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広島を拠点とする「深夜兄弟」は、不思議な音楽ユニットだ。
メンバーであるミカカ、Jacky、のっこんの3人は全員ボーカルで、ソロでも活動する。
だが、年齢も音楽性もバラバラのはずの3人が一緒になると、聴衆を包み込むような懐の深い音楽世界を奏でる。
バンドと称するには自由な深夜兄弟のことを、人々は「3ボーカル音楽ユニット」と呼ぶ。

そんな広島には、一人の映画人がいる。
出身は大阪、東京で俳優を続けていたが、出演作からの縁で、32歳で広島に移り住んだ、前田多美だ。
2018年から監督業も始めた前田監督は、人脈もない状況から2編の長短編映画を作りあげている。

深夜兄弟と前田多美監督を惹き会わせたのは、広島市西区横川町にある古本屋「本と自由」の存在も大きい。
前田監督が「深夜兄弟が、もし本当に兄弟だったなら?」という着想により、『犬ころたちの唄』という物語が動き始めた。

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映画『犬ころたちの唄』ストーリー

広島県、新幹線と2本の在来線交わる横川駅に程近い路地にある、「本と自由」。
古本屋だが、アルコールが飲めてライブも開催される店には、様々な人が集まる。
山尾森男(ミカカ)は、本と自由の二階で暮らしている。
山尾家は三兄弟で、亡き父(福元つとむ)の影響からか、次男林蔵(Jacky)も三男三樹(のっこん)も、もちろん長男森男も、音楽を愛好している。
普段はバラバラに活動している三兄弟だが、亡父の祥月命日には森男の部屋に集い、「法事」と称してギターを掻き鳴らし、唄を歌い、酒を酌み交わす。
三十三回忌の法事を間近に控えたある日、森男の元へ一通の手紙が届く。
差出人は、30年近く会っていなかった、兄弟の異母妹・葉月(前田多美)だった――。

5月28日(土)、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8−12 アートビル 1F)で封切りとなった、『犬ころたちの唄』。
初日舞台挨拶に登壇した、前田多美監督、ミカカ(深夜兄弟)を取材した。



映画『犬ころたちの唄』は完全なるフィクションだが、まるでドキュメンタリーでも観るような、得も言われぬリアリティが全編に纏っている。
それはまるで、ライブ会場で聴いた楽曲に「この歌は、ひょっとして実体験?」と感じる瞬間に近い。

歌詞にどれだけの真実が含まれているのか知る術はないが、そんな想像は妄想の域にまで及び、「この歌は、私のことを唄ってる!」などと感じてしまう瞬間がある。
音楽の持つ力は、凄まじい。

『犬ころたちの唄』は、そんな音楽の力を体現した映画だ。

「夜の夜の」
「遠くの友達」
「その日の花を摘め」
「後悔はもうしない」
「スナックiko」
「電気と油」
「犬ころたちの唄」
「鬼ころし」

深夜兄弟……山尾ブラザーズが、劇中で奏でる唄は、どの楽曲も本当に素晴らしい。

『犬ころたちの唄』でしか味わえないライブを、セッションを、どうか劇場で観て、聴いて、感じて、ほしい――。

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映画『犬ころたちの唄』

監督:前田多美
脚本 :梶田真悟
構成・編集:村松正浩
撮影:西井昌哉
録音:松浦智也
整音:バッチグー・山本
音楽 :久保モリソン
助監督:サトシコンドウサトシ
制作:大野 郁代

出演:ミカカ、Jacky、のっこん(深夜兄弟)、前田多美、青山修三、梶田真悟、ウエノケンジ、こだまこずえ、ほか

製作・宣伝・配給:Donuts Films

2021年/91分/ステレオ/DCP

映画『犬ころたちの唄』公式サイト