2008年の開館以来、現代アートの若手作家を中心に、日本国内のコンテンポラリーアートの「いま」を発信し続けている、gallery N(名古屋市千種区鏡池通3-5-1)。
2022年4月2日(土)~4月17日(日)、【ギャラリー N 映画展】が開催された。
独自に短編映画の募集を行い、ギャラリー Nで展示上映するという、初の試みだ。
作品の条件は「フィックス・ワンカット」で撮られたものであること。
130本以上の応募作品の中から選抜されたノミネート作は、9作品。
ギャラリー N 特別推薦作品4作を加えた13作品が、連日ギャラリー Nで展示上映された。
また、4月16日(土)には会場をシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)に移して、特別上映&表彰式が開催された。
ギャラリー N 映画展ノミネート作9作品が一挙上映され、各賞の発表、表彰が行われた。
最終審査員を務めたのは、深田晃司監督、越後谷卓司(愛知県美術館主任学芸員)氏。
審査委員長である二宮拓也(gallery N ギャラリスト)氏が、司会進行を務めた。
シネマスコーレで上映された9作品は、深田監督、越後谷氏から総評を受けた。
『蒔く愛』
監督:山科 晃一/12分38秒解説:
とある劇団の稽古の休憩中、トシ樹は劇団を辞めると言う。彼曰く、チケットノルマや演劇界の未来に絶望し「感情が爆発」したらしい。それをきっかけに、休息のための時間が感情の交錯する空間へとすり替わっていく。
深田監督
「非常に空間の見せ方が上手かったですね。ワンカット・ワンシーンというと、自分がまず思い出すのは、リュミエールの作品です。映画の最初で、ドキュメンタリー的な作品と言われがちなんですが、凄く作り込まれた作品です。『蒔く愛』も、出入り口から人が出てくるだけで、凄く映画的ですよね。フレームの外で何が起きてるのかを想像させるところも、面白かったと思います」
越後谷
「人物が一旦フレームアウトして、また戻ってきたり、扉の向こうとこちらに人が出入りしたり、空間を凄く上手く使いつつ作り込んでいて、「何だろう?」と引き込まれました」
『私はたぶん絶対にかわいい』
監督:堀内 友貴/14分58秒解説:
車に乗るある男女の会話。カーラジオからは2人の思い出のラジオが流れている。
深田監督
「非常に完成度の高い作品だと思いました。車にカメラを据えてワンカットで撮るのは、ある意味古典的な手法なんですけど、夕暮れ時ということで刻一刻と光が変わっていく状況で、時間の流れを登場人物と一緒に実感として感じられるという」
越後谷
「ワンシーン・ワンショットだと変化が乏しいので、車の中にカメラを設置するということは、それを克服するものとしてパターン化している一つではあるんですけど、構成が上手いので実に生きていると思いました」
『A Piece of “Hand Washing Chanpuru”』
監督:うしお/1分58秒解説:
一見すると感染症予防の啓蒙動画のようですが、注意深く見ると「左右別々の人物による手洗い」の映像です。本作は2022年2月にアンテルーム那覇で発表した映像作品《手洗いチャンプルー?》の1コマです。
深田監督
「観終わった後にコンセプトを見て、「そういうことだったのか」と。面白かったですね」
越後谷
「現代アートの映像と、映画との違いは何か?というテーマは、研究されても良いのに不問にされてるところがあります。今回の映画展は、そういう意味でとても意義のあることだと思っています。この作品は展示場で流れていれば、説明を読んで「なるほど」ということになるんでしょうが、上映会で説明のない状況でもある程度伝わったというのは、作品の力なんじゃないかと思います」
『状況#2』
監督:福原 翼/30秒解説:
小さな目玉焼き、あるいは大きなフライパン。
深田監督
「シンプルに面白かったです。「不思議の国のアリス」を読んだときのような感覚を、たった30秒で味あわせたということで、好きな作品です」
越後谷
「まずビジュアルで驚かせるというのが、映画やビデオアートの主流だったと思いますけど、この作品はまさにそれかなと思います」
『Shall we love you?』
監督:田中 晴菜/7分2秒解説:
放課後、高校の体育館の隅に集まる演劇部の真琴、悠、芽依は、オスカー・ワイルド作「The Happy Prince(幸福な王子)」を翻訳、舞台化しようとしている。各々翻訳してきた台本の読み合わせをしながら、幸せとは何か考える。
深田監督
「いつまでも観ていたくなるような作品ですよね。よくフィクションとかで消費されるような記号としての女子高生みたいなところとは全く遠いリアリティを持っているような感じが、凄く良かったと思います」
越後谷
「自主制作映画の中で、女子高校生は王道パターンなので、そんな流れの中の1本なのかと思いきや、演劇というテーマが作品の構造と上手く結びついた、一本抜けている良作だと思いました」
