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インディーズ映画の聖地・シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8−12 アートビル 1F)で、『サイキッカーZ』との日替わりで上映される、『地元ピース! 幻想ドライビング』。
最新長編である『サイキッカーZ』と共に劇場へ引っ提げてきた長編映画なのだから、木場明義監督としても手応えのある作品であることは間違いない。

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『地元ピース! 幻想ドライビング』は、「愛する地元を応援したい」「故郷を舞台に映画を作りたい」そんな地元出身の俳優たちの想いに応え、それぞれの故郷を舞台に製作したオムニバス映画。
物語の舞台となったのは、長谷川葉生の出身地・栃木、藤井太一の出身地・宮城、もりとみ舞の出身地・岐阜。

だが、正直「オムニバス」とは呼びたくない。
それぞれの物語が絶妙に絡み合う作品世界は、「3章立ての長編映画」そのものだ。


『地元ピース! 幻想ドライビング』ストーリー

栃木編「ブースト」
欲しがり屋の少女マチコは、母に気持ちを静める方法を教わる。
しかし、注意点を守らなかったせいか、マチコ(長谷川葉生)は感情表現の乏しい大人になってしまう。
職場であるおもちゃ博物館でも無表情で過ごし、気になる男性(柴田明良)にもどう接していいか分からない。
ある日、同僚・涼子(千倉里菜)から、マチコそっくりの女性を見掛けたと告げられる――。

宮城編「星屑ステージ」
ニューハーフ・早智子(藤井太一)が働くショーパブに、突然妹の百(shoco)が訪ねてくる。
早智子が亡くなった母の葬式にも出ず頑として帰郷しない様子を聞き、ボーカルユニット「ヘルウインク」として共にステージに立つ祥子(小林大介)は、力尽くで早智子を連行。
3人が乗った車は、一路宮城へと向かう――。

岐阜編「柳ヶ瀬ダンジョン」
フジ子(もりとみ舞)は、岐阜県のローカルFM局でパーソナリティを務める。
一緒に暮らしている恋人の浩一(小林ヒカル)は、仕事も恋も生き方も、すべてにだらしがなく、フジ子の気持ちも冷めつつあった。
ある日、柳ケ瀬のアーケード街を歩いていたフジ子は、いつもと様子が違う浩一を見かける。
しかし、いつもと様子が違うのは、どうやら柳ヶ瀬の街そのもののようで――。

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まずは何はともあれ、主人公である3名の役者たちの演技を堪能してほしい。

「ブースト」出演の長谷川葉生は、栃木の街で凄まじい演技の振り幅(実に!)を魅せる。
名作『つむぎのラジオ』とはまた違う表現で、人間の、人生の持つ不可思議さ、可笑しさ、面白さを「ブースト」させるのだ。

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「星屑ステージ」の主人公、藤井太一の役者魂は、観ていて胸が熱くなる。
夜と朝、違う顔のようでいて、一本筋が通った感情を貫く早智子は、星屑などではなく綺羅星だ。

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「柳ヶ瀬ダンジョン」で出演を務めるもりとみ舞は、突然不思議の国に迷い込む「アリス」を熱演する。
3編のうちでいちばん哲学的な岐阜編のシナリオは物語の締めくくりに相応しく、表情だけでなく多彩な「声」で魅了するフジ子に、注目、傾聴してほしい。

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シナリオをがっちりと補完する競演陣にも目を奪われるはずだ。
マチコの幼馴染役を演じた秋田ようこは、限られた出番の中でも、主人公の「写し鏡」ともいえるナナミという役柄をしっかりと表現した。
祥子役の小林大介は、物語に欠かせない「バディ」という存在なだけではなく、立ち居振る舞いで「マイノリティで居ることの真っ当さ」を感じさせる。
柳ヶ瀬の、物語の核心を語る山口友和は、「新たなジョーカー像」とでも呼びたくなるような、存在感あふれるキャラクターを好演した。

固定観念という幼い頃からの呪縛から自分を解き放つ物語、「ブースト」。
捨てたはずの故郷で見失いかけた自分を見つるロードムービー、「星屑ステージ」。
過去に捨てた選択肢の“迷宮”が今の自分を形成していることを知る、「柳ヶ瀬ダンジョン」。

多彩な3つの物語は、それぞれ一作の短編映画としても充分に成り立つ、完成度の高い作品である。
舞台となる「地元」も、栃木・宮城(岩手)・岐阜、と、まちまちだ。

だが、3編通して観ることによって、作品世界を首尾一貫して貫くテーマが、より明確に、力強く浮かび上がる。
だからこそ『地元ピース! 幻想ドライビング』は、短編映画3本のオムニバスではなく、3章構成の長編映画と呼びたいのだ。

3章のうち2つを割いて、ドッペルゲンガー(二重身)について扱っていることは興味深い。
また、すべての章で、主人公の「写し身」たるキャラクターを配置していることも着目したい。

そして、パラレルワールド(多重世界)について、科学的ではなく文学的なアプローチで考察しているのが、実に木場明義監督らしい。
この「文学的な科学考証」は、『スリッパと真昼の月』などの木場作品にも見られる、イナズマ社映画の魅力あふれる特徴だ。

各章は、絶妙な匙加減によって、程よく繋がっている。
ちなみに、すべての章で「ゴリ」は健在。
見つけやすいもの、見つかりにくいもの色々だが、お見逃しなく。

過去を思い出し、今を許し、未来を見据える……
『地元ピース! 幻想ドライビング』の主人公は、現代を生きる私達そのものなのかも知れない。

『地元ピース! 幻想ドライビング』は、シネマスコーレで、6/12(日)、14(火)、16(木)に上映される。
日替わり上映で、6/11(土)、13(月)、15(水)、17(金)は、長編版『サイキッカーZ』と入れ替わる。

『地元ピース! 幻想ドライビング』に、『サイキッカーZ』……
映像のファンタジスタ・木場明義監督の作品世界は、一体どこまで広がっていくのだろう。

きっと私たちは、いつまでも魅了され続けるのであろう――。

映画『地元ピース! 幻想ドライビング』

出演:
長谷川葉生
藤井太一
もりとみ舞

柴田明良、秋田ようこ、千倉里菜
小林大介、shoco
小林ヒカル、山口友和

中島淳子、中山雄介、与古田千晃、森脇拓人、赤羽一馬、秋山大地、高木美嘉、柴田花音、大坪亮太、玉木文子、庄子勝義、太田光成、太田あすみ、花太郎、篠塚将宏、洞口晴香、杉野翼、宇野裕未奈、空沢しんか、立川日向子、まどかリンダ、那波万緒、涼夏

監督・脚本・撮影・編集:木場明義

助監督:茅嶋直大、渡邉玲、もりとみ舞、大坪亮太
録音:yuuki
音楽:伴正人
宣伝美術:相原優
制作:長谷川葉生、藤井太一、もりとみ舞

協力:
壬生町おもちゃ博物館 なか川、壬生町、道の駅みぶ、いしぐれ珈琲、守富環境工学総合研究所、御浪町ホールInceptionbase“himitsukichi” 、㈱シティエフエムぎふ、㈱鳥倉総本店、岐阜市徹明公民館、岐阜CINEX、岐阜土地興業株式会社、岐阜フィルムコミッション、岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会、ジュバ・ショップ、正法寺、大福屋、高島屋南商店街振興組合、フラワーショップ玉屋、ホステル マニマニ、洋食屋Pannonica、MADBLAST HIRO、和カフェ 島田

製作・配給:イナズマ社