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ヘマント・シン、国籍はインド。
インド国内のリアリティ番組に出演したことを切っ掛けに、役者の道を志す。
映画の世界に飛び込んだヘマントは、独学で映画製作を学んだ。
そして、全財産をかけて初監督映画に挑んだ。

『復讐のワサビ』、ヘマント・シン初監督作品。
監督自らの手によるオリジナル脚本で、全編日本語の、119分という大作が完成した。

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『復讐のワサビ』ストーリー

幼い頃から顔の傷のせいで酷いいじめを受けてきたカノ(小池樹里杏)は、母・モトコ(ふじわらみほ)と田舎の村で貧困にあえいでいた。
ある日、村のごろつき・ユウタ(井上雄太)からもらったルービックキューブにより、カノの頭脳に秘められた才能が開花する。
絶望の淵に叩き落された時、カノは「ワサビ」と名を変え、社会への復讐を決意する。
ワサビとファミリーを組むのは、ユウタ、母の彼氏だったヒロ(野村啓介)、学生時代ただ一人理解者だったリエ(河辺ほのか)。
4人は手始めに、ショッピングモールで「トレジャーハント」するのだが――。

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人生とは誠にもって不可思議なもので、運命とは実に不可解なものだ。
『復讐のワサビ』は、そんなことを心の底から感じさせてくれる映画だ。

インドの新人監督が、日本で撮った初監督作品が、何故ここまで人を惹きつける力を持つのか。
それは、ヘマント・シン監督自身が、如何に不可思議な人生を送り、不可解な運命を辿ってきたことに起因しているのかもしれない。

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主人公のワサビは、人生を憎んでいる。
ワサビの元に集まるファミリーも、それぞれが何かを渇望している。
まるで「オズの魔法使い」のドロシーと仲間たちのように。

劇中、登場人物たちは、様々な乗り物で移動する。
自転車で、職場へ。電車で、東京へ。他にも、軽トラ、高級車。
まるで運命に抗うためには、幸福を掴むためには、今いる場所を離れる必要があるかのように。

ワサビと仲間たちは、虹の彼方を目指し、一体なにを見付けるのだろうか。
物語に時おり挿入されるドローン撮影による美しいが、その一端を表しているようにも映る。

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主人公ワサビ(カノ)を演じたのは、日本とフィリピンにルーツを持つ、小池樹里杏。
俳優業だけでなく脚本家、演出家としてマルチに活躍するだけあって、主演のみならず脚本監修、制作支援と『復讐のワサビ』に欠かせない存在となった。

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そして、脇を固める「ファミリー」の存在感が光る。
野村啓介、井上雄太、河辺ほのか、そして、ふじわらみほ。
彼らがいてこそ、『復讐のワサビ』は完成したといっても過言ではない。

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他者のことを思いやり、その人の立場に成り代わって考えることは、簡単なことではない。
人は自分が出来ることを無自覚に他人に期待するし、自分に出来ないことが他人には出来ることを認めたがらない。
だからこそ、未だに「いじめられた側にも原因がある」などという暴論を手放すことが出来ない。

そんな共感力の欠如は、映画など娯楽作品にも大きな影響をもたらしている。
他者に共感する能力に乏しい私たちが楽しめるように作られた作品は、ことさら解りやすさが重要視される。

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日本映画は、説明過多で過剰な押しつけの親切心で溢れている。
様々な忖度の結果、観客たちは判で押したように一様な感想を抱くことになる。

海外の映画はというと、私たち観客は無意識的に理解の範囲を「勝手に」広げてしまう。
「これは外国の話だから」と、感じた違和感を「勝手に」アジャストしてしまう。

そんな風に「忖度」や「アジャスト」にまみれた鑑賞からは、残念ながら豊かな考察は生まれづらい。
観る者の心に残るのは、単なる同情だ。

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『復讐のワサビ』はというと、そのような「過剰な調整」から懸け離れた映画である。
それは恐らく、初メガホンを取るインド人監督が、日本で映画を撮るという、極めて稀有な経緯が起因しているのだろう。

言うなれば、アスファルトの平地しか走ったことのないランナーが、未舗装の山岳コースを走破するようなものだ。
「忖度」された鑑賞に慣れた私たちは、『復讐のワサビ』で数多の違和感を味わいまくることになる。

これはまさに、「他人の人生を覗き見る」という、映画本来の鑑賞体験と言って良い。
『復讐のワサビ』から受け取るのは「原始の感情」で、生易しい「同情」などではない。
もっともっと魂の深い部分で感じ取る、「共感」だ。

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人は、人生に、運命に真正面から対峙する時、ようやく自分が心の底から求めるものを知る。
この世には、大切なものがある。忘れてはいけないことがある。
ヘマント・シン初監督映画『復讐のワサビ』119分を観た者は、それを知ることになるはずだ――。

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『復讐のワサビ』

監督・脚本:ヘマント・シン
撮影:へマント・シン|助監督:萩山 沙貴|音楽:佐藤リオ|録音:桐山裕行 松川 航大
音響効果・サウンドデザイン:桐山裕行|特殊メイク・ヘア:山部なな|カメラアシスタント: カク セイケン|照明アシスタント:カク セイケン 小沼龍太
制作スタッフ:末永愛子 馬場貴平 五十嵐山人 マイケル・ダンカン|ロケーションコーディネーター:植松慎一|バックステージフォト:東海林ひろ|ラインプロデューサー:トーマス・アッシュ
編集:へマント・シン|VFX:セバスチャン・ナーシン へマント・シン

製作プロダクション:Hema Films|制作支援&キャスティング:ジェイジャーニー|配給: SAIGATE Inc.|パブリシティ:とこしえ|

2023年/日本/119分/1:90:1/5.1ch

©2024 Hema Films. All rights reserved

『復讐のワサビ』公式サイト

https://hemafilms.com/wasabi/