「ファンファーレ」(fanfare)とは、トランペットやビューグルなど主に管楽器で演奏される華々しい短い旋律のこと。
パレードや祝祭の開始を知らせるメロディが思い浮かぶ。
イスラム文化圏の伝統的金管楽器を意味する「nafīr」(ナフィール)が語源という説があり、このアラビア語は16世紀のフランス語 “fanfare”(トランペットの鳴り響き)、スペイン語の “fanfarron”(自慢屋)、イタリア語の “fanfano”(おしゃべり)という派生語を生んだとか。

『スプリング、ハズ、カム』(2015)『君は永遠にそいつらより若い』(2021)の吉野竜平監督の新作『ファンファーレ』というタイトルには、何かが始まるワクワク感が溢れている。

『ファンファーレ』ストーリー

大石万理花(水上京香)は、焦っていた。
振付師の仕事はなく、ダンススクール講師も受け持ちの生徒の数を減らされ、糊口をしのぐためバイトを掛け持ちする日々。
須藤玲(野元空)は、逃げ出したかった。
就職したドレスメーカーでは実力が認められず、コミュ障が災いして先輩や同僚とも上手くやれず、居場所を見つけられない。
そんな二人に、チャンスが舞い込む。
かつて二人が在籍していたアイドルグループ「Fun☆ファーレ」から、西尾由奈(喜多乃愛)の卒業ライブに関して仕事のオファーが来たのだ。
万理花には、ダンサーとして由奈の卒業曲の振り付けを。
玲には、スタイリストとして卒業ライブの衣装デザインを。
万理花と玲は、Fun☆ファーレ初期メンバーとして共に頑張った由奈のためにも、仕事を受けることにするのだが――。

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W主演を務める水上京香野元空は、ともに今作が映画初主演となる。
初主演映画と言えば、俳優を続ける上で「名刺代わりの作品」としてキャリアに残り続ける大切な作品だ。
そんな一世一代の映画主演を、水上京香と野元空は見事に演り遂げた。

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水上京香が演じた大石万理花は、「Fun☆ファーレ」の初代リーダー。
先頭に立って引っ張るパワーが溢れるが、同時に周囲を気遣いすぎる繊細さを併せもつ。
1995年生まれの水上京香は、2014年「トップコート20thスターオーディション」グランプリを受賞し芸能界入り。
『不能犯』(2018)『ハナレイ・ベイ』(2018)『LONESOME VACATION』(2023)と映画出演のキャリアを重ねてきた。

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野元空が演じた須藤玲は、万理花の初代センター。
ミステリアスな魅力で人を惹きつけるが、コミュニケーション下手で努力を認めてもらえない。
1997年生まれの野元空は、2011年にダンス&ボーカルグループ「フェアリーズ」メンバーとしてメジャーデビュー、歌、ダンス、そしてラップを担当した。
舞台や映像など俳優業にも力を入れていて、長編映画は今作が初出演となる。

元アイドルがセカンドキャリアで足掻く姿は、まさに俳優業のスタートラインに立つ二人の現状とメタ的に重なり、あたかも劇映画でなくドキュメンタリームービーを観ているかのような錯覚に陥る。
『ファンファーレ』という映画そのものが、水上京香と野元空にとって「名刺代わり」に相応しい作品なのだ。

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万理花からリーダーを引き継ぎ「Fun☆ファーレ」を引っ張ってきた西尾由奈を演じるのは、喜多乃愛
現Fun☆ファーレの年若いメンバーたちとの微妙な距離感を嫌味なく演じてみせる実力は、映画に更なるリアリティを纏わせる。

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現Fun☆ファーレメンバーを演じたのが、橋口果林松崎未夢白井美海尾関あずさ
彼女たちは作品に華を添えるだけでなく、そのフレッシュな存在感で映画に説得力をもたらしている。

そして、新旧Fun☆ファーレたちを支えるオトナたちが、物語に重厚感を与えている。

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中島歩が演じる万理花のバイト先のオーナー・君塚斗馬は、冷淡に見えて万理花を気遣っている。

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土居志央梨が演じる玲の上司・辰巳加奈子は、きつく当たっているようで誰よりも玲を理解している。

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松浦慎一郎が演じるFun☆ファーレのマネージャー・内田淳平は、厳しくも温かくメンバーたちを見ている。

人生において訪れる転機は、誰しも不安に苛まれる。
そして、少しの希望を膨らまさんと、自分を奮い立たせる。
リスタートを切った者、切ろうとしている者、そして切ることを考えている者たち……映画『ファンファーレ』では、ネガティブさもポジティブさも引っ包めた悲喜交々が、ぶつかり合い、手を取り合う。

主人公たちが目指す卒業ライブは、パンデミックの影響で無観客の配信ライブという設定だ。
エキストラに掛かる予算などを邪推すると、これもメタ的に今作をドキュメンタリーのような雰囲気を醸しだす名采配と感じる。

そして、注目すべきは『ファンファーレ』が新型コロナウイルスによるパンデミックを裏(?)テーマに掲げているということだ。
コロナ禍はまさに災厄で、社会には夥しい数の不本意な転機が蔓延した。

夢を諦めた者、夢を諦める者……そして、夢を諦めざるを得なかった者。
一口にリスタートと言っても、その人その人ですべて違う転機だ。

すべてのリスターターに、映画『ファンファーレ』は高らかに鳴らす。
はなむけのファンファーレを――。

今作は吉野竜平監督のオリジナル脚本というだけでなく、劇中に登場する楽曲・衣装・振付など全て完全オリジナルだそうで、クオリティやリアリティの向上に一役も二役も買っている。
その一端を知ることが出来そうなイベントがセンチュリーシネマ(名古屋市中区栄三丁目29-1名古屋パルコ東館8F)で開催される。
11月18日(土)13:15〜上映回、衣装制作を担当したスタイリスト箕浦杏さんをゲストにトークイベントが行われる予定となっているので、劇場公式サイトで是非ともチェックしてほしい。

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映画『ファンファーレ』

11月17日(金)~
シネクイント
センチュリーシネマ
ほか全国公開


水上京香 野元空

喜多乃愛/橋口果林 松崎未夢 白井美海 外原寧々

監督・脚本・編集:吉野竜平

エグゼクティブプロデューサー:益田祐美子 

プロデューサー:戸山剛

撮影:平井英二郎 藤澤蘭 
照明:大久保礼司 
録音:池田知久 
助監督:二宮崇 
制作担当:渡邊翔太
音楽:加藤久貴 
劇中歌:作詞 広瀬咲楽 作曲 坪野竜也 
衣装制作・スタイリスト:箕浦杏 
スタイリスト:石井玲子 
ヘアメイク:東村忠明 振付:大和 
キャスティング:伊藤尚哉 
ポスターイラスト制作:かたお。 
宣伝プロデューサー:和田有啓 
脚本・アシスタントプロデューサー:戸梶美雪 
企画・制作プロダクション:マウンテンゲート・プロダクション 
配給:Atemo

©「ファンファーレ」製作委員会

『ファンファーレ』公式サイト

https://funfaremovie.com/

スターキャット公式サイト

https://eiga.starcat.co.jp/info/