![千夜、一夜 main](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/b/2/b2f9c365-s.jpg)
何の前触れもなく、愛する人が失踪した。
そんな時、私たちは何をするだろう。
きっと、何日かは連絡を待つだろう。
そして、あらゆる伝手を使い、行方を探し求めるだろう。
警察に届けを出すのを考え始める頃には、失踪した理由が自分にあるのか懊悩するかもしれない。
ビラを作り貼りだす人は、どれほどの確率なのだろう。
そのビラを見ず知らずの人々に自ら手渡す人は、どのくらいいるものなのだろう。
そして、いつまで待てるものなのだろう。
10月7日(金)よりロードショー公開となる映画『千夜、一夜』で、女が愛する夫を待ち続けた期間は、30年だ。
メガホンを取った久保田直監督は、劇映画デビュー作である『家路』(14)まで主にドキュメンタリーを中心に活躍していた。
そんな久保田監督が、年間約8万人という国内の失踪者リストから着想を得て、8年を費やし完成に漕ぎつけたのが、『千夜、一夜』である。
![sub10](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/0/9/09181efb-s.jpg)
昔馴染みの漁師・春男(ダンカン)に何かと気遣われ続けているが、登美子は決してその想いには応えようとしない。
登美子は30年前に突如として失踪した夫・諭のことを、いまだに待ち続けているのだ。
ある日、奈美(尾野真千子)という看護師の女性が登美子を訪ねてくる。
2年前に夫・洋司が失踪した奈美は、似た境遇ということで町長(小倉久寛)に登美子を紹介されたのだ。
失踪した理由も、生死も分からないまま日々を送る美奈は、精神的に疲弊している。
失踪者について何の手掛かりも掴めない日々を送る登美子は、街中でとある男性が目に留まる。
その顔に見覚えがある気がした登美子は、男性に声を掛けてみると――。
![sub3](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/d/b/db519795-s.jpg)
主演・登美子には、『ええじゃないか』(81/今村昌平監督)『火火』(05/高橋伴明監督)など、時代を越えて銀幕に愛され続ける映画スター、田中裕子。
久保田直監督とは、『家路』でもコンビを組んでいる。
静かな佇まいの中に狂気にも似た情念を覗かせる「待つ女」を、まさに再現してみせた。
![sub8](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/f/5/f53d8b9d-s.jpg)
「もうひとりの待つ女」奈美には、『殯の森』(07/河瀨直美監督)『茜色に焼かれる』(21/石井裕也監督)など、第一線で輝き続ける名優・尾野真千子。
時に嫋やかな、時にエキセントリックな演技の振り幅で、観る者の視点を釘付けにする。
![sub4](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/e/d/ed4e7753-s.jpg)
白石加代子、平泉成、小倉久寛ら、脇を固める共演陣も重厚なアンサンブルを見せる。
そして、安藤政信、ダンカンというふたりの俳優に注目してほしい。
![sub5](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/b/f/bf10b6dd-s.jpg)
一口に「待つ」といっても、物語で示される待ち時間は、実に30年間。
1万を超える日々を待ち続ける人の思いは、信念や情念を振り切って、狂気をも孕むであろう。
そこには、達観をも超越した、ある種の信仰じみた人間の「業(ごう)」を感じざるを得ない。
登美子には、人を寄せない孤高さが漂う。
![sub9](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/d/9/d9863f01-s.jpg)
周囲の理解を拒むかのような登美子の佇まいは、まるで鑑賞者をも遠ざけんとしているかのような頑なさを感じてしまう。
映画が進むにつれ、まるで無関係な作品(で、あろう)が頭をよぎった。
遠藤周作の代表作「沈黙」である。
マーティン・スコセッシ監督により『沈黙 -silence-』(16)として映画化されたので、映画ファンにも馴染み深い作品だろう。
キリスト者である遠藤は、生涯かけて日本に基督教が根付かない(根付きにくい)理由を求め続けた作家であり、代表作「沈黙」はその集大成である。
![sub2](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/c/f/cf20b146-s.jpg)
夫を2年待ち続ける奈美は、沈黙を貫く神を乞い続けたロドリゴと重なる。
自分の15倍もの長期間、同じような境遇を過ごしたはずの登美子なのに、一片の優しさや労い、同情すら与えてはくれない。
ならば、登美子は、沈黙を続ける神の立ち位置なのだろうか?
それとも、ロドリゴに先んじて布教に就いたフェレイラ司祭なのだろうか?
