main_ロスト・キング

歴史を紐解いてみるに、あまりに過小評価ではないかと疑問を抱く人物がいる。

日本史で言うと、
平清盛
足利尊氏
日野富子
明智光秀
淀殿
あたりだろうか。
淀殿こと茶々以外は、NHK大河ドラマの主人公に取り上げられた人物ばかりなのが、面白い。

サブ7

その時代の権力者が己の正統性を示す為、事実を歪曲して伝えたり、過去の歴史を書き変えることは、古今東西を問わず起こりうることだ。
例えばイングランド、ヨーク朝最後の王・リチャード三世は、「薔薇戦争」の最終盤に臣下の離反なども重なり戦場に散った「戦死した最後のイングランド王」である。

しかもリチャード三世は死後、王家となったテューダー朝により、「暴君」「王位の簒奪者」としての汚名を着せられた。
リチャード三世は埋葬地が不明で、一説にはソア川に打ち捨てられたとも言われていたという。

今回レビューする映画は、『ロスト・キング 500年越しの運命』。
2012年行方不明だったリチャード三世の遺骨を発掘した、主婦でアマチュア歴史家のフィリッパ・ラングレーの物語。

サブ8
『ロスト・キング 500年越しの運命』ストーリー
フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は筋痛性脳脊髄炎(ME)を患っており、職場で正当な評価を受けられないでいる。
理不尽な上司にうんざりしつつも、夫・ジョン(スティーヴ・クーガン)とは別居中で、生活費の為にも仕事は辞められない。
ある夜、息子の課題に付き添い史劇「リチャード三世」を観たフィリッパは、さも脊椎湾曲症のせいで悪辣非情な王になったとでも言いたげな内容にショックを受ける。
仕事を休み、リチャード三世協会に入会したフィリッパは、徐々に「悪王」の実像に迫っていく。
それは、リチャード三世500年ぶりの名誉回復に他ならなかった――。

サブ4

驚くべきことに、『ロスト・キング 500年越しの運命』は事実を基にした映画である。
主人公のフィリッパ・ラングレーは今もイギリスに暮らし、本作の完成を喜んでいるという。

サブ2

メガホンを取ったのは、アカデミー賞®をはじめ賞レースの常連であるスティーヴン・フリアーズ監督。
自身を「懐疑論者」と評するフリアーズ監督は、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』『クィーン』と、過去に英国王室をテーマに映画を撮っており、まさに本作を手掛けるに相応しい名匠だ。

サブ3

ジョン役で出演するスティーヴ・クーガンは、脚本・製作も務めている。
本作はサクセスストーリーだが、ユーモアを交えつつもシニカルでビターなシナリオに観る者は唸らされるはず。

サブ5

悲劇の王に自身の難病を投影する主人公を、軽やかに等身大で、しかも「愛されキャラ」にしてしまうサリー・ホーキンスは、もう流石としか言いようがない。
『シェイプ・オブ・ウォーター』で驚かされた私たちは、彼女の抽斗の大きさ、奥行きの広さ、人間力の豊かさに何度も驚嘆することになる。

サブ1

リチャード三世の悪評には、シェークスピアの史劇「リチャード三世」が少なからず影響しているという話もある。
我が国にも、似たような話はないか?「『忠臣蔵』の通り、吉良上野介は悪人に違いない」なんて思ってやしないか?

もちろん歴史にロマンを求めるのも悪くはないが、人々の願望を押し付けたステレオタイプの人物像が揃う「作られた時代絵巻」だけでは、あまりにも寂しい。
歴史を学問にするには、公正さが肝腎だ。

そして、肝腎要の「公正さ」が、たった一人の情熱によって成し遂げられたりする。
そんな事実があったりするから、「歴史」は面白いのだ――。

サブ6

映画『ロスト・キング 500年越しの運命』

9月22日(金)~
TOHOシネマズシャンテ
伏見ミリオン座

ほか全国ロードショー

『ロスト・キング 500年越しの運命』公式サイト

https://culture-pub.jp/lostking/