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2月4日(土)新宿K's cinemaを皮切りに全国ロードショーされる、両沢和幸監督『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』。

骨髄バンクをテーマにしたヒューマンドラマだが、ポスターに書かれたキャッチコピーに、違和感を覚えた。

「まったく新しい“医療エンターテインメント”」

医療現場を舞台とした映画作品は、少なくない。
『白い巨塔』(山本薩夫監督)、『病院へ行こう』(滝田洋二郎監督)、『チーム・バチスタの栄光』(中村義洋監督)、『Dr.コトー診療所』(中江功監督)、『余命10年』(藤井道人監督)、そして、両沢和幸監督『ナースのお仕事』。
どれも、医療、疾患をテーマとしつつ毛色の違う名作だが、どの作品も殊更「エンターテインメント」を強調することはない。
生命と真正面から向き合う医療現場とは、“entertainment”という用語を寄せ付けない重圧めいた何かをまとっているものなのだろう。

では、『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は医療ドラマであるものの、生命の尊厳を軽んじている作品なのだろうか。
答えは、否だ。

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なので、「エンターテインメント」という言葉を掘り下げてみる。

「エンターテインメント=entertainment」とは、動詞“entertain”に動作・状態を表す接尾語“ment”が付いた名詞。
「entertain」はと言うと、inter(=間)とtenir(=掴む)を由来とし、古フランス語(9〜14世紀)の「entertenir」を原義とするとか。
“entertenir”は「まとめて掴む」という意味で、現代英語の“entertain”は「心をつかんで離さない」「もてなす」「楽しませる」となる。
“entertainment”はそんな状態を表すのだから、日本語では「娯楽」「余興」「催し物」と訳される。

エンターテインメント、エンタメというと、対義語として「芸術=art」が頭に浮かぶかもしれない。

アート(art)は、作者の哲学、人間性、自己そのものを実現したものと解釈される。
ではエンタメ(entertainment)は、と言うと、鑑賞者の心を動かすことに重点が置かれた表現だ。

作り手が多くの人々の心を動かさんとする作品を「エンターテインメント」と表現するのは、至極当然のことなのかもしれない。

『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、実際に骨髄移植を経験した俳優が企画し、原案を作り、主演した映画である。

だから、今は声を大にして言いたい。
『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、まったく新しい“医療エンターテインメント”だ、と。

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『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』ストーリー

桧山大介(樋口大悟)は、ライバル(小笠原大晃)も出場する空手の全国大会を目前に控え、鍛錬に余念がない。
空手教室の講師も務め、順風満帆そのものだった大介だが、そんな日常が突如暗転する。
稽古中に倒れ病院に運ばれた大介は、ドクター(池田良)から自分の病名が「急性骨髄性白血病」だと告げられる。
闘病生活の中、体力も精神力も削られた大介は、母(武藤令子)や友人(榎本桜、鈴木周哉)に辛く当たり、彼女(伊澤恵美子)には別れを告げられてしまう。
頼みの綱は骨髄移植だけだが、白血球の型が合致するドナーが現れなければ成立しない治療法だ。
移植コーディネーター(森下能幸)によると、大介のドナー候補者はわずか2人。
しかも、その1人、新潟県糸魚川市に住む桜井美智子(松本若菜)は、家族(岡田浩暉、中村久美)らの猛反対に遭っていた――。

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前述したように、『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、主人公・桧山大介を演じた俳優・樋口大悟の実体験が下敷きとなっている。
25歳で急性骨髄性白血病を発病した樋口は、抗がん剤により治癒したかと思いきや1年後には再発。
30歳の時ようやくドナーが見つかり、骨髄移植により寛解した白血病サバイバーだ。

映画を観てもらえば分かる通り、かなり現実に即した、謂わば「実録もの」作品の一つと言えるが、それはさして重要ではない。
『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、実話を元にしたストーリーであることを強調し涙を誘う、凡百の作品ではないのだ。

『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、観る者の「気付き」を促す映画である。
骨髄バンクの、白血病患者の未来を救済し、ひいては私たちの暮らす社会の向上を目指すための作品である。

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だから言う、何度も言う。
『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、まったく新しい“医療エンターテインメント”なのだ。

脚本も担当している両沢和幸監督の丁寧な演出が、遺憾なく発揮されている。
両沢監督の『御手洗薫の愛と死』(2013年)が、私は大好きだ。

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特筆すべきは、今作では闘病生活を送る樋口の分身たる大介だけでなく、松本若菜扮するドナー候補の美智子を丹念に描かれていることだ。
他の映画では決して描かれてこなかった、「ドナーになれることの幸せ」が描かれる。
これは単なる憶測だが、機会があるなら樋口自身が今度は自分がドナーになりたい……そう願っているかのようにも感じるくらいだ。

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また、自分自身が突然の病に倒れる可能性があるということは、それ以上の高確率で近しい周囲の人に病魔が襲いかかることもあるということを、本作はまざまざと痛感させてくれる。
闘病する者にどう接すれば良いかなど、誰にも分からない。
武藤令子、榎本桜、鈴木周哉、伊澤恵美子……あなたは、誰に共感するだろう?

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そして、何より主演俳優・樋口大悟の心情を想像せずにはいられない。
樋口は、自らの活躍を見せることにより、病気と闘っている方たちにエールを送らんとしているのだ。
そして、かつて骨髄液を、生命を分けてくれたドナーに、感謝を伝えんとしているのだ。

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自分の行動により、救うことが出来る命がある。
そう知った時、人は何を思い、何をするのだろう?
そして、あなたは……?

このレビューで、映画のことを少しでも感じてもらえたなら嬉しく思う。
だが、作品を観てもらえたなら、もっと分かる。
『みんな生きている 〜ニつ目の誕生日〜』は、医療エンターテインメントなのだ――。

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映画『みんな生きている ~二つ目の誕生日~』

2023年2月4日(土)
新宿K’s cinema
2023年2月10日(金)
名演小劇場

ほか全国順次公開

配給:ギグリーボックス

©2022「みんな生きている ~二つ目の誕生日~」製作プロジェクト

『みんな生きている ~二つ目の誕生日~』公式サイト

https://www.min-iki.com/