さにあらず、登美子もやはりロドリゴなのだ。
登美子もまた、沈黙を貫く神の如き運命の前に成す術なく立ち竦む、一介の人間なのだ。
![sub7](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/c/1/c1259642-s.jpg)
『千夜、一夜』は、シーンによって様々な登場人物に主眼が移るような、独特の語り口を持っている。
観る者は感情移入するキャラクターが次々と移り変わり、物語を多元的に鑑賞することになる。
そんな唯一無二の作品世界は、久保田直監督が長きにわたり手掛けるドキュメンタリー的な映画文法とも読み取れる。
孤高を貫く登美子であるが、作中で何人もの人々が彼女に関わり、物語を彩る。
帰らぬ夫を「待つ女」に、それでも様々な人たちが、人生を重ねる。
こうして出来た交点が、登美子の、そして『千夜、一夜』という作品の、救いである。
人を待つあまり、人を遠ざけて生きた者は、人との交わりにこそ救済を見出だすのだ――。
![sub11](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/a/8/a888a873-s.jpg)
【配給】ビターズ・エンド
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
![千夜、一夜 main](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/b/2/b2f9c365-s.jpg)
何の前触れもなく、愛する人が失踪した。
そんな時、私たちは何をするだろう。
きっと、何日かは連絡を待つだろう。
そして、あらゆる伝手を使い、行方を探し求めるだろう。
警察に届けを出すのを考え始める頃には、失踪した理由が自分にあるのか懊悩するかもしれない。
ビラを作り貼りだす人は、どれほどの確率なのだろう。
そのビラを見ず知らずの人々に自ら手渡す人は、どのくらいいるものなのだろう。
そして、いつまで待てるものなのだろう。
10月7日(金)よりロードショー公開となる映画『千夜、一夜』で、女が愛する夫を待ち続けた期間は、30年だ。
メガホンを取った久保田直監督は、劇映画デビュー作である『家路』(14)まで主にドキュメンタリーを中心に活躍していた。
そんな久保田監督が、年間約8万人という国内の失踪者リストから着想を得て、8年を費やし完成に漕ぎつけたのが、『千夜、一夜』である。
![sub10](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/0/9/09181efb-s.jpg)
『千夜、一夜』ストーリー
港町、登美子(田中裕子)は小さな水産加工場で働き、生計を立てている。昔馴染みの漁師・春男(ダンカン)に何かと気遣われ続けているが、登美子は決してその想いには応えようとしない。
登美子は30年前に突如として失踪した夫・諭のことを、いまだに待ち続けているのだ。
ある日、奈美(尾野真千子)という看護師の女性が登美子を訪ねてくる。
2年前に夫・洋司が失踪した奈美は、似た境遇ということで町長(小倉久寛)に登美子を紹介されたのだ。
失踪した理由も、生死も分からないまま日々を送る美奈は、精神的に疲弊している。
失踪者について何の手掛かりも掴めない日々を送る登美子は、街中でとある男性が目に留まる。
その顔に見覚えがある気がした登美子は、男性に声を掛けてみると――。
![sub3](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/d/b/db519795-s.jpg)
主演・登美子には、『ええじゃないか』(81/今村昌平監督)『火火』(05/高橋伴明監督)など、時代を越えて銀幕に愛され続ける映画スター、田中裕子。
久保田直監督とは、『家路』でもコンビを組んでいる。
静かな佇まいの中に狂気にも似た情念を覗かせる「待つ女」を、まさに再現してみせた。
![sub8](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/f/5/f53d8b9d-s.jpg)
「もうひとりの待つ女」奈美には、『殯の森』(07/河瀨直美監督)『茜色に焼かれる』(21/石井裕也監督)など、第一線で輝き続ける名優・尾野真千子。
時に嫋やかな、時にエキセントリックな演技の振り幅で、観る者の視点を釘付けにする。
![sub4](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/e/d/ed4e7753-s.jpg)
白石加代子、平泉成、小倉久寛ら、脇を固める共演陣も重厚なアンサンブルを見せる。
そして、安藤政信、ダンカンというふたりの俳優に注目してほしい。
![sub5](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/b/f/bf10b6dd-s.jpg)
一口に「待つ」といっても、物語で示される待ち時間は、実に30年間。
1万を超える日々を待ち続ける人の思いは、信念や情念を振り切って、狂気をも孕むであろう。
そこには、達観をも超越した、ある種の信仰じみた人間の「業(ごう)」を感じざるを得ない。
登美子には、人を寄せない孤高さが漂う。
![sub9](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/d/9/d9863f01-s.jpg)
周囲の理解を拒むかのような登美子の佇まいは、まるで鑑賞者をも遠ざけんとしているかのような頑なさを感じてしまう。
映画が進むにつれ、まるで無関係な作品(で、あろう)が頭をよぎった。
遠藤周作の代表作「沈黙」である。
マーティン・スコセッシ監督により『沈黙 -silence-』(16)として映画化されたので、映画ファンにも馴染み深い作品だろう。
キリスト者である遠藤は、生涯かけて日本に基督教が根付かない(根付きにくい)理由を求め続けた作家であり、代表作「沈黙」はその集大成である。
![sub2](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/c/f/cf20b146-s.jpg)
夫を2年待ち続ける奈美は、沈黙を貫く神を乞い続けたロドリゴと重なる。
自分の15倍もの長期間、同じような境遇を過ごしたはずの登美子なのに、一片の優しさや労い、同情すら与えてはくれない。
ならば、登美子は、沈黙を続ける神の立ち位置なのだろうか?
それとも、ロドリゴに先んじて布教に就いたフェレイラ司祭なのだろうか?
さにあらず、登美子もやはりロドリゴなのだ。
登美子もまた、沈黙を貫く神の如き運命の前に成す術なく立ち竦む、一介の人間なのだ。
![sub7](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/c/1/c1259642-s.jpg)
『千夜、一夜』は、シーンによって様々な登場人物に主眼が移るような、独特の語り口を持っている。
観る者は感情移入するキャラクターが次々と移り変わり、物語を多元的に鑑賞することになる。
そんな唯一無二の作品世界は、久保田直監督が長きにわたり手掛けるドキュメンタリー的な映画文法とも読み取れる。
孤高を貫く登美子であるが、作中で何人もの人々が彼女に関わり、物語を彩る。
帰らぬ夫を「待つ女」に、それでも様々な人たちが、人生を重ねる。
こうして出来た交点が、登美子の、そして『千夜、一夜』という作品の、救いである。
人を待つあまり、人を遠ざけて生きた者は、人との交わりにこそ救済を見出だすのだ――。
![sub11](https://livedoor.blogimg.jp/rintaroh8919/imgs/a/8/a888a873-s.jpg)
映画『千夜、一夜』
10/7(金)~伏見ミリオン座ほか【配給】ビターズ・エンド
©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
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