
ベテラン俳優・小野武彦。
テレビドラマ「踊る大捜査線」シリーズで北村総一朗、斉藤暁と共に「スリーアミーゴス」として人気を博した押しも押されもせぬ名バイプレーヤーだが、個人的には1976年「大都会 闘いの日々」での大内刑事役の印象が深い。
「大都会」では続く「partⅡ」「partⅢ」とシリーズを通しての出演だったが、「闘いの日々」で脚本を務めた倉本聰氏とは1974年のNHK大河ドラマ「勝海舟」からの縁だそうで、その後も倉本作品のドラマに多数出演している。
「踊る」シリーズでの袴田課長を観た時には、「城西署から湾岸署へ栄転したんだな」と、勝手に妄想を膨らませていた。
ほか、「新選組!」「王様のレストラン」「科捜研の女」など、テレビドラマでは本当に印象の残る役柄を務めている。
映画でも『ローレライ』(2005)『星になった少年 Shining Boy & Little Randy』(2005)『ザ・マジックアワー』(2008)『大鹿村騒動記』(2011)『ロボジー』(2012)『鍵泥棒のメソット』(2012)『半世界』(2019)と、これまた印象深い登場人物を務めあげている。
ドラマになくてはならない名優の小野武彦のことだから、映画初主演作が公開中と聞いて、少なからず意外に思った。
そして、映画初主演作に俄然興味が湧いた。
小林稔侍の『星めぐりの町』、
笹野高史の『陽光桜-YOKO THE CHERRY BLOSSOM-』、
渡辺いっけいの『いつくしみふかき』……
ベテランの域にある名優が初主演を務めた映画は、名作が多いのだ。
考えてみれば当たり前で、そんな映画は「満を持して」の「とっておき」作品に違いないのだから。
芸歴57年の小野武彦が「満を持して」務めあげた「とっておき」の映画は、『シェアの法則』という。

映画『シェアの法則』ストーリー
東京・豊島区に事務所を構える春山秀夫(小野武彦)は、仕事以外では人付き合いが苦手な税理士。
頑固で自分の価値観を曲げようとしない性格で、息子の隆志(浅香航大)も家を離れている。
ある日、秀夫は病院から連絡を受け駆けつけると、自転車との衝突事故に遭った妻・喜代子がベッドに横たわっていた。
意識はしっかりしている喜代子の様子にホッとする秀夫だが、腰の骨折で1ヶ月は入院しなければいけないと聞き頭を抱える。
春山家は一軒家を改装したシェアハウスで、喜代子は管理人を務めている。
シェアハウスでは、昼は工場、夜はキャバクラで働く美穂(貫地谷しほり)、外資系企業勤めで週の半分はリモート勤務の加奈子(岩瀬顕子)、ラブホテルで働く中国人ワン・チン(小山萌子)、秀夫の甥で元引きこもりの一男(大塚ヒロタ)、そして新たに入居する劇団員・幸平(岩本晟夢)と、多種多様な人々が共同生活を営んでいる。
秀夫は、喜代子がシェアハウスを始めてから税理士事務所に寝泊まりしているほど、住人たちと対峙するのが苦手なのだ――。

若手の、そして中堅どころの共演者たちが実に生き生きと躍動しているのが印象的だ。

今作でまた一つ新境地が啓けた感がある貫地谷しほりは、とにかく圧巻。
『桐島、部活やめるってよ』(12)『悪の教典』(12)から10年、浅香航大の成長ぶりも目を奪われる。

大塚ヒロタ、小山萌子、上原奈美、そして河合光太郎、岩本晟夢、山口森広とのやりとりも、見所たっぷりだ。

「やりとり」と書いたが、その相手はというと、もちろん名優・小野武彦である。
対峙するキャスト陣すべての個性を、良さを、引き出しを、小野はすんなりと広げてみせる。
そして、宮崎美子、鷲尾真知子というベテラン勢との競演の素晴らしさ。
これはもう、眼福と言って良い。

