銀世界に広がる、慟哭。
大海原を渡る、和太鼓のリズム。
夜明けを告げる、ハミング。
三島有紀子監督の最新作『一月の声に歓びを刻め』では、胸に響く音声が心を揺さぶる。
三島監督自身が経験した事件を背景に、自主映画からスタートさせたという『一月の声に歓びを刻め』は、「性暴力と心の傷」という重いテーマに正面から向き合った渾身の一作だ。
『一月の声に歓びを刻め』ストーリー
北海道、洞爺湖畔に一人で暮らすマキ(カルーセル麻紀)は、丁寧にお節料理を手作りする。長女一家(片岡礼子、宇野祥平)を迎え家族で食卓を囲む正月を送るマキだが、かつて次女のれいこを亡くしたことは今も影を落としている。
八丈島に暮らす誠(哀川翔)の家へ、5年ぶりに娘・海(松本妃代)が身重で帰ってきた。
海の身を案じながら何も聞けない誠は、かつて妻を亡くしており、海と一緒に看取った時のことを今も気に病んでいた。
れいこ(前田敦子)は、元彼の葬儀に出るため故郷の大阪・堂島に帰ってきた。
堂島の街を彷徨うれいこは、「トト・モレッティ」を名乗るレンタル彼氏(坂東龍汰)と一夜を過ごす決意をする。忌まわしい過去と決別するために――。
2024.2.12(月・祝)、センチュリーシネマ(名古屋市中区栄三丁目29-1名古屋パルコ東館8F)で開催された舞台挨拶を取材した。
登壇したのは、三島有紀子監督だ。
大きな音、消え入りそうな声、感情を込めた呼吸音……
三つの島をめぐる物語のすべての「おと」を肌で聴いた時、観る者の心には祈りにも似た感情が去来する。
すべての人が、穏やかに、幸せに生きることを祈ることは、実はそれ自体が罪なのか?
他者を傷付けずに生きることが出来ない私たちは、煩悶してしまう。
だが、日々感じる歓びや、心に映る「うつくしいもの」は、何人たりとも否定できない。
私たちは生きる、しあわせになるために――。
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