「今の米子さんにピッタリの曲を流しています」
スマートフォンより流れてくるのは、フレデリック・ショパン作「練習曲作品10第3番 ホ長調」。
いま日本では、個人の趣味嗜好を学習するAI「デジタルツイン」が遍く普及している。
そう、『センターライン』(2018年/監督:下向拓生)の延長線上の世界にある、平成39年の日本では――
上述『センターライン』が大評判となり、若手映画監督として新進気鋭の存在となった下向拓生監督の最新作が公開決定となった。
タイトルは、『INTERFACE -ペルソナ-』。
『センターライン』と世界線を同じくする物語で、実質の続編といえる。
『INTERFACE -ペルソナ-』ストーリー
愛知地方検察庁の新任検事米子天々音(吉見茉莉奈)は、自身が起訴した交通事件を切っ掛けに新設されたAI犯罪専門部門「知能機械犯罪公訴部」へと配属された。赴任した部は遅刻したせいか、庶務係・阿倍野(大山真絵子)ひとり。
彼女が交通部での大鳥(星能豊)のように副官に就くのかと思いきや、部の特徴なのか経費削減のあおりなのか、米子の相棒は「スマートバッジ」だという。
カメラを含めた各種センサーに、通信機能、学習型AIを搭載したデジタルツインに、米子は阿倍野の提案を渋々受け入れ「テン」と名付ける。
米子とテンが担当する案件は、山本佳奈江(合田純奈)という若い女性の死亡事件。
VTuberだった佳奈江が視聴者に誹謗中傷を受け自殺したと見られていたが、捜査に当たった警察官(松林慎司)や関係者(澤谷一輝)の話を聞くうち、米子検事は疑問を抱くようになる。
はたして米子とテンは、どんな真実に辿り着くのか――。
下向拓生監督の映画は、初期作品『菊とサカツキ』(2013年)以来観てきているが、初長編『センターライン』そして『N.O.A.』(2015年)など、世界観の構築にいつも感心させられる。
観客は、日常の現代劇を観ていたつもりが、いつの間にか「下向マジック」の掛かった不可思議な作品世界を漂う羽目になる。
今作『INTERFACE -ペルソナ-』の主人公は、前作『センターライン』と同じ、新人検察官の米子天々音。
『センターライン』で喪った「AIの生みの親」の意思を引き継ぎ、平成39年の社会に根差したばかり、謂わば生まれたばかりのAIたちを、厳しく見守り、教え諭さんと足掻き続ける米子は、「AIの育ての親」たる存在に映る。
まるで「新米の親」の心情を写すように、カメラは引き、寄り、そして時に震える。
フィックス、ハンディといったカメラワークの鮮やかさは、撮影監督を務めた名倉健郎らNAGURA Teamの手腕が光る。
今作でも主人公・米子天々音を堂々と演じ切ったのは、もちろん吉見茉莉奈。
『サイキッカーZ』(監督:木場明義)『啄む嘴』(監督:渡邉安悟)『ナナメの廊下』(監督:深田隆之)と矢継ぎ早に主演作が公開されている吉見は、今後ますます日本映画に欠かせない存在となるはずだ。
事件当事者・山本佳奈江を演じた合田純奈にも注目してほしい。
タイトルにある「ペルソナ」とは仮面を意味するラテン語からユングの提唱した心理学用語で、人間の「外的側面」でもあり「内側に潜む自分」でもある。
カナエの役どころこそ、まさに「ペルソナ」なのだ。
デジタルツイン「テン」の可愛らしさに関連グッズの問い合わせが殺到するだろうが、米子の「もうひとりの相棒」庶務官・阿倍野役の大山真絵子も注目株だ。
阿倍野女史が振りまく人間臭さは、『INTERFACE』世界を華麗に彩る。
人間臭いといえば、澤谷一輝、松林慎司、大前りょうすけ、星能豊ら個性あふれる共演陣も光る。
『カメラを止めるな!』(監督:上田慎一郎)の長屋和彰、『まなざし』(監督:卜部敦史)の入江崇史は抜群の存在感を見せる。
また、テンをはじめ『INTERFACE』世界になくてはならないデジタルガジェットを支える、冥鳴ひまり、南久松真奈らの「声の演技」にも傾聴してほしい。
そして、津田寛治が映画に齎した重厚感は計り知れない。
旧 本田忠次邸でのシーンは、テクノロジー、アート、そしてエンターテインメントを鏤めた今シリーズの解説かと錯覚させる名場面だ。
さて、当レビューの冒頭で触れた「練習曲作品10第3番 ホ長調」、西欧では「Tristesse」(悲しみ:仏)の愛称で知られるが、日本では「別れの曲」という曲名で親しまれている。
ショパンが練習曲「別れの曲」を書いたのは、1832年。
日本では、葛飾北斎が円熟期を迎え、歌川広重が活躍していた頃だ。
技術は進み、芸術は遷り変わる。
そして、エンターテインメントは不滅だ。
今また、『INTERFACE -ペルソナ-』という新たなエンターテインメント作品が生まれようとしている。
ちなみに、「別れの曲」という曲名は、映画のタイトルを由来としている。
映画館は、新たなエンターテインメントが生まれる場所なのだ――。
『INTERFACE -ペルソナ-』は、11月25日(土)よりシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)で公開となる。
公開に合わせ、なんと前作『センターライン』が11月10日よりU-NEXTで配信されることが決定した。
Amazon Primeでも後日配信予定だそうなので、合わせてチェックしてほしい。
映画『INTERFACE -ペルソナ-』
2023年11月25日(土)〜シネマスコーレ
吉見茉莉奈 合田純奈 大山真絵子 澤谷一輝 大前りょうすけ 津田寛治
撮影監督:名倉健郎 音楽:髙木亮志
法律監修:弁護士 鈴木成公 衣装協力:国島株式会社
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション 岡崎市観光推進課 東海愛知新聞社 日本陶磁器センター
監督・脚本・編集:下向拓生
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