「紺屋の白袴」という言葉がある。
染付を生業としている紺屋にも拘らず自らは生成りの白い袴を着けている様から、外面は体裁よく繕っていても自分のことはだらしない人のことを言う。
ご存知の通り、紺屋の白袴は「こうやのしろばかま」と読む。
「こんや」が音便変化で「こうや」に転じたのだろうが、実はこの「紺屋の白袴」の由来には別説があるのはご存知だろうか?
その説によると、「こうやのしろばかま」と読むのも当然で、元々は「高野の白袴」と表記したとか。
高野山(金剛峯寺)で厳しい修行するはずの僧が真っ白な袴を着けている様から、役に立たない怠け者、または職業に就きたての新人を指す言葉という。
高野山といえば、今も食卓に並ぶ伝統食材の高野豆腐の発祥の地。
旧くから受け継がれてきた凍み豆腐の製法を体系化したのは、豊臣秀吉と親交が深い高野山中興の祖・木食応其(深覚坊応其)だったという。

今回レビューさせていただく映画は、三原光尋監督
『高野豆腐店の春』
劇中でも間違われる描写があるが、「こうやどうふてん」ではない。
「たかのとうふてんのはる」である。

吟味した大豆を蒸し上げ、擦り、煮込み、濾すという手間の掛かる工程を夜明け前から行い、手作業で豆乳を撹拌し機を見極めニガリを投入、美味しい豆腐を毎日つくっている。
持病の心不全で通院している辰雄は、医師から症状の悪化を聞き、手術を勧められる。
待合で出会った同年代のふみえ(中村久美)からも、手術に踏み切るよう促される。
辰雄は、出戻りの春の行く末を案じ、娘には内緒で仲間たちに再婚相手を見つけるよう頼む。
床屋の繁(徳井優)、料理人の一歩(菅原大吉)、タクシー運転手の健介(山田雅人)、塾講師の寛太(日向丈)が集めた候補者から選ばれたのは、イタリアンレストランのオーナーシェフ・村上(小林且弥)だった。
打ち合わせ通り自然に(?)春と村上を引き合わせることに成功した辰雄ら、春も村上に好印象のようで一安心だ。
ところが、春には既に付き合っている男性がいると言う。
交際相手・道夫(桂やまと)と一緒に食事することになった高野父娘だが、態度を咎める春に辰雄は逆上、二人は大喧嘩し、春は店を出ていってしまう――。

名優・藤竜也が、主人公・辰雄を堂々と務め上げた。
81歳となる藤はデビュー60周年という記念すべき2023年公開に選んだのは、三原光尋監督の脚本に惚れ込み出演を熱望した『高野豆腐店の春』だったのだ。
職人気質で、短気、すぐに文句をいう頑固者のくせに、自分のことには二の足を踏む……辰雄は、まさに「紺屋の白袴」を地で行く。

辰雄の娘・春役には、『カンゾー先生』(98)『夕凪の街 桜の国』(07)など日本映画を代表する女優・麻生久美子。
藤竜也とは、なんと26年ぶりの共演という。
豆腐作りを愛しつつも中々仕事を任せてもらえない……春は、まさに「高野の白袴」状態だ。

共演陣は、特にベテラン勢の熱演が目を引く。
実は今作のヒロインである、中村久美。
そして、徳井優、菅原大吉、山田雅人、竹内都子ら、個性的な仲間たちが物語を引っ張る。

『高野豆腐店の春』は、三原光尋監督によるオリジナル脚本で、三原監督と主演・藤竜也のコンビは『村の写真集』(05)『しあわせのかおり』(08)に続き三度目となる。
今作は新型コロナ禍での苦境の最中に立ち上がった企画で、シナリオは「もう一本やりましょう」と言ってくれた藤竜也ありきで書かれたものという。

美味しい食材が登場する作品には、当たり前のようにその食材で作られた美味しい料理が登場する。
そんな当たり前が、『高野豆腐店の春』にはない。
なのに、今作では何故こんなにも豆腐が美味しそうに映るのか。
それは、豆腐を作った人を愛することが出来るからだ。

美味しい豆腐を作る高野親子、辰雄と春には、一つの秘め事がある。
それは、撮影地である尾道とは切っても切れない出来事で、中村久美演じるふみえと辰雄の親交にも繋がる。
多層を成す物語は、多様な感動を呼ぶ。
『村の写真集』、『しあわせのかおり』、そして『高野豆腐店の春』。
三原光尋監督と藤竜也による「職人三部作」、『高野豆腐店の春』はラストを飾るに相応しい映画となった。
夏の終わり、映画館で噛みしめると良い。
美味しい豆腐が真っ白でないのと同じように、幸せのかたちもまた色々あって良いのだ――。

