
映画とは、総合芸術である。
「総合」芸術と称されるからには、五感あらゆる感覚を駆使して知覚するべきなのだろうが、映像作品は感覚すべてを総動員すべき素材なのかと問われれば、それは否と言わざるを得ない。
すべての動画作品に内包する要素は、鑑賞者にただ二つの知覚を駆使することを強いることを示しているに過ぎない。
すなわち、視覚、聴覚、それのみだ。
だが、劇場……映画館という空間に自身を置いたことがある者は、さにあらずと肌で感じることが出来るだろう。
映画館で、他者と時間を共有して、一つの作品を鑑賞するということは、視・聴・味・嗅・触……すべての感覚を総動員することに外ならないと知っているはずだ。
それは即ち、「生きる」ことと同義である。
だからこそ、「総合芸術」と称されるのだ。
暗闇の中で、光の瞬きを体感する……
そんな「生」そのものを体験する作品が、公開中だ。
半野喜弘監督『彼方の閃光』である。
映画『彼方の閃光』ストーリー
10歳まで視覚を失っていた光は、目の手術を受けた後も色覚を失ったままだった。20歳になり美大生になった光(眞栄田郷敦)は、色の無い世界で藻掻き続けていた。
写真家・東松照明の作品に導かれるように、被爆地・長崎を訪れた光は、ドキュメンタリー映画の監督・友部(池内博之)と運命的な出会いを果たす。
長崎で詠美(Awich)、そして東松照明の足跡を追うため訪れた沖縄でウチナンチュ・⽷洲(尚⽞)との邂逅は、光の生涯に大きな影響を与える。
だが、数十年を経た2070年、光が暮らす世界は驚くべき変容を遂げていた――。

2024年1月28日(日)、『彼方の閃光』公開記念舞台挨拶を取材した。
ミッドランドスクエアシネマ(名古屋市中村区名駅四丁目7番1号 ミッドランドスクエア商業棟5階)、登壇したのは、半野喜弘監督、そして主人公・光を見事に演じ切った、主演・眞栄⽥郷敦さん。

『彼方の閃光』の舞台挨拶は、ここ名古屋で一段落だそうで、今回は客席からの質疑応答を中心としたQ&A大会となった。
事前の打ち合わせでMCの映画パーソナリティー松岡ひとみさんから「名古屋のお客様は、シャイ」と聞いていたお二人は、矢継ぎ早に手が上がるファンに驚きつつ、楽しげに回答した。

Q. 衣装がとても個性的で、記憶を頼りにネットで探してみました。特に靴が可愛くて。
眞栄田郷敦 あれは、実際に自分たちで塗ったんです。今うちにあります(笑)。
半野喜弘監督 衣装のいくつかは、僕の古着です。光のサングラスも、僕が普段かけているサングラスです。友部の着ているサファリジャケットは、僕が25年くらい着てボロボロになったやつです(笑)。

Q. 映画の中で、長崎と沖縄の方言が出てきますが、特に心に残った方言はありますか?
半野監督 沖縄で「……さー」と言うのは、僕は凄く優しい感じがして好きですね。あと、「……しましょうねー」みたいな語尾も。
眞栄田 僕は「チャンプルー」(“ルー”にアクセント)って言い方が好きで、沖縄料理屋さんでも「ゴーヤチャンプ“ルー”ください」って言ってます。

Q. 眞栄田さんは、どの作品でも役になり切るイメージがあります。今作ではどのように役作りしたんですか?
眞栄田 目が視えない、色が視えないということで、内面で感じてきたことも様々で、世の中の良さが見えなかったり、人の温かさが分からない部分もあったのかな、と……だから最初は特に、世の中に対して尖ってる感じで演らせてもらいました。でも、長崎、沖縄に行って、友部さんや色々な人と関わって、色々な苦しいものを見る中で、変化していっていると思います。長崎、沖縄での撮影は、自分も初めて行く場所も多くて、後半はドキュメンタリーのような感じでしたね。光と一緒にというか、光なのか自分なのか分からなくなる……そんな感じでした。

Q. 色彩が乏しい映像の中で、音が物凄く印象に残りました。
半野監督 人間の脳って、計算する速度とカロリーの限界ってものがあるんですよね。その多くが、網膜から入ってくる色彩情報、画像情報なんです。それを遮断することで、ちょっと聴覚に脳の計算速度が行くんですよね。だから今回、モノクロの場面に色が乗ると、多分あの友部(の台詞)の情報量って咀嚼しづらい可能性があるかもしれません。郷敦はサックスやるから、真剣に(音を)捉える時って、目を瞑るでしょ?
眞栄田 絶対そうですね。音の聴こえ方が全然違いますよね。
眞栄田 この作品は、長く残って、広く皆さんに伝われば良いと思ってます。是非劇場で、大きなスクリーンで、綺麗な絵で、良い音で、観ていただきたい作品になっています。周りの方々に広めていただければ嬉しいです。

半野監督 この映画は、ストーリーとそこから導かれる答えを提示するだけの映画ではなく、作品と観客の方々が対話をするような映画にしたいと思い、チームで作りました。映画を観て、何かを感じてもらえたら、その次にまた誰かと対話を続けて、どんどん広げていってもらって、僕たちが今もってる日常の大切さをどうやって守るべきか……少しでもたくさんの人の心に届けばと思っています。よろしくお願いします。

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