フィヨルドとオーロラの国・ノルウェーから、素敵な素敵な青春ロードムービーが届いた。
クリスティアン・ロー監督『ロスバンド』だ。
新型コロナ(COVID-19)禍により旅すらままならない昨今、その上凄惨なニュースばかりが流れてくる今だからこそ、是非とも家族みんなで観てほしい。
ただし、親にとっては色々と考えさせられる内容……かも、知れない。
『ロスバンド』ストーリー
ノルウェー南部の田舎町に住む少年・グリム(ターゲ・ホグネス)は、伝説のドラム奏者・ハンマーから「夢を追え!」という言葉をもらって以来、本気でドラムに打ち込んでいた。だが、家では両親の言い争いが絶えず、離婚のため弁護士を雇うという状況に心を痛めている。
そんなある日、ロックユニット「ロスバンド」のギター・ボーカルを担当している同級生のアクセル(ヤコブ・ディールード)から、ロック大会の出場権を獲得したと知らされる。
憧れのロック大会本選に出られるとあって、グリムは天にも昇る気持ちのはずが、どうにも気が重い。
実は大会に送った音声データは音程修正アプリで加工したもので、アクセルはギターの腕は抜群だが、歌がド下手なのだ。
クラスメートのリンダへの想いを熱唱する世にも音痴なボーカルを聴くたびに言わないとと思うのだが、親友・アクセルの気持ちを考えるとグリムはどうしても真実を告げられない。
グリムは遠回しに新しいボーカルを探そうと新メンバーの募集を提案するが、何も気付かないアクセルはベーシストのオーディションを開いてしまう。
応募してきたのは、9歳のチェリスト・ティルダ(ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル)ただ一人だった。
こうしてスリーメンとなったロスバンドだが、まだ問題があった。
ロック大会は、ノルウェーの北の外れトロムス島にあるトロムソで開催される。
移動手段を持たないロスバンドは、近所に住む草ラリードライバー・マッティン(ヨナス・ホフ・オフテブロー)を運転手に雇うことにするのだが――。
ノルウェー映画は『15歳、アルマの恋愛妄想』(2011年)くらいしか観たことのない不勉強な筆者は知らなかったが、マッティン役のヨナス・ホフ・オフテブローは、両親も兄も俳優という芸能一家に生まれ育ったノルウェーを代表する若手俳優とか。
マッティンは慈善活動と称して好き勝手振る舞う兄と、自らの夢を自分に押し付けてくる父の狭間で揺れる難しい役所だが、ヨナス・ホフ・オフテブローはさすがの好演を見せている。
だが、そんな実力派ヨナス・ホフ・オフテブローに勝るとも劣らないほど、ロスバンドのメンバーたちの熱演が素晴らしい。
グリム役のターゲ・ホグネスは、『ロスバンド』の主人公という大役を、見事に務めあげた。
グリムは、家では両親の不仲に心を痛め、外でも友達との関係に大きな悩みを抱えている。
だが、それでも夢に向かって突っ走る。
永久凍土でも消せない情熱の炎……勝手に「スヴァールバル魂」とでも命名したい静かな闘志を、若き主役は繊細に表現した。
ヤコブ・ディールードが演じたアクセルは、音痴という最大の欠点に気付かないギタリスト。
創作のモチベーションはクラスのマドンナへの恋心という激情家のアクセルは、物静かだが内に情熱を秘めるグリムと好対照を成している。
アクセルの恋の行方は、実は物語の展開に不可欠な要素だったりするので、お見逃しなく。
そして、この人がいなかったら映画『ロスバンド』の魅力は半減していたかもしれない。
ティルダ役の、ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲルだ。
ティルダは9歳のチェロ(ウッドベースではなく)奏者、しかもピチカートではなくボーイングで弾く、バリバリのクラシック少女。
ロックバンドには「異分子」のメンバーであるティルダは、両親は放任主義で学校でも孤立している。
クールな仮面の下で自分の「居場所」を渇望するティルダは、何かを見つけることが出来るのか……それは、物語の終盤で明らかになる。
メガホンを取ったクリスティアン・ロー監督は、子ども向け映画の名手として知られている。
『ロスバンド』も、【ベルリン国際映画祭】(2018年)ジェネレーション部門(4歳以上)セレクト作品なのだ。
日本公開でも、「文部科学省選定(少年向き/家庭向き)」映画に選出されている。
だが、映画『ロスバンド』は、子供たちにはもちろんだが、大人たちにも強くお薦めしたい。
大人ではないからこそ本気で追えた夢の行方を、その時だからこそ踏み出すことが出来た旅の行く末を、しかと目撃してほしい。
少年は、荒野を目指す。
夢の行き先は、成功でなくて良い。
旅の目的地は、「さっきまでとは違う場所」で、良いのだ――。
映画『ロスバンド』
絶賛公開中 新宿シネマカリテ3月11日(金)〜 名演小劇場
シネマート心斎橋
ほか全国順次ロードショー!
監督 : クリスティアン・ロー
出演:ターゲ・ホグネス、ヤコブ・ディールード、ティリル・マリエ・ホイスタ・バルゲル、ヨナス・ホフ・オフテブロー 他
原題 : LOS BANDO
ノルウェー・スウェーデン|2018年|94分|カラー|ノルウェー語・スウェーデン語|シネマスコープ|5.1ch
日本語字幕:高橋彩
後援 : ノルウェー大使館
配給:カルチュアルライフ
宣伝:VALERIA
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