情熱の、赤?
クールな、青?
反逆の、黒?
シニカルな、紫?
人によって様々な色を連想するだろうが、そのどれにも当たらないバンドがある。
ロックバンド「フラットライナーズ」のライブを観て思い浮かんだのは、ブラウン、茶色だ。
2023年1月8日(日)ブラジルコーヒー(名古屋市中区金山4丁目6−22 金山コスモビル1階)で開催された、Radical Humanismの春日井直人が企画した3マンLIVE。
その1stステージを務めたのが、フラットライナーズだった。
余談が過ぎるかもしれないが、色のイメージを空想する時、一人の画家を思い起こす。
150年前のフランス・パリで活躍した、新印象派の最重要人物であるジョルジュ・スーラだ。
スーラは、パレットで混ぜた鮮やかな色がカンバスでは褪せて見えることを解決しようと腐心した理論派の画家。
試行錯誤の上たどり着いたのは、原色の絵の具でカンバスに点描するという、途方もない手間を要する画法だった。
19世紀最新の色彩理論を応用してカンバスに配置された何万、何億という原色のドットは、観る者の脳内で鮮やかな混色となるのだ。
フラットライナーズの音楽は、まさにスーラ作品、重厚な点描のようだ。
石川俊樹の、ベースラインと、力強いボーカル。
佐藤誠司の、陶酔感溢れるギターサウンド。
磯たか子の、ドラムと、コーラス。
その全てが、凄まじい音圧で叩きつけられる。
ステージで混成・調合されるというよりは、各々の主張が真直ぐオーディエンスへと届くのだ。
観賞者の目を通して、脳内で鮮やかに混ざり合うスーラの絵のように、
フラットライナーズの個々の「主張」は、オーディエンスの耳を経由し、魂の深い部分で調和する。
石川俊樹と佐藤誠司は、浦沢直樹氏の元アシスタントという。
鍵盤のイメージが強い磯たか子が叩くドラムは、「SweetSunshine」の音楽性とは別物だ。
スーラは、プリズムの分光で得られる12色だけをパレットに出したという。
ちなみに、その12の純粋色には茶色が含まれていないので、まさにフラットライナーズから想起された茶色・ブラウンという色彩は、彼らの音楽を浴びた者の心の中で調合された色ということだ。
この夜はサポートメンバーとして、Legeens(リジーンズ)ことにがギターで入っていたので、ちょっと明るめのライトブラウンだったかもしれない。
スーラは31歳での早逝で生涯を終えるが、フラットライナーズは20年以上というキャリアの長さが特徴だ。
2001年の結成から積み上げてきた音楽性は、重厚な音のタペストリーとなって、観客の耳を、肌を、魂を覆う。
Setlist:
ヘルシーガール
夜明け
インザジャケット
ユーモア
セダン
美大
ハピネス
ダイジェスト動画は、フラットライナーズの雰囲気を存分に感じてほしいと思い、序盤のみ音量を高めにしてある。
ブラウン、茶色というと、どちらかというと地味なイメージを持つ人も多いだろう。
だが、思い出してほしい。
緑を落とした冬の森でも、茶色い樹々の枝に、幹に、命は脈々と息衝いている。
茶色は、生命の色なのだ。
コーヒー、紅茶、ブランデー、ウィスキー……みな、茶褐色だ。
食べ物で、ステーキ、松茸、牛蒡、自然薯……挙げていけば切りがない。
ブラウンは、地面の、大地の色なのだ。
そして、名古屋めしを思い浮かべてほしい。
ひつまぶし、手羽先、あんかけパスタ、どて煮、味噌カツ、味噌煮込みうどん……
不思議と全部、茶色ばかりだ。
茶色・ブラウンとは、人々を慈しみ、生命を育む、大地の色なのだ。
なぜバンド名を不吉な意味を持つ「フラットライナーズ」と付けたのか、不思議に思った。
反応のない心電図を想起する"flat(平坦な)line(線)"は、死の隠語でもある。
しかし、フラットライナーズの音楽を感じて、分かった気がした。
flatlineとは、広い大地の、遥かなる地平線のことなのだ。
いつだって、夜明けを待ってる――
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