『NO 選挙,NO LIFE』 sub5

現代アートの語る上で、「ファウンド・オブジェ」という概念は外すことが出来ない。
哲学的な考察や社会批評要素が含まれる芸術を「コンセプチュアル・アート」と呼ぶが、多かれ少なかれ何らかのコンセプトを内包する現代アートにおいて、ファウンド・オブジェによって構成される作品は一大潮流を成している。

"found" "object"……直訳すれば、「見出されたモノ」とでも言おうか。
例えば、雑誌や新聞からの切り抜きのコラージュ作品、マルセル・デュシャンの「泉」、「もの派」作品、これらが「ファウンド・オブジェ」と呼べよう。
要は、有用、無用を問わず日常に在る「モノ」に、本来の用途とは違った価値を「見つける」ことを意味する。

「ファウンド・オブジェ」は、アートという分野に限定されることではなく、ポップ・カルチャーやエンターテイメントとも親和性が高い。
赤瀬川原平の「超芸術トマソン」や、楠見清の「無言板」など、現代に至っても尚、「無価値なモノに価値を見出す」魅力は私たちの心を掴んで離さない。
各SNSでの画像投稿などで「ファウンド・オブジェ」を生み出し続けるインフルエンサーは、そんな意識すら持っていないだろう。

誰も認知すらしていないモノに、何よりも価値を見出すことができたなら、なんと有意義な人生だろう。
また、誰からも聞いてもらえなかった主張に賛同してくれる人が現れたなら、なんと素敵な人生だろう。

「発見者」と「ファウンド・オブジェ」とは、選挙人と被選挙人との関係に似ている。
私たちは本来、選挙が好きなのだ。

実際、選挙を題材としたドキュメンタリー映画は数多ある。

『選挙』(2007年/監督:想田和弘)『選挙2』(2013年/監督:想田和弘)
『立候補』(2013年/監督:藤岡利充)
『選挙フェス!』(2015年/監督:杉岡太樹)
『選挙に出たい』(2016年/監督:邢菲)
『れいわ一揆』(2019年/監督:原一男)
『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年/監督:大島新)『香川1区』(2021年/監督:大島新)
『劇場版 センキョナンデス』(2023年/監督:ダースレイダー・プチ鹿島)

どれもこれも、作者(監督)が見出だしたモノ(被写体)が、大きな魅力に溢れ、観る者の心を打つ。
まさしく、監督の作家性が溢れている。

だが、今回レビューするドキュメンタリー『NO 選挙,NO LIFE』は、所謂「選挙もの」作品とは一線を画す映画だ。

『NO 選挙,NO LIFE』 sub6

『NO 選挙,NO LIFE』解説

2022年7月、参院選・東京選挙区。立候補者34人に取材を試みるフリーランスライター・畠山理仁の姿があった。
選挙取材歴25年超という畠山は、国政選挙、地方選を問わず、候補者全員を取材した上で記事を書くことを信条としている。
立候補者のスケジュールに合わせ、分刻み、秒刻みで駆けずり回る畠山は、平均睡眠時間が2時間という。
各候補者への取材も進み、選挙戦は佳境に入る頃、ある凶行の一報が日本列島を揺るがす。
畠山理仁50歳、それまで散々家族に迷惑を掛けてきたこともあり、自分の人生を振り返る。
そして参院選最終日、畠山は一つの決意を口にする――。

『NO 選挙,NO LIFE』 sub7

監督は、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』『劇場版 センキョナンデス』『国葬の日』(2023年/監督:大島新)のプロデューサーを務めた、前田亜紀。
ドキュメンタリー作品『カレーライスを一から作る』(2016年)以来の監督作である。

『NO 選挙,NO LIFE』 main

前田亜紀監督が被写体として選んだのは、候補者でもなければ、投票人でもない。
見出されたのは、畠山理仁。
選挙取材歴25年というフリーランスライターだ。

『NO 選挙,NO LIFE』 sub2

私たちは、好きなはずの選挙に、なぜ行かないのか。
それは、投票行為に魅力を感じないからだ。
更に言えば、投票するに値する被選挙人を見出すことができないからだ。

選挙人は投票権を最大限に生かす為にも、すべての候補者の情報を欲している。
だが、新聞各紙も放送局も、報道するのは有力候補のことばかり。
あまつさえ偏向との批判を恐れてか、選挙戦速報そのものを自粛することすらある。

だからこそ、畠山理仁の選挙取材には意義がある。
彼がモットーとしているのは、候補者全員取材。
私たちが大手メディアに求めるべきことを、一介のフリーランスライターが敢行しているのだ、しかもワンオペで!

『NO 選挙,NO LIFE』 sub1

畠山は、政党の後ろ盾も持たず、世間からは「泡沫候補」と揶揄される候補者たちを、敬愛を込めて「無頼系独立候補」と呼ぶ。
無頼系候補者の面々は、誰も彼も個性的で、主張も興味を惹くものばかり。
そして、すべての立候補者の主張を知ることは、有権者にとって何より価値のあることだ。

『NO 選挙,NO LIFE』 sub4

フリーランスライター・畠山理仁は、選挙の面白さを伝え、民主主義のあるべき姿を体現する。
そして何より、畠山その人こそが魅力に溢れている。
私たちは、『NO 選挙,NO LIFE』で、様々なことを発見(found)する。

情報を集め(collect)、選ぶ(select)。
これぞ正しく、選挙(elect)ではないか――。

『NO 選挙,NO LIFE』 sub3

シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)での公開初日が12月9日(土)と間近に迫る『NO 選挙,NO LIFE』は、名古屋先行上陸イベントを開催する。

12月1日(金)18:20よりミッドランドスクエアシネマ2(名古屋市中村区名駅4丁目11−27 シンフォニー豊田ビル)で先行上映会が行われ、上映後にはトークショーが予定されている。

前田亜紀監督大島新プロデューサー、出演者である畠山理仁氏、ゲストとしてジャーナリストの関口威人氏が登壇するので、どうかお観逃しなく。

映画『NO 選挙,NO LIFE』公式サイト

https://nosenkyo.jp/