
新型コロナウイルス(COVID-19)の収束は未だ見えず、それどころか変異株の脅威に怯え続ける毎日……世界は変わった。
そんな日々を送る今だからこそ、考えてみたい。
私たちは、なぜ旅に出るのだろう?
新たな変異株に右往左往を余儀なくされる世界、医療現場と経済活動とのバランスを取りあぐねている日本。
2月11日(金・祝)、旅から離れて久しい私たちが観るべき映画が公開される。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』
88分のドキュメンタリー映画だ。
「ふたり」とは、アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス。
学生時代からの友人で、オーストリアのIT業界で働く20代の若者たちだ。
アンドレアスとドミニクは出演だけでなく、脚本・監督・撮影・編集と5役を務めている。
映画『オーストリアからオーストラリアへ』は、彼らふたりが完成させたと言って良い。

海外旅行といっても、バックパッカーのような当てのない旅でもなければ、もちろんパックツアーの類いでもない。
事前に入国ビザを申請し、綿密にスケジュールを立てた、オーストリアからオーストラリアへ22,000kmもの行程を巡る、壮大な冒険旅行である。
しかも、陸路はすべて人力で……自転車で走破する計画なのだ。
4月1日、最低限の着替えと野営装備、水に食糧、身分証明書に金銭、そして4Kカメラとドローン……必要なものをすべて自転車に積み込み、アンドレアスとドミニクふたりの旅が始まった――。

まず特筆したいのは、『オーストリアからオーストラリアへ ~ふたりの自転車大冒険』では、私たちが容易に想像できる苦労話が全く語られていないということだ。
体力作りを万端にして行ったにせよ、自転車に直接触れる部位(具体的には、臀部と両掌底)の痛みは想像以上だったろう。
余裕のないスケジュールの中、日焼けに悩まされたはずだし、脱水で足は何度も攣ったであろう。
自転車の整備不良にはお互い苛々が募ったろうし、数えるのを放棄するほどのパンクを経験しただろう。
道中、心ない自動車からのクラクションに煽られ、毎日のように心が折れそうになっただろう。
しかし、それはすべて想像に過ぎない。
何故なら、そんな当然起こったはずの苦労話は、一秒たりとも写っていないからだ。

そして、もう一つ。
この映画では、各国の名所旧跡、風光明媚な景色が、驚くほど省かれているのだ。
オーストリア……
スロバキア……
ハンガリー……
ルーマニア……
ウクライナ……
ポーランド……
リトアニア……
ラトビア……
ロシア……
カザフスタン……
キルギス……
中国……
パキスタン……
インド……
ネパール……
タイ……
マレーシア……
シンガポール……
そして、オーストラリア。
(政治的な理由で入国を断念した国は含まず)
道中、素晴らしい建造物や、怒涛の如く感動が押し寄せた自然美に、数限りなく触れたであろう。
しかし、『オーストリアからオーストラリアへ』本編に残された名所はロシアの赤の広場くらいなもので、景勝地もウクライナの山岳地帯に目を奪われる程度にとどまっている。

パキスタンでは、地元警察の監視下に置かれたことが。
インドでは、蚊に悩まされたことが。
オーストラリアでは、ふたりの喧嘩の様子が。
観光名所の代わりに、かなりの尺で語られる。
そして、市井の人々から受けた親切が、繰り返し繰り返し写される。

IT革命を経た現代社会を生きる私たちにとって、各SNSや動画投稿サイトなどで、気軽に海外からの発信を視聴できる「旅動画」が身近な存在となった。
だが、アンドレアスとドミニクは、冒険を「動画」ではなく、「映画」で観せたかったのだ。
そして、ふたりが世界の人々に観せたかったのは、誰もが共感できるような失敗談や、有名な観光地ではないのだろう。
膨大な撮影素材は、実際に旅をしたアンドレアスとドミニク自らの手で編集されている。
trip , travel , tour , journey……英語だけでも、「旅」を表す単語はいくつも存在する。
ビフォア・コロナの世界に想いを馳せる今、私たちが切望する旅とは、“journey=長期旅行”だ。
見知らぬ土地を彷徨う長い旅……それは、“adventure=冒険”とも言える。
アンドレアスとドミニクがやり遂げた冒険旅行は、是非とも映画館で没入して味わってほしい。

私自身、大スクリーンで確かめたいことがある。
壮大な行程、莫大な距離にわたって断裂もせず、無謀としか謂い様のないふたりの大冒険を支えた、堅牢この上ない自転車フレーム。
一体どこの国の何というブランドなのか、確認しなければ。
劇場の暗闇でなければ、大きな銀幕でなければ、分からないことが、この世界にはある――。

ドキュメンタリー映画
2022年2月11日(金・祝)
ヒューマントラストシネマ有楽町/アップリンク吉祥寺
2022年3月4日(金)
名演小劇場
ほか、全国順次公開
監督・脚本・撮影・編集:アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス
監修 :マルティナ・アイヒホルン
最終編集 :イネス・ヴェーバー
カラーグレーディング :ロベルト・アングスト AAC
音楽 :クレメンス・バッハー
サウンド編集 :マヌエル・マイヒスナー
サウンドデザイン :アタナス・チョラコフ
サウンドエディター :ダニエラ・ツォーベル
製作主任 :ザビーネ・ハイン
プロデューサー :ヨーゼフ・アイヒホルツァー
製作 :アイヒホルツァー・フィルム
後援 :ORF 映画/TV協定/オーバーエスタライヒ州
制作 :アイヒホルツァー・フィルムプロダクション有限会社
オーストリア映画/2020年/ドイツ語/カラー/デジタル/16:9/88分
© Aichholzer Film / Dominik Bochis / Andreas Buciuman

