3ウクライナ側ピスキ最後の住民

2022年2月24日、ロシアはウクライナに軍事侵攻を開始した。
この兵力規模は、第二次世界大戦以来で最大といい、戦闘は半年を経過しようという8月、まだ収束の見込みすら立たない状況が続いている。

ウクライナは地政学的に見て、国家のアイデンティティをロシアとヨーロッパとに翻弄されてきた歴史がある。
ソビエト連邦の崩壊により独立を果たした後も、ロシアとヨーロッパ連合のどちらを選択するかが争われた2004年のオレンジ革命を経て、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領がは国外逃亡した2013~14年の所謂ユーロマイダン革命と、ウクライナでは国内を二分する衝突が頻発。

6ユーロマイダン デモ1

ロシアも、不安定なウクライナの事情を静観しなかった。
ウクライナ国内に暮らすロシア系住民、親ロシア派の救済を名目に、2014年3月、ロシアはクリミア半島への軍事介入を開始。
現地の親ロシア派勢力は、「クリミア共和国」樹立を宣言、実質的にロシアの実効支配地となった。
さらに、ウクライナ東部ドネツク、ルハーンシク両州でも、親ロシア派勢力が一方的にドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国として独立を宣言。
独立を認めないウクライナ政府との間で、紛争状態が続くこととなった。

監督

そんな紛争状態の真っ只中、ドネツク側、ウクライナ側、双方を記録した映像があった。
撮影クルーの中心にいたのは2010年から旧ソ連の国々を取材してきたスロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツで、スロバキアのTVクルーとして彼らは2015年にウクライナへ入国し、市井の人々の生の声を克明にカメラに収めた。

13ウクライナ側少女

「他に選択肢はなかった」と、当時の戦場の様子語る元鉱夫。
スパイ疑惑をかけられ、ウクライナ兵の厳しい尋問を受けた男性。
「プーチンに助けてほしい」と、涙ながらに訴える老婆。
手榴弾で手肢を失った元軍人。
暮らしていた家が最前線で、両軍から銃撃を受けた老婦人。
家族の思い出を語る少女。
真面目に懺悔しようとしないホームレスの男性。

監督

誰もかれも、喜び勇んで戦闘に協力する者はいない。
戦争を始めることを決定するのは、最前線に生きる者ではない。
いつも、戦場に不在の人間たちである。
それは、私たち傍観者も含まれる。

『ウクライナから平和を叫ぶ ~ Peace to You All ~』は、ウクライナで起こっている紛争の、戦争そのものの本質を記録したドキュメンタリーだ。
すぐに忘れてしまう私たちは、ずっと手元に置いて、数年おきに観返すべき、貴重で、大切な映像だ。

11ウクライナ軍大佐

「なぜ戦争が始まったと思うか」問われた大佐は、「皆、学校で勉強しなかった。歴史をちゃんと勉強すれば、こんなことにならない」と言った。
自虐史観、粉飾史観……極端に振れる歴史認識から、早く脱却しなければならない。

出征する兵士が遺した「お国のために死ぬ」との言葉の真意は、「戦争に勝つため」ではなく、「後世が平和であるため」ではなかったのか。
前線に残された者が誰も戦いたくないのに、なぜ戦争は続くのか。

戦場に不在の者、私たちを含む傍観者は、いつまでも問い続け、世代を超えて語り継ぐ義務があろう。
「正しい歴史認識」とは、そういうことではないのか――。

12ウクライナ側ホームレス

映画『ウクライナから平和を叫ぶ ~ Peace to You All ~』

8月6日(土) ユーロスペース
8月26日(金) 名演小劇場
ほか全国ロードショー


監督・撮影 / ユライ・ムラヴェツJr.
2016年 / スロバキア / 1時間7分 / カラー・モノクロ / 1.85:1 / ステレオ /
スロバキア語・ウクライナ語・ロシア語
原題:Mir Vam (英題:Peace to You All)
監修:岡部芳彦
配給:NEGA
配給協力:ポニーキャニオン

『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』公式サイト


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