カメラマンのプロフィールに加え、日本人だけでなくオーストラリア人や中国人もいるグローバルなチームで、挑戦的な姿勢を評価されたことで、スポンサーシップ獲得へと繋がった。

マジックアワーとの死闘と、地方から発信する使命撮影はほとんど屋外で、マジックアワーの瞬間を狙ったシーンが多かったため、天候との勝負が極めて困難だったと小川プロデューサーは振り返る。
特に夏場は1ヶ月のうち3日しか晴れがなく、撮影は大変だったようだ。
さらに、完成後もインディペンデント作品ゆえの劇場公開までの「出口がない」という苦労を痛感したという。

プロデューサーは本作の制作のために鹿児島県姶良市へ移住し、会社を設立している。
この地方での映画作りには、都会とは違う厳しさもあった。
当初は女性プロデューサーに対し
「怪しげな人が来た」
という扱いもあったが、住むことで遊びではないという姿勢を示し、地元の協力者を得る努力を続けたという。
この地方での発信には明確な目的がある。
海外に出たことで日本の長所と短所が見えた監督の認識を土台に、「幸福の追求」というテーマを掲げているが、小川氏自身も
「地方でもこういうことができるんだ」
という希望を地元の子供たちや若者に与えたいという思いがある。
映画のタイトル『郷(ごう)』には、故郷、郷愁への思いが込められている。
幼少期を愛知県豊橋市で過ごし、その田園風景の記憶が鹿児島での撮影で蘇った小川氏にとって、自然と触れ合うことの価値は計り知れない。
転勤族で故郷がないと思っていた自分でも、自然を通して
「心の中に故郷はある」
と感じ、その大切さを描きたかったという。

この作品は、2024年文部科学省選定映画にも認定されており、中学校・高校での心の健康や生き方を考える学習プログラムとして活用が進んでいる。
この教育的な働きかけは、劇場公開よりも大事だという監督の強い思いから始まったそうだ。
『郷』は、映画がまだ未開拓のフロンティアであるという考えのもと、私たちに「自然的幸福」の回路を確かめさせる、壮大な挑戦作だ。

地方から世界へ……心に響く映像体験を、ミッドランドスクエアシネマでぜひ体感してほしい――。

映画『郷』
監督・脚本・編集・音楽・撮影:伊地知拓郎プロデューサー・衣装・美術:小川夏果
キャスト:
泉澤祐希(語り)、小川夏果、古矢航之介、阿部隼也、千歳ふみ ほか
全国公開:2026年1月9日(金)より順次ロードショー
名古屋上映劇場:ミッドランドスクエアシネマ
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