2025年09月27日、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8−12 アートビル1F)にて、女優・芋生悠の初監督作品

『解放』

1日限定の特別プログラムとして上映された。

映画本編(22分)の上映に加え、監督・出演・パフォーマンスを兼任した芋生悠の朗読と映像を交えたパフォーマンス、そしてシネマスコーレ坪井篤史支配人が司会進行を務めたトークショーが展開された。

本作は、映画とリアルイベントでのパフォーマンスが融合することで初めてひとつの作品として完成するという、インスタレーションアートの要素を持つ異色の短編映画。

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芋生は役者を続ける中で、ものづくりや裏方にも興味を持ち、「監督をやってみたい」と以前から口にしていた。
しかし、なかなか「書きたいもの」が見つからず、踏み込めずにいたという。

そんな芋生が『解放』制作を思い立った切っ掛けは、役者として悩んだ時期があったこと。
芝居をすることが大好きだったにもかかわらず、その大好きなものを「自分で奪ってしまうような、なんか奪われたような感覚」に襲われていた。

この葛藤を乗り越えようと、トンネルを抜け出せるような、あるいは映画の中で再び一つ抜け出していくような「体験する映画」を自ら作りたい。そして、この作品を通して成長しつつ、「自分を愛すると共に、他者への愛というかがなんかこう同時にこの映画の中で表現できたらいいな」との願いを込め、制作に挑戦したと語る。

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映画館あってこその「めちゃくちゃなこと」

当初、本作は「(短編)映画だった」と明かす。
しかし、短編ゆえに「上映機会がなかなかない」という懸念があった。せっかく作ったのだから上映しないともったいない……どうすればお客様に楽しんでもらえるか考えた末、「ちょっと(パフォーマンスを)つけちゃうか」というアイデアが生まれた。
つまり、この上映方式は、映画が完成した後に考案されたのだ。

芋生は、本作を撮る直前に『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』に出演し、シネマスコーレにも足を運んでいた経験がある。
この経験から、「映画って映画館があってこそだ」と感じ、映画館でやることを強く意識した。
劇場側が許してくれるならば、この「めちゃくちゃなこと」(パフォーマンス)は、お客さんと一緒に作品を「体験できる場所」として成立すると考えた。
シネマスコーレの坪井支配人も、このパフォーマンス方式は、お客様と映画を通して対話し、劇場側が共同でやれる感覚を生んでいると、その面白さを評価した。

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初期衝動と「概念の羅列」な脚本

芋生は、監督と出演を兼任したため、演出をつけることが「全くもって素人」で、監督が「全然できてなかった」と赤裸々に語った。
自身が出演していることで「こんがらがっちゃって」、現場はプロのスタッフに助けられた感覚が強かったという。

本作は、芋生自身が「試すようなことはしてなくって、すごい自分の「どストレート」がこれ」と断言するほど、初期衝動が詰まった作品。
脚本は「一応なんかシナリオみたいな感じで書いて」いたが、現場スタッフからは「概念みたいな概念の羅列」と言われた逸話も明かした。
芋生にとって物語になっていても、客観的には難解な要素があったようだ。

また、本作が全編モノクロームである理由も、芋生の美術的な思想に根ざす。
高校時代に美術コースで絵を書いていた芋生は、「色をたくさん混ぜると黒になる」という黒の作り方を知っており、「きっとたくさん色が混ざってこの黒なんだ」と観る者に感じてもらえるような表現をしたかったという。
映像は、極限まで要素を減らし、主人公の身体の芯から解放していく様子を撮る試みだった。

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主演・小川未祐の「解放の道筋」

芋生は、W主演を務めた小川未祐を見てこの物語を思いついたと語る。
小川とは10代の頃にオーディションですれ違った程度で、元々友人関係ではなかったそう。
しかし、芋生が脚本に悩んでいた時、SNSで小川が「無機質なお部屋で踊る自撮り映像」を目にする。
その踊りは、部屋の色が変わるように美しいものであり、芋生は「身体から、表現や思考、魂がそれぞれ自由に解放されるような作品にしたい」と強く感じ、小川さんに当て書きをする形でキャスティングを決めたのだとか。
小川は劇中の効果音や音楽の創作、あるシーンの振付けも担当し、「本作に解放への道筋を与えてくれている」という。

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巡業地で変化するパフォーマンス

本作の上映イベントは、東京のテアトル新宿から松本シネマセレクト、元町映画館を経て、今回シネマスコーレにたどり着いた。
坪井支配人によると、シネマスコーレはツアー会場の中で「一番コンパクト」だ。

芋生は、毎日公演を行っていても違う感覚があると述べ、それは舞台に近く、場所ごとに感覚が異なるため「心の準備がなかなかしづらい」状況で臨んでいると明かした。
特にこの日のシネマスコーレでの公演は「一番緊張した」と吐露し、坪井支配人もその緊張感が伝わってきたと笑った。

劇場ごとに変化を持たせる中、シネマスコーレでは照明に大きな変化があった。
これまではタイミングで照明をつけたり消したりする演出もあったが、今回は「真っ暗で行こう」という方針に変更したという。
ちなみに、松本ではスタンドマイクだったそうで、芋生監督は「私、歌い始めるのか(笑)!?」と思ったとか。

芋生監督は、今回の『解放』は「初期衝動」と「気持ちだけ」で作った作品だと振り返りつつ、現在執筆中の脚本では「成長した自分」を見せられると意欲を示した。
以前は「真正面からぶつかろう」という近い距離感の表現だったが、次は「ちょっと距離を取った上でちゃんと気持ちも乗せつつ」新しい表現に挑戦したいという。

情報公開前ながら、今後も巡業が展開するという『解放』。
明日9月28日(日)芋生悠は、井上淳一監督の地元・犬山で開催される【『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』凱旋上映会】舞台挨拶に立つので、また新たなインスピレーションを得るのかもしれない――。

『解放』公式X:

https://x.com/kaihou_movie