今年も8月が、夏本番がやってきた。
八月、葉月は、戦争について考える機会が多いが、広島・長崎への原子爆弾投下、そして敗戦という大きな出来事があった月だからというだけではない気がする。
多くの地方で執り行われる、お盆、盂蘭盆会(うらぼんえ)という行事により、死者との距離が近づく心境を抱く人々が増えることも小さからぬ理由ではなかろうか。
七月二十九日、三十日という土用入りの酷暑の最中、名演小劇場(名古屋市東区東桜2-23-7)では八月に相応しい映画が上映された。
ドキュメンタリー映画『Yokosuka1953』(2021年/日本/107分)である。
『Yokosuka1 953』作品解説
和歌山大学で教鞭を執るかたわら全国の映画祭にも携わる映像作家、木川剛志。2018年、彼はSNSで「木川洋子を知っていますか?」という奇妙なメッセージを受け取る。
送り主は、シャーナというアメリカに在住の女性で、「木川洋子」とは彼女の母・バーバラの日本名だという。
1947年横須賀で外国人と思われる父と日本人の母の間に生まれた洋子は、幼少期から差別に苛まれ、わずか5歳で米兵に養子縁組され渡米。
以来「バーバラ・マウントキャッスル」として66年、日本に帰る事も母と会う事もないという。
シャーナは、「木川」という姓のみを頼りに、藁にも縋る思いで木川剛志にコンタクトを取ってきたのだ。
そんな祈りにも似た願いに応えるべく、彼はアメリカを訪ねた。
シャーナの祖母、バーバラの母、「木川信子」の足跡を辿る旅が始まった――。
上映が終わると、名演会館3階の座席を埋めた観客から、温かい拍手が沸き起こった。
七月三十日(日)トークイベントに登壇したのは、木川剛志監督、『Yokosuka1953』ナレーター・津田寛治さん、映画プロデューサーで弁護士の廣田稔さん。
司会進行は、映画プロデューサーで『Yokosuka1953』上映協力を務めた、平成プロジェクト代表・益田祐美子さん。
戦争という究極の暴力行為が大きく影を落とす『Yokosuka1953』のティーチインゆえ、死者に思いを馳せるトークとなるかとの想像とは大きく懸け離れ、我々は如何に生きるべきかという倫理的な、哲学的な内容に終止したのは興味深い。
「盂蘭盆経」に謂う、安居の最中に餓鬼道で苦しむ亡き母を憐れに思った目連尊者(モッガッラーナ)が、釈尊の教えに従い施餓鬼の秘法で母を昇天させた故事が、先祖を供養するお盆という行事の始まりともされる。
そもそも「安居(あんご)」とは、蟲蛇が活動的になる雨期を指し、無用な殺生を避けるため外での遊行を止めて、一箇所に集まって修行することを言う。
非暴力が結実した行事、それがお盆なのだ。
非暴力を突き詰めることが出来たなら戦争を滅することが出来るはずで、そのために私たちはどう生きるかが常に問われる。
『Yokosuka1953』のバーバラさんは、笑顔でそんなことを黙示してるように感じた――。
映画『Yoko suka1953』
2022年キネマ旬報ベスト・テン 文化映像22位2021年東京ドキュメンタリー映画祭長編部門グランプリ
監督:木川剛志
出演:バーバラ・マウントキャッスル 木川洋子
ナレーション:津田寛治
撮影:木川剛志 上原三由樹 関戸麻友
編集:筏万州彦 木川剛志
グラフィック:松原かおり
題字:木川泰輔
主題歌:「おやすみ」キャラバンキョウコ
プロデューサー:上原三由樹 木川剛志
2021年/日本/107分/DCP
『Yokosuka195 3』公式サイト
https://yokosuka1953.com/© Yokosuka1953.
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