2023年4月、豊田市美術館(愛知県豊田市小坂本町8-5-1)を訪ねた。

目的は、5月21日(日)までの会期で開催中の美術展、【ねこのほそ道】だ。

本展に興味が湧いたのは、先日gallery N(名古屋市)で開催させた大野未来氏個展【ぞくぞくと】オープニングトークのゲストだった豊田市美術館・学芸員の
能勢陽子さんの話を聞いたからだ。
能勢さん曰く、
「タイトルから想像するのと、ちょっと違う美術展だと思います」

なるほど、訪ねてみれば言われた通り。
キャッチーでファンシーな展示なのかと勘違いしていた筆者を嘲笑うかのように、ずっと「ちゃんと現代アートした美術展」だった。

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展示室で鑑賞者を真っ先に迎えるのは、聴こえるか聴こえないかという電子的な不協和音。
音の主を探すと、どうやら寝子(ねこ)の背中が奏でているようだ。

入り組んだコードを辿ると、どうやら展示室を越え、同じ作者である落合多武(Tam Ochiai)氏の作品へと導かれる。
遠い先祖が樹上生活をやめて以来、私たちはパーテーション一つも飛び越せなくなってしまった。

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佐々木健(Ken Sasaki)氏は、ふきんや雑巾など絵画となりそうもないモチーフをキャンバスを描き出す。

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家族が手作りしたテーブルクロスの、刺繍や補修跡まで丹念に描く……否、「再現する」彼の「絵」は、日常を丁寧に写し取る、汲み取る行為に他ならない。

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ともすれば過ぎ去っていくだけの日常にフォーカスを当てるのは、大田黒衣美(EMI OTAGURO)氏の作品も同質だ。

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ポケットティッシュをフレームに、ウズラの卵の殻を画材に、禅問答のような絵を書いたかと思えば

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昼寝する猫のお腹を草原に見立てた写真を大伸ばししたり

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猫の腹原で寛いでいたガムを陶器で表現したりと、まさに変幻自在。

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そんな日常に溢れるまさに「路傍の石」も、スケール感を違えて観れば印象をガラリと変えることを端的に示すのは、中山英之(HideyukiI Nakayama)氏と砂山太一(Taichi Sunayama)氏の建築家コンビ。
石ころも、大きくなったなら、巨石どころか注連縄をかけて磐(いわお)とでも呼びたい存在になるのだ。

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さらに、岩と思っていたものが異素材だと気づいた時

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イワ感は、違和感となるのだ。

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日常から唐突に異世界へと誘うのは、泉太郎(Taro Izumi)氏のインスタレーション作品。

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今から何万年、何億年後、ネコ人類が築いた文明にも思えるし

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遥か太古の幾星霜、忘れ去られた旧大陸の遺跡にも思える。

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猫の自由さ、孤高さに、岸本清子(Sayako Kishimoto)氏は魂の解放を委ねたのかもしれない。

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彼女は、過去の芸術・科学・宗教の打倒を目指し、作品を生み出しては破壊した。

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怒り、抗う魂の一端を、「雑民党員」としての政見放送という貴重な映像アーカイブでも窺い知ることができる。

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大部分の黒とほんの少しの白で構成された短冊状の連作絵画は、五月女哲平(Teppei Soutome)氏の作品。

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近寄って凝視してみると、黒一色ではなく幾重にも重ねられた色の層を垣間見ることができる。

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小展示室の壁いっぱいにグラデーションを構成する作品は、いつしかスペースを逸脱し、壁面までをも作品の一部と成す。

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水にも、空にも、そしてその境界をも思わせる青い世界は、最後に極めて個人的な作品で完結する。

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タイトルにあった「あなた」とは誰なのか問い掛けるように、額装を照らす灯りは鑑賞者をも映し出した。

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文明に融け込んだ自然である猫という存在は、人が繰り広げる騒乱を、ニャンと欠伸する。

秩序の中の、混沌。
理性の中の、野性。
そして、喧騒の中の、長閑。

私たちが勝手に「対立」と位置づける概念を、ねこはピョンと跳び越す。

日常に無くても良いことは、
日常にあったら良いもの。

芸術って、そんなものじゃ
……にゃいか?



【ねこのほそ道】

Cat's Narrow Road

2023.2.25(土)〜5.21(日)

豊田市美術館

Toyota Municipal Museum of Art
(愛知県豊田市小坂本町8丁目5−1)
https://www.museum.toyota.aichi.jp/