新型コロナウイルス(COVID-19)禍以降に撮られた作品は数あれど、コロナ自体を扱った映画は、意外に少ない。

コロナ禍を真正面から切り取った映画といえば、そのものズバリ『コロナウイルス 感染者』(監督:ミテシュ・クマール・パテル)という作品があるが、こちら大変残念な映画だった。
規模は小さいが『コケシ・セレナーデ』(監督:松本大樹)が出色の傑作なので、こちらをお薦めしたい。

ドキュメンタリー映画なら、『終わりの見えない闘い 新型コロナウイルス感染症と保健所』(監督:宮崎信恵)が必見だ。

そして、加藤紗希監督の『距ててて』。
こちらは、コロナ禍をさり気なく散りばめた映画だ。

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主人公ふたりのマスクの着け方で、二人の性格の違いを表してみたり。
社会人一年生の名刺交換の場面でマスクとフェイスカバーの着け替えをさせることで、「コロナあるある」を見せてみたり。
渡航禁止になり帰れなくなった(恐らく)不在者を設定することで、映画そのものの世界観を構築してみせたり。

この「さり気なさ」は、新型コロナウイルスと仕方なく共存することになってしまった私たちの日常そのものである。
そんな「仕方なさ」は、性格の合わない者との生活を余儀なくされた主人公、アコとサンが抱える嘆きそのものでもある。

『距ててて』ストーリー

共通の友人を通じて同居し始めたものの、間に入る家主が不在となり、見ず知らずの女性二人が一軒家で暮らしている。
アコ(加藤紗希)は、真面目で几帳面。プロのカメラマンを目指し、鉱石のスチール写真を撮り続けている。
サン(豊島晴香)は、ずぼらで大雑把。ポリシーあるフリーターで、部屋は汚いが生活力は高い。
ある日、二人の住む家に、田所(釜口恵太)が訪ねてくる。
アコが対応すると、彼は不動産会社の社員で、サンがネットオークションで買ったアコーディオンの音がうるさいと、近所からクレームが入っているというのだが――

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主人公ふたり、アコ役の加藤紗希が監督・編集を、サン役の豊島晴香が脚本を務めている。
二人は、「点と」という創作ユニットを結成している。
「点と」初の長編映画が、『距ててて』なのだ。

2021年の【ぴあフィルムフェスティバル(PFF)】で観客賞を受賞し、ポレポレ東中野(東京都中野区東中野4丁目4−1)でのロードショーでも、大変な評判を呼んだ『距ててて』。
オフビートで脱力系の笑いに包まれ、だが一方で小気味の良いテンポに酔いしれる……『距ててて』には、独特なリズムがある。

名古屋では、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8−12 アートビル 1F)で公開が始まった。
『シネマスコーレを解剖する。 コロナなんかぶっ飛ばせ』(監督:菅原竜太)というドキュメンタリー映画の舞台となった劇場は、『距ててて』の映画館に相応しい。

公開初日7月30日(土)加藤紗希監督、髙羽快(清水 役)さんが登壇した舞台挨拶、そして7月31日(日)加藤紗希監督、豊島晴香(脚本・主演)さん、髙羽快さんが登壇した舞台挨拶を取材した。



「限られた人数でやったという感覚は正直なくて、やれることをやれる範囲で存分にやった現場でした」
という髙羽快さんの言葉が、実に印象的だった。

映画はコロナには負けないし、芸術は制約を凌駕する。
そして、作り手の想いは銀幕に写り、観る者の心を打つ。

映画館というのは、そういう空間なのだ――。

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『距ててて』公式サイト

https://hedatetete.themedia.jp/