新宿ピカデリー
ミッドランドスクエアシネマほか
全国ロードショー
©️2023「高野豆腐店の春」製作委員会
染付を生業としている紺屋にも拘らず自らは生成りの白い袴を着けている様から、外面は体裁よく繕っていても自分のことはだらしない人のことを言う。
ご存知の通り、紺屋の白袴は「こうやのしろばかま」と読む。
「こんや」が音便変化で「こうや」に転じたのだろうが、実はこの「紺屋の白袴」の由来には別説があるのはご存知だろうか?
その説によると、「こうやのしろばかま」と読むのも当然で、元々は「高野の白袴」と表記したとか。
高野山(金剛峯寺)で厳しい修行するはずの僧が真っ白な袴を着けている様から、役に立たない怠け者、または職業に就きたての新人を指す言葉という。
高野山といえば、今も食卓に並ぶ伝統食材の高野豆腐の発祥の地。
旧くから受け継がれてきた凍み豆腐の製法を体系化したのは、豊臣秀吉と親交が深い高野山中興の祖・木食応其(深覚坊応其)だったという。

今回レビューさせていただく映画は、三原光尋監督
『高野豆腐店の春』
劇中でも間違われる描写があるが、「こうやどうふてん」ではない。
「たかのとうふてんのはる」である。

『高野豆腐店の春』ストーリー
広島、尾道にある高野豆腐店を切り盛りするのは、父の辰雄(藤竜也)と娘の春(麻生久美子)。吟味した大豆を蒸し上げ、擦り、煮込み、濾すという手間の掛かる工程を夜明け前から行い、手作業で豆乳を撹拌し機を見極めニガリを投入、美味しい豆腐を毎日つくっている。
持病の心不全で通院している辰雄は、医師から症状の悪化を聞き、手術を勧められる。
待合で出会った同年代のふみえ(中村久美)からも、手術に踏み切るよう促される。
辰雄は、出戻りの春の行く末を案じ、娘には内緒で仲間たちに再婚相手を見つけるよう頼む。
床屋の繁(徳井優)、料理人の一歩(菅原大吉)、タクシー運転手の健介(山田雅人)、塾講師の寛太(日向丈)が集めた候補者から選ばれたのは、イタリアンレストランのオーナーシェフ・村上(小林且弥)だった。
打ち合わせ通り自然に(?)春と村上を引き合わせることに成功した辰雄ら、春も村上に好印象のようで一安心だ。
ところが、春には既に付き合っている男性がいると言う。
交際相手・道夫(桂やまと)と一緒に食事することになった高野父娘だが、態度を咎める春に辰雄は逆上、二人は大喧嘩し、春は店を出ていってしまう――。

名優・藤竜也が、主人公・辰雄を堂々と務め上げた。
81歳となる藤はデビュー60周年という記念すべき2023年公開に選んだのは、三原光尋監督の脚本に惚れ込み出演を熱望した『高野豆腐店の春』だったのだ。
職人気質で、短気、すぐに文句をいう頑固者のくせに、自分のことには二の足を踏む……辰雄は、まさに「紺屋の白袴」を地で行く。

辰雄の娘・春役には、『カンゾー先生』(98)『夕凪の街 桜の国』(07)など日本映画を代表する女優・麻生久美子。
藤竜也とは、なんと26年ぶりの共演という。
豆腐作りを愛しつつも中々仕事を任せてもらえない……春は、まさに「高野の白袴」状態だ。

共演陣は、特にベテラン勢の熱演が目を引く。
実は今作のヒロインである、中村久美。
そして、徳井優、菅原大吉、山田雅人、竹内都子ら、個性的な仲間たちが物語を引っ張る。

『高野豆腐店の春』は、三原光尋監督によるオリジナル脚本で、三原監督と主演・藤竜也のコンビは『村の写真集』(05)『しあわせのかおり』(08)に続き三度目となる。
今作は新型コロナ禍での苦境の最中に立ち上がった企画で、シナリオは「もう一本やりましょう」と言ってくれた藤竜也ありきで書かれたものという。

美味しい食材が登場する作品には、当たり前のようにその食材で作られた美味しい料理が登場する。
そんな当たり前が、『高野豆腐店の春』にはない。
なのに、今作では何故こんなにも豆腐が美味しそうに映るのか。
それは、豆腐を作った人を愛することが出来るからだ。

美味しい豆腐を作る高野親子、辰雄と春には、一つの秘め事がある。
それは、撮影地である尾道とは切っても切れない出来事で、中村久美演じるふみえと辰雄の親交にも繋がる。
多層を成す物語は、多様な感動を呼ぶ。
『村の写真集』、『しあわせのかおり』、そして『高野豆腐店の春』。
三原光尋監督と藤竜也による「職人三部作」、『高野豆腐店の春』はラストを飾るに相応しい映画となった。
夏の終わり、映画館で噛みしめると良い。
美味しい豆腐が真っ白でないのと同じように、幸せのかたちもまた色々あって良いのだ――。

映画『高野豆腐店の春』
8月18日(金)〜新宿ピカデリー
ミッドランドスクエアシネマほか
全国ロードショー
©️2023「高野豆腐店の春」製作委員会
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