『Kidofuji』
監督:下社 敦郎/11分42秒解説:
東京都杉並区高円寺にある立ち飲み屋「きど藤」で、ある夜に起こった男女三人の出来事。緊急事態宣言が解除になり営業再開したきど藤は一時的にいつもと変わらぬ活気を取り戻すが…。
深田監督
「観ていて、凄く不思議な作品だと思いました。登場人物の関係性が、分かるようで分からない……説明不足とも感じたんですけど、想像力を掻き立てられるところが凄く面白い。あと、空間の、縦の構図も面白かったです」
越後谷
「これも多分、ワンシーン・ワンショットだから、敢えて背中を向けた構図で撮ったのかと思います。画面の豊かさみたいなものが凄く生きてると思いました」
『へんがお すがお』
監督:松本 卓也/5分13秒解説:
長女あきえ、次女ほのか、三女うみは、三姉妹で一緒に暮らしている。今日も居間で他愛のない話をするー三姉妹役を演じる三人の役者の息が合った演技が魅力のワンカットムービー。
越後谷
「ずっと台所で準備して出てきたのが、あれ……馬鹿馬鹿しいんだけど、本当に笑っちゃって。3人の演技力が本当にあるので、だからあの構図で成立しちゃうという、凄く演劇的で、僕は好きな作品でした」
深田監督
「松本卓也さんは、凄く質の高いコメディをコンスタントに作られているのは存じあげていて。役者の魅力を分かっていて、ちゃんと力量を計れているのを感じました」
『メビウスからの脱却』
監督:澤田 尚悟/3分46秒解説:
サイレント作品。人は生まれた瞬間から様々なものを得る代わりに「何か」を失い続けている。この作品では「誕生」「発見」「輝き」「衰退」の4つのテーマで物語が進んでいきます。これらを色の三原色を使って表現しました。
深田監督
「凄く印象に残る作品でした。非常に抽象的な、アングラ的な方法で撮られているんですけど、もしリュミエールの時代に、トーキー映画が生まれる前に、カラーフィルムが誕生していたら、映画の誕生の時に映像に携わった人はこういう作品を撮ったんじゃないかなと思わせるような、プリミティブな力がありました」
越後谷
「説明がなく、サイレントだから、映像で見せるしかないんですけど、照明の効果と人物の出入りでテーマを表現していることは、評価したい作品です」
『休日労働』
監督:岩田 隼之介/11分35秒解説:
日曜日、小学校教員のつぼみ(25歳)は翌日に行われる合唱祭のサプライズソングとして担任教員の歌声を重ねて合唱テイストにする作業を自宅で行なっていたが、、。
深田監督
「シンプルに、良い意味で作り込まれてる作品で、ワンカットで何が出来るか知恵を凝らしたんだろうと思います。クローズショットからロングショットに、画がどんどん変わっていくという工夫が凝らされていて。小技を利かせた上に、最後の大技が利いている、良い作品だと思います」
越後谷
「ワンシーン・ワンショットという制約の中で、如何に豊かな作品を作るかという工夫が見られます。スマートフォンやパソコンといった機器、極端な構図、狭い空間の中での奥行きの出し方、作り方に抜きん出たものを感じました」
発表された各賞は、以下の通り。
力作揃いのため、賞が増設されたのだそう。
【観客賞】
(副賞:名古屋コーチン鍋セット)『美しさとは何か再考する』
(ギャラリーN特別推薦作品/監督:スィーヤウォン麗/8分51秒)
【ギャラリーN特別賞】
『A Piece of “Hand Washing Chanpuru”』【準グランプリ】
(副賞:ミニプロジェクター)『蒔く愛』
山科晃一監督
「このような機会をいただきまして、ありがとうございます。観るたび、観るたび、「あそこをこうすれば……」という思いもあったんですが、上手く機能した部分もあったんだと思います。ありがとうございました」
『休日労働』
岩田隼之介監督
「限られた制約の中で、何をするか考えて、どんどん詰め込んで、どんどん複雑になっていってしまったり……ワンシーン・ワンカットは、この公募があってこそ撮れた作品なので、機会をいただきありがとうございました」
【グランプリ】
(副賞:10万円)『私はたぶん絶対にかわいい』
堀内友貴監督
「本当にありがとうございます。他の作品がとても面白くて、落ち込んでいたんですが、グランプリに選んでいただき光栄です。この10万円で、同じスタッフでまた自主映画を撮って、色んな映画祭に出品して、ステップアップしていけたらと思います。ありがとうございました」
賞状は、木版画家の濵田路子さん製作の版画だという。
上映会の後、gallery N の二宮拓也、二宮由利香、両氏と話をすることが出来た。
【ギャラリー N 映画展】は、今後も続けていきたいと考えているという。
「毎年はキツいから……ビエンナーレ、トリエンナーレって感じになっちゃうかもしれないけど」
と、拓也氏は笑ったが、今後の開催を心待ちにしている――。
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