4/29(金 祝)、2022年ゴールデンウィークの初日、後藤庸介監督『N号棟』がロードショー公開となる。
今作は、ジャンルでいうと「サイコ・スリラー」といったところだろう。
いわゆる「ホラー映画」ではなく、まぎれもない「恐怖映画」だ。
“horror(戦慄)”と“terror(恐怖)”は、別ものなのだ。
というのも『N号棟』、実際に起きた怪奇事件のエッセンスを色濃く取り込んだ映画だからだ。
1998年、岐阜県のとある町に公営マンションが完成した。
入居24世帯、4階建てというごく普通の公営団地だが、うち15世帯もの住民たちが怪現象に悩まされているとの噂が流れた。
これを、新聞・テレビ・週刊誌などマスコミが大々的に報じた。
当時のメディアによると、壁を内側から叩くようなラップ音がしたり、棚の扉が開く、食器が飛び出す、ひとりでにシャワーが出る、テレビのチャンネルが勝手に変わるなどのポルターガイスト現象が報告されたという。
2000年の秋頃の出来事だ。
プライムタイムのニュース番組までが取り上げ、現地から生中継したほど、この怪奇現象は注目を集めた。
霊能者や僧侶は霊の存在を主張し、音響学の専門家はウォーターハンマー(水道の使用により水圧の変化で水道管が鳴る「水撃現象」)を推測した。
しかし、仮説に過ぎない推論は解決には程遠く、結局は原因は謎のまま現在も残ったままである。
その後、騒ぎは鎮静化、社会からの注目は急速に落ち着いたようだ。
現場の町営マンションは今も住居として利用されており、空き部屋が出れば新規入居者も募集されるという。
『N号棟』ストーリー
都内の大学に通う史織(萩原みのり)は、無気力で怠惰な生活を送っている。講義にも身が入らず、元カレの啓太(倉悠貴)ともずるずると関係を続けている。
史織は死恐怖症(タナトフォビア)に悩まされていて、哲学の授業も自堕落な生活も精神安定剤も、史織を潜在的な不安から救ってくれない。
そんなある日、史織は気まぐれで、啓太と今カノ・真帆(山谷花純)が行くホラー映画のロケハンに同行する。
撮影地は、とある地方の廃団地で、有名な怪談スポットだという。
ところが、現地に着いた3人は驚愕する。
廃墟のはずの団地では、管理人(諏訪太朗)、加奈子(筒井真理子)など、人々が普通に暮らしているのだ――。
監督・脚本を務めるのは、『リトル・サブカル・ウォーズ ~ヴィレヴァン!の逆襲~』(2020)の後藤庸介監督。
TVドラマ「世にも奇妙な物語」シリーズで、数々の演出、プロデュースを手掛けた手腕は、本作で十二分に結実している。
主人公・史織を演じるのは、若手実力派として輝きを放ち続ける、萩原みのり。
『街の上で』(2021)『佐々木、イン、マイマイン』(2020)の好演も記憶に新しく、『成れの果て』(2021)では主演を果たしている。
今作では、従来のホラー作品における「叫ぶヒロイン」とは一味も二味も違った熱演を見せ、後藤監督からは「まるでドキュメンタリー」と絶賛されたという。
史織とともに「和製ミッドサマー」の世界に挑むのは、こちらも実力派の山谷花純と倉悠貴。
『まともじゃないのは君も一緒』(2021)でも恋人役だった2人の、息の合った芝居にも注目してほしい。
特に啓太と真帆が「豹変する」展開は、それまで「死」以外に恐怖を感じなかった史織が絶望する、本作でも屈指の重要な場面となっている。
また、恐怖の根源である団地の住人たちが、素晴らしい。
筒井真理子が演じる加奈子が放つ不気味さ、不穏さの正体は、最後まで分からない。
名コメディリリーフの諏訪太郎は、今作でも変わらぬ飄々とした演技を見せ、それがかえって空恐ろしい。
新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言、まん延防止措置の呪縛から3年ぶりに逃れたはずなのに、今年もまた遠くに行けないGWになりそうだ。
だが、私たちには、映画館がある。
ひょっとしたら劇場は、いちばん遠くに連れて行ってくれる場所なのかもしれない――。
映画『N号棟』
4月29日(金・祝)新宿ピカデリー
ミッドランドスクエアシネマ
ほか全国公開
萩原みのり 山谷花純 倉悠貴
岡部たかし 諏訪太朗 赤間麻里子
筒井真理子
監督・脚本:後藤庸介
音楽:Akiyoshi Yasuda
主題歌:DUSTCELL「INSIDE」(KAMITSUBAKI RECORD)
製作:「N号棟」製作委員会
制作:株式会社MinyMixCreati部
配給:SDP
2021年/103min/カラー/シネスコ/5.1ch
©「N号棟」製作委員会
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