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自身のベトナム戦争体験を描いた『プラトーン』(1986年)や『7月4日に生まれて』(1989年)でアカデミー監督賞を二度受賞したオリバー・ストーン監督により、今人類が直面する最も喫緊の課題に真っ向から挑むドキュメンタリー映画『未来への警鐘 原発を問う』が誕生した。

現代の地球は、気候変動とエネルギー貧困という二つの難題に喘いでいる。
2050年までに現在の2~4倍もの電力が必要となるが、再生可能エネルギーだけではこの巨大なギャップを埋めるのは現実的ではないと本作は指摘する。
現状で考えると、世界中で最も発電に活用されている化石燃料、すなわち「クリーンではない」エネルギーを使わざるを得ないのだ。
そう、気候変動は解決できないということになる。

貧困国では、安価で迅速な発電手段として石炭が使われがちだが、これが世界中で年間50万人の死者を生み出し、癌や肺気腫、心臓病といった深刻な健康被害をもたらしている事実を直視する必要がある。
多くの国、そして人々は再生可能エネルギーを選択し、世界的な投資は3兆ドルに達し、太陽光は8割、風力は5割もコストが下がった。
しかし、多大な努力と期待にも拘わらず、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す生態系と経済に深刻な被害が及ぶことを避けるため2050年までにカットすべき炭素排出量は、なんとほぼ100%。
しかも、2017年にパリ気候協定からアメリカを脱退させたトランプ大統領は、今もなお気候変動を「でっち上げ」と断じている。

私たちは、地球上の全生命を脅かす愚行を止めることも出来ないというのか。
社会派として世界に名を馳せる名匠オリバー・ストーン監督は、本作で「いかに気候変動を解決するか」という壮大な問いに一つの解決策を投げかける。
それは、原子力エネルギーの活用だ。

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人類はこれまで、広島・長崎への原爆投下やチェルノブイリ原発事故、福島第一原子力発電所事故といった被ばくによる甚大な被害を目の当たりにしてきた。
しかし、オリバー・ストーンは、石油・ガス業界が主導した大規模なネガティブ・キャンペーンによって、核に対する恐怖心が過剰に煽られてきた側面もあると鋭く指摘する。
これはまさに、常識とされていたイメージを覆し、新たな真実を掘り起こそうとする挑戦的な試みだ。

監督自身が原子力発電所へ赴き、徹底した取材を敢行。
科学者ジョシュア・S・ゴールドスタインの著書『明るい未来』を基に、「原発」が未来への鍵となるのか、そしてオリバー・ストーンの提案をどう受け止めるべきかという問いを観客に投げかける。

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さて、以下はレビューとして相応しいものではないかもしれないが、敢えて書かねばならないことがある。
映画『未来への警鐘 原発を問う』で示される事実を、意見を、気候変動の、地球温暖化の解決策として理解して本当に良いのか、ということである。

オリバー・ストーン監督が自ら、原子力発電所、高速増殖炉の技術部門、核融合技術の研究機関へ出向き、技術者、研究者から直接意見を聞く場面が繰り返し登場する。
だが、監督から疑問が投げかけられることはあっても、反対意見をぶつけ対立する場面は見られない。

事実に即したグラフやニュース映像が採用され、実に明快で分かりやすいドキュメンタリーとなっている。
私たちは先入観に曇っていた我が眼を疑うことになるが、これは取りも直さず作品内で語られる「環境問題のロビイスト」たちが用いた手法のカウンターに過ぎない。

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核関連の技術をエネルギー問題の解決策として議題に掛けるのであれば、軍事利用の永久放棄くらいの担保があるべきではないだろうか。
忘れてはいけないが、核関連技術の中で最初に実用化されたのは、1945年の原子爆弾だ。
遅れること9年後の1954年、最初の原子力発電所がソ連で完成している。

そもそも市民たちは、石油・ガスメジャーに「騙された」のではない。
スリーマイルの原発事故などで核関連技術の恐ろしさを肌で感じた人々は、ネガティブ・キャンペーンを(盲目的であったとしても)「選んだ」のだ。

その後発生したチェルノブイリの、福島第一原発の事故で、核技術を恐れていた人々にとって重要なことは死者数ではない。
自分たちが抱いていた漠然とした不安が、間違いではなかったという事実だ。

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オリバー・ストーン監督が本作『Nuclear Now』(原題)で、気候変動の解決策は原子力発電であると断じたのには、理由がある。
拙速すぎると感じるほどの論建てにも、理由がある。
それは、破滅に至るまでの時間的余裕が絶望的に短いという事実だ。

猛暑の中エアコンを切ったなら、命を落とす者は多いだろう。
具体的な数は予測できないが、放射能汚染が直接原因で亡くなる人を上回ることは確実だ。
だが、数万世帯が暮らす規模の都市で全員がエアコンを切ったなら、話は変わってくる。

「そんなこと出来っこない」あなたは、そう言うに違いない。そして、私もそう思う。
しかし、限りなくそれに近いことを実現しない限り、エネルギー問題を原発に全振りする未来しか、現状では見えないのだ。

私たちは、2050年までに炭素排出量を100%カットする必要があり、さもなければ破滅が待っているというのに、解決への結論はおろか議論の糸口すら見つけられずにいる。
それどころか、気候変動はでっちあげだと決めつける国家元首までいる。

『未来への警鐘 原発を問う』の105分という上映時間は、未来を託すには短すぎる。
だが、人類が、生物が、地球が瀕している危機を知るには充分だ。

オリバー・ストーン監督が世界に送る、大いなる問題提起。
ところで、あなたは――?

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映画『未来への警鐘 原発を問う』
2025年8月1日全国公開

監督・脚本:オリヴァー・ストーン 脚本:ジョシュア・S・ゴールドスタイン 音楽:ヴァンゲリス

2022年/アメリカ/105分/カラー/5.1ch/原題"NUCLEAR NOW"/配給:NEGA

『未来への警鐘 原発を問う』公式サイト
https://nuclearnow.negadesignworks.com/
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