
映画『映画の朝ごはん』が、3月2日(土)シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)で封切となった。
タイトルを聞けば、撮影現場の食事の実情に迫るドキュメンタリー映画かと思いきや、そんなミニマムな話では終わらない。
撮影時のみならず、人間にとって必要不可欠な「食」を通じて、映画業界、特に「制作部」と称される人々の知られざる悲喜交々を赤裸々に活写した、珠玉の記録映像だ。

それも、視聴対象はいわゆる映画ファンに留まらない。
制作部とは、予算の調達、管理から、撮影時の運営、興行の折衝など、まさに映画になくてはならない「縁の下の力持ち」たち。
その仕事ぶりは、老若男女を問わず胸を熱くさせられること請け合いだ。

『映画の朝ごはん』では、ちょっと驚くようなビッグネームの映画人たちのインタビューが観られるのも特筆したい。
樋口真嗣、黒沢清、山下敦弘、沖田修一、瀬々敬久……俳優・内藤剛志の姿も。
映画通たちにとって宝物のような話が次々と飛び出すだけでなく、映画に疎い方たちも作中で語られる名作の数々を観たくなるはずだ。

とかく業界ネタの苦労話は何かと鼻についてしまうことも否定できないが、『映画の朝ごはん』ではそんな厭らしさは微塵も感じない。
これはやはり、「食」に主眼が置かれているおかげであろう。

そんな「食」、特に「朝ごはん」について、映画界では知らぬ者のいない伝説のお弁当屋さんが存在する。
それが、東京都練馬区の「ポパイ」。
とはいえ、よほどの映画通、特に首都圏の撮影現場に精通していない私のような地方の映画ファンは、小泉今日子のナレーションでその名を聞いたとて呆然とするばかりだ。
ところが、『映画の朝ごはん』を観れば立ちどころにポパイの「生ける伝説」ぶりを知ることとなる。

ポパイのメニューは、おにぎり、鶏の唐揚げ、ゆで卵、たくあんという朝食に特化したシンプルなもの。
だが、おにぎりの具、おかずとの組み合わせで自由度が格段に上がり、オーダーメードと言っても過言ではない。

深夜0時に御飯を炊くことから始まり、ロケ隊の集合場所へと早朝5時に届けられる。
しかも、深夜2時過ぎに手配し忘れていた朝食の追加オーダーが入ることもあるという。
続けること……なんと、40年!

映画を観ていて、ようやく理解した。
『映画の朝ごはん』とは、撮影現場のケータリングにフォーカスすると思わせて、実は映画業界の実情を俯瞰させる作品かと思っていた。
しかし、違うのだ。
そもそも「食」にまつわること自体、映画界なんぞよりずっと大きなテーマなのだ。

生きとし生ける物にとって、食とは生存の基本である。
あらゆる生物は、養分を摂取してこそ、生命を繋いでいける。

人類は、かつて自ら生命の危機に直面して得てきた食料を、今ではいとも容易く享受できる。
だが、誰かが視えないところで力を尽くしているからこそ、手軽に食事ができるのだと思い知らされる。

そしてそれは、食に限ったことではない。
映画の制作部しかり、視えないところで這いつくばり体を張る誰かがいるからこそ、現代社会は成り立っている。
夜が明け、朝が来る。
今日も「視えない誰か」のおかげで、一日が始まる――。

『映画の朝 ごはん』
竹山俊太朗 守田健二 福田智穂 鈴木直樹磯見俊裕 大山晃一郎 沖田修一 黒沢 清 下田淳行 瀬々敬久
内藤剛志 野呂慎治 樋口真嗣 藤井 勇 山下敦弘
ナレーション:小泉今日子
監督・企画・撮影・編集:志子田 勇
音楽:yojik とwanda
製作:由里敬三
プロデューサー:飯塚信弘
録音:百々保之
整音:松本理沙
撮影協力:芦澤明子(J.S.C)
ポスター絵画:伊藤ゲン
制作統括:阿部浩二
制作協力:MOM&DAVID
配給:彩プロ
2023年/DCP/131分/ドキュメンタリー
助成:AFF2
©ジャンゴフィルム
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