
絵画作品を動画で観ることは、果たして意義ある鑑賞法といえるのだろうか?
「ある」と、声を大にして言いたい。
名画は自分の眼で観るに越したことはないであろうが、至近距離で思う存分(それこそ嘗めるように)鑑賞できる機会など皆無に等しい。
精密な図録を眺めることは鑑賞体験を補完する価値のある行為だが、写真では名画の筆致を確かめるに充分でないことは誰しも経験したことがあるだろう。
観たい作品が傑作であればあるほど、理想と掛け離れた鑑賞になるものだ。
だが、理想に極めて近いと思われる鑑賞方が、ドキュメンタリーシリーズ「アート・オン・スクリーン」には在る。
ご存知の通り、「アート・オン・スクリーン(原題:Exhibition on Screen®)」とは、美術史に残る画家たちの美術展や絵画を高画質で記録し、映画館の大スクリーンで鑑賞する大好評のドキュメンタリー映画シリーズ。
名画を彩る繊細な筆致も、高画質を誇る「アート・オン・スクリーン」なら、あたかも肌で感じるように味わうことができる。
それも、カメラが動くことによって立体感を体感できるという、動画ならではの特長も存分に生かされている。
写真、静止画ではなく、動画でなければいけない理由が、ここにある。
写真といえば、(19世紀以降)絵画と常に比較される表現方法である。
チューブ入りの絵具が発明され、画家たちはアトリエから外界へ出るようになり、絵画は写真と一線を画す色彩表現を手に入れた。
所謂「印象派」と呼ばれる画家たちの台頭だ。

だが、そんな画期的な表現を編み出した印象派より2世紀も早く、光による質感を自在に表現した巨人がいた。
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)、バロック期を代表するネーデルラント(オランダ)の画家である。
2月2日(金)から全国ロードショー公開となる「アート・オン・スクリーン」特別編は、2023年2月、オランダ・アムステルダム国立美術館で開催された史上最大のフェルメール展を記録した貴重な展覧会の映像作品。
展覧会のために世界中から集められたフェルメールの作品は28点。
チケットは数日で完売するほどの人気を博し、113ヵ国から65万人が来場したという。

フェルメール、本名ヤン・ファン・デル・メール・ファン・デルフト(Jan van der Meer van Delft)は、実に寡作な画家として知られ、生涯に遺した作品はすべて油彩画で37点(諸説あり)とされている。
習作や創作メモ、日記どころか書簡すら残っておらず、詳細な伝記も書かれていないフェルメールは、「謎の画家」とまで呼ばれている。
『フェルメール The Greatest Exhibition -アート・オン・スクリーン特別編』では、アムステルダム国立美術館でのフェルメール展に集結した28点の名画を、高画質により存分に鑑賞できる。
しかも、オランダを代表する美術館館長、キュレーター、学芸員、研究者……謂わばフェルメールを愛する代表者の解説付きだ。
世界一詳細で興味深く、しかも面白いギャラリートークを堪能できるのだ。
写実的なデッサン力、綿密な空間構成の妙、質感表現を豊かにするポワンティエ (pointillé)。
フェルメールが寡作なのは、生活苦による様々な兼業が原因というのが定説のようだが、作品の完成度を追求するあまり長すぎる制作期間を要したからではないかと、つい妄想してしまう。
最新のX線調査による検証により、フェルメールが出来上がった作品の構図を度々変える画家だということが分かっており、『フェルメール The Greatest Exhibition』では詳細を確認できる。

映画館で、美術展を鑑賞する。
これは、大いに意義のある選択肢であることをまざまざと実感させられた。
映画というのは、どこまで可能性を広げるのだろう……
また一つ、映画館へ行く理由が増えてしまった――。
『フェルメール The Greatest Exhibition -アート・オン・スクリーン特別編』
2024年2月2日(金)~全国順次公開配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
公式サイト
https://artonscreen.jp/
©Seventh Art Productions
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