そして、『シェアの法則』で特筆すべきは、そんなキャスト陣の見事な競演だけではない。
豊かなストーリー、あまねく人々の心を打つテーマ性、確りとしたシナリオ……『シェアの法則』の魅力は、物語にこそある。
それもそのはず、今作は名優・小野武彦が初めての主演作に選んだ映画なのだ。
「シェアの法則」は元々、コロナ禍真っ只中の2021年上演にも拘わらず大好評で2023年度には全国50か所以上で再び上演され8万人もの観客を集めた演劇作品。
映画版『シェアの法則』も舞台版と同じく岩瀬顕子が脚本を担当し、岩瀬はシェアハウスの住人・加奈子役で出演し、主題歌の作詞も担当するなど多方面で力を注いだ。
メガホンを取ったのは、テレビ番組のADを経て、廣木隆一・富岡忠文・平山秀幸・西川美和・李相日・林海象 ほか多彩な映画監督の助監督を務めたベテラン・久万真路監督。
映画作品は、『うちの執事が言うことには』(2019)『増山超能力師事務所 激情版は恋の味』(2018)『白鳥麗子でございます! THE MOVIE』(2016)を監督している。

理解の及ばないことに対峙するのは、難しい。
その対象が人であったなら、難しさも一入だ。
小野武彦が演じる秀夫は少々偏屈が過ぎる頑固者だが、長く生きてきたからこそ知っていることもある。
対話を重ねるうちにお互い分かり合えることなど、虚しい無想に過ぎないのだ。
出来そうにないことだからこそ、秀夫は人付き合いを避けて生きている。
自分の理解が及ばない対象は、怖いのだ。
だが、何かの切っ掛けで、ほんの少しの勇気で、人生が一変することを『シェアの法則』は教えている。
なんだか、作品で象徴的に扱われている花、チューリップのことを思い起こさせる。
チューリップは、王冠のような一重咲きの可愛らしい花が一般的だが、他にも八重咲きやユリ咲き、フリンジ咲き、パーロット咲きなど多様な咲き方がある。
そして、早生種、中生種、晩生種と、開花時期も様々だ。
なにせチューリップには、約5,600以上もの品種があると言われている。
また、カラーバリエーションが多彩なのも特徴で、チューリップは色によって違った花言葉を持つ。
ピンクは「労い」、オレンジは「照れ屋」、紫は「気高さ」、は「待ちわびて」、そして、赤いチューリップの花言葉は「家族への感謝」。
劇中でも紹介されたように、チューリップ全体の花言葉は、「思いやり」だ。
丹精に育てたチューリップの球根は、次の年にもまた花を咲かせる。
人との付き合いも、同じだ。
思いやりをもって接することで、人と人は深く、長く絆を結ぶ。
それには先ず、一人ひとりの違いを知ることだ。
ロードショー公開中の、『シェアの法則』。
愛知県では、刈谷日劇(刈谷市御幸町4丁目208 愛三ビル 5F)で12月1日(金)から上映される。
12月2日(土)13:10-15:00の上映回終了後、なんと主演の小野武彦さんが舞台挨拶に立つそう。
劇場の公式サイトを是非チェックしてほしい。
映画『シェアの法則』
10/14(土)~ K’s cinema12/1(金)〜 刈谷日劇
ほか全国ロードショー
小野武彦
貫地谷しほり 浅香航大 / 鷲尾真知子 宮崎美子
岩瀬顕子 大塚ヒロタ 小山萌子 上原奈美 内浦純一 山口森広 岩本晟夢 久保酎吉
監督 久万真路 脚本 岩瀬顕子 主題歌 「花の記憶」 歌 澤田知可子
企画 日穏-bion- 製作 ジャパンコンシェルジュ 後援 豊島区
宣伝協力 マジックアワー 配給 GACHINKO Film
Ⓒ2022ジャパンコンシェルジュ
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