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7月2日(土)、大野大輔監督『辻占恋慕』がシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で公開開始となった。

心に突き刺さり、胸を抉られる、鋭い鈍器(?)のような大野監督の台詞は、今作も健在。
『さいなら、BAD SAMURAI』と『ウルフなシッシー』に連なる「青春三部作」の最後を飾る作品だと言う。

大野大輔監督が『辻占恋慕』で描いたのは、「青春の終焉」。
まさに三部作の大団円を飾るに相応しいテーマだが、さすがは大野作品、青春は簡単に終わらないし、そう易々と終わらせてもくれない。

『辻占恋慕』ストーリー

2018年、R&Bデュオ「チカチーロンズ」のボーカル信太(大野大輔)は、対バンライブのステージ裏で焦っていた。
本番直前だというのにギターの直也は現れず、電話にも出ない。
絶望する信太にサポートを申し出たのは、チカチーロンズの次にステージに立つ予定の、月見ゆべし(早織)だった。
ゆべしは、「この人一曲しか演らないので、その分私に持ち時間をください」と言う。
彼女のアコギで何とか無事(?)に歌い終え、信太は月見ゆべしのステージを観る。
ジャンルはド直球のフォーク、物販はカセットテープという我が道を行く月見ゆべしの音楽に、信太は心を打たれた――。

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7月2日(土)公開初日、劇場に詰めかけたオーディエンスの前で開催された舞台挨拶を取材した。
ステージに立ったのは、主演の早織さん、劇中歌を担当し出演も果たした西山小雨さん、そして企画協力・配給の直井卓俊さん。 

司会はもちろん、シネマスコーレ坪井篤史 副支配人だ。

坪井 この映画の成り立ちを教えてください。
直井 大野監督、『さいなら、BAD SAMURAI』『ウルフなシッシー』との三部作で、「青春の終わり」をやりたい、オリジナルの音楽映画で撮りたいっていうのがあったみたいで。たまたまウチは、【MOOSIC LAB】みたいな音楽と関わる映画を扱っていたので、そこからですかね。話が持ち上がったのは、コロナよりも前の……
西山 2019年でしたか。
坪井 西山さんは、その時から映画に関わっていたんですか?
直井 いや、まずは早織さんからですね。主演の「月見ゆべし」ってキャラクターも決まっていて……もっと過激なキャラクターでしたよね。
早織 そうでした。
直井 カセットデッキを背負って、自分の曲を流しながら自転車で走ってる、みたいな……「さながら街宣車のようである」ってト書きがあって(笑)。早織さんに決まって、キャラクターイメージが変わっていった感じでしょうかね。でも、コロナで全く撮影が出来なくなっちゃったんです。

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早織 1年くらいですかね。
直井 早織さん、元々お会いした時はギター全く弾けなかったんてすけど、その1年間があったんで、逆に(ギターを)練習できる期間ができたんですよね。
早織 不安でしたけどね(笑)。
直井 小雨さんとのやり取りも、ほとんどリモートでしたよね。
西山 そうですね。
早織 コロナ禍に入る辺りでちょうど、父が入院したんです。退院した後体力が落ちてしまったので、父を助けようと一時的に実家に戻り、家事手伝いをしながらギターを練習してて。父親が弱っているというのに、近い空間で「サヨナラナンマイダ」を熱心に歌っていました(場内笑)!
西山 いやぁ……ごめんなさい!バースデーソングなんです(笑)!!
直井 でも、元々はバースデーソングじゃなかったですよね?
西山 そうです、そうです。シナリオで月見ゆべしというキャラクターを知って、2年くらいずっとリモートだったんですけど、2020年に早織さんと直接一度だけお会いして。彼女の声とキャラクターを想像しながら、私は元々ピアノ弾きでピアノとウクレレで音楽を演っていて、ギター弾き語りの子が作る曲ということで初めてギターで曲を書かせていただいてます。早織さんに会いに行く電車の中で半分できて、帰りの電車の中でもう半分できたみたいな。やっぱり会うことで、ビッと印象が決まって。「サヨナラナンマイダ」は、その頃の感覚で書いたゆべしのイメージですね。
早織 初稿というのが3時間分ありまして、その中で「誕生日に反戦歌を歌う」っていうト書きがあったんですよね(笑)。
西山 そうだ!確かに反戦歌のリクエストがあって、一生懸命ニュースを見たんですけど、「反戦歌って、何だろう?」と(笑)。なので、この曲の冒頭部分の歌詞は、私なりの精一杯の反戦歌になっています。

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坪井 西山さんとして、曲を作るのは楽しい作業ではありました?
西山 私は普段「歌くらいはハッピーエンドに」って感じで、素直に毒を吐けない部分があって、それをゆべしに託したような。もちろん私の中にもある気持ちなんですけど、ゆべしだからこそ歌える曲、この作品で、かつ早織さんたからこそ出てきたような。だから、楽しかったですね。正確に言うと「辻占恋慕」以外は楽しかったです(笑)。
直井 「辻占恋慕」は、ちょっと難産だったんですよね?
西山 まさに、陣痛が長くてですね(笑)。演る側の早織さんに凄くご迷惑かけてしまった曲ですね。これは誰に向けてのどのくらいの規模の曲なのか、私もミュージシャンとして悩んでしまって……。最終的には、ゆべしの信太に対するとても個人的な、1対1の応援歌でありラブソングにしたつもりです。

ここで、早織さんによる生弾き語りが披露された。

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雨の日

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坪井 早織さん、本当にありがとうございました(場内拍手)!
西山 皆さん、信じられないと思いますが、改めて言いますけど早織さんはミュージシャンじゃないんですよ(笑)!今回のために、一からギターを練習してくださって。

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直井 (劇中で)演奏も自分で演ってますもんね。
西山 「獣」とかライブハウスで観てましたけど、あまりの気迫に正直怖いくらいでした!もうメチャクチャ練習してくださって、でも私もギター分からないという……
直井 誰もギター教える人がいなかったんですよね。「そうだ!音楽の福田(裕彦)さんがいる!」と思ったんですけど、福田さんもピアノという(笑)。
坪井 映画観てても、もうミュージシャンにしか、どこかにいる「月見ゆべし」にしか見えないですもんね。
直井 ずっと不機嫌そうな表情なんですよね(笑)。

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西山 本当に酷暑の中、ここまで駆けつけてくださりありがとうございます。名古屋の上映は始まったばかり、皆さんの生きた声が一番お客様に届くと思います。忖度なしで良いんで、SNSに恐れずに書き込んでいただくと、私たち一生懸命エゴサしますんで(笑)、よろしくお願いいたします。
早織 初シネマスコーレで、こんな一生覚えているステージを(笑)、本当に幸せです。『辻占恋慕』には本当に幸せを頂いているので、それを今日観に来てくださった皆様と共有できたこと本当に嬉しく思っております。

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引き続き、シネマスコーレ2階の「スコーレインディーズスペース」では、西山小雨さんのミニミニライブやサイン会が執り行われた。

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早織さん、西山さんには、観客一人ひとりから、熱い感想が届けられた。

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お二人は質問にも丁寧に受け答えし、長蛇の列はなかなか消えることがなかった――。

『辻占恋慕』公式サイト