新型コロナウイルス(COVID-19)の収束は未だ見えず、それどころか変異株の脅威に怯え続ける毎日……世界は変わった。
そんな日々を送る今だからこそ、考えてみたい。
私たちは、なぜ旅に出るのだろう?
新たな変異株に右往左往を余儀なくされる世界、医療現場と経済活動とのバランスを取りあぐねている日本。
2月11日(金・祝)、旅から離れて久しい私たちが観るべき映画が公開される。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』
88分のドキュメンタリー映画だ。
「ふたり」とは、アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス。
学生時代からの友人で、オーストリアのIT業界で働く20代の若者たちだ。
アンドレアスとドミニクは出演だけでなく、脚本・監督・撮影・編集と5役を務めている。
映画『オーストリアからオーストラリアへ』は、彼らふたりが完成させたと言って良い。

『オーストリアか らオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』解説
2017年、オーストリアに住むふたりの若者、アンドレアス・ブチウマン(24)とドミニク・ボヒス(25)は、かねてより計画していた海外旅行を決行する。海外旅行といっても、バックパッカーのような当てのない旅でもなければ、もちろんパックツアーの類いでもない。
事前に入国ビザを申請し、綿密にスケジュールを立てた、オーストリアからオーストラリアへ22,000kmもの行程を巡る、壮大な冒険旅行である。
しかも、陸路はすべて人力で……自転車で走破する計画なのだ。
4月1日、最低限の着替えと野営装備、水に食糧、身分証明書に金銭、そして4Kカメラとドローン……必要なものをすべて自転車に積み込み、アンドレアスとドミニクふたりの旅が始まった――。

まず特筆したいのは、『オーストリアからオーストラリアへ ~ふたりの自転車大冒険』では、私たちが容易に想像できる苦労話が全く語られていないということだ。
体力作りを万端にして行ったにせよ、自転車に直接触れる部位(具体的には、臀部と両掌底)の痛みは想像以上だったろう。
余裕のないスケジュールの中、日焼けに悩まされたはずだし、脱水で足は何度も攣ったであろう。
自転車の整備不良にはお互い苛々が募ったろうし、数えるのを放棄するほどのパンクを経験しただろう。
道中、心ない自動車からのクラクションに煽られ、毎日のように心が折れそうになっただろう。
しかし、それはすべて想像に過ぎない。
何故なら、そんな当然起こったはずの苦労話は、一秒たりとも写っていないからだ。

そして、もう一つ。
この映画では、各国の名所旧跡、風光明媚な景色が、驚くほど省かれているのだ。
オーストリア……
スロバキア……
ハンガリー……
ルーマニア……
ウクライナ……
ポーランド……
リトアニア……
ラトビア……
ロシア……
カザフスタン……
キルギス……
中国……
パキスタン……
インド……
ネパール……
タイ……
マレーシア……
シンガポール……
そして、オーストラリア。
(政治的な理由で入国を断念した国は含まず)
道中、素晴らしい建造物や、怒涛の如く感動が押し寄せた自然美に、数限りなく触れたであろう。
しかし、『オーストリアからオーストラリアへ』本編に残された名所はロシアの赤の広場くらいなもので、景勝地もウクライナの山岳地帯に目を奪われる程度にとどまっている。

パキスタンでは、地元警察の監視下に置かれたことが。
インドでは、蚊に悩まされたことが。
オーストラリアでは、ふたりの喧嘩の様子が。
観光名所の代わりに、かなりの尺で語られる。
そして、市井の人々から受けた親切が、繰り返し繰り返し写される。

IT革命を経た現代社会を生きる私たちにとって、各SNSや動画投稿サイトなどで、気軽に海外からの発信を視聴できる「旅動画」が身近な存在となった。
だが、アンドレアスとドミニクは、冒険を「動画」ではなく、「映画」で観せたかったのだ。
そして、ふたりが世界の人々に観せたかったのは、誰もが共感できるような失敗談や、有名な観光地ではないのだろう。
膨大な撮影素材は、実際に旅をしたアンドレアスとドミニク自らの手で編集されている。
trip , travel , tour , journey……英語だけでも、「旅」を表す単語はいくつも存在する。
ビフォア・コロナの世界に想いを馳せる今、私たちが切望する旅とは、“journey=長期旅行”だ。
見知らぬ土地を彷徨う長い旅……それは、“adventure=冒険”とも言える。
アンドレアスとドミニクがやり遂げた冒険旅行は、是非とも映画館で没入して味わってほしい。

私自身、大スクリーンで確かめたいことがある。
壮大な行程、莫大な距離にわたって断裂もせず、無謀としか謂い様のないふたりの大冒険を支えた、堅牢この上ない自転車フレーム。
一体どこの国の何というブランドなのか、確認しなければ。
劇場の暗闇でなければ、大きな銀幕でなければ、分からないことが、この世界にはある――。

ドキュメンタリー映画
『オーストリアからオーストラリアへ ~ふたりの自転車大冒険』
2022年2月11日(金・祝)
ヒューマントラストシネマ有楽町/アップリンク吉祥寺
2022年3月4日(金)
名演小劇場
ほか、全国順次公開
監督・脚本・撮影・編集:アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒス
監修 :マルティナ・アイヒホルン
最終編集 :イネス・ヴェーバー
カラーグレーディング :ロベルト・アングスト AAC
音楽 :クレメンス・バッハー
サウンド編集 :マヌエル・マイヒスナー
サウンドデザイン :アタナス・チョラコフ
サウンドエディター :ダニエラ・ツォーベル
製作主任 :ザビーネ・ハイン
プロデューサー :ヨーゼフ・アイヒホルツァー
製作 :アイヒホルツァー・フィルム
後援 :ORF 映画/TV協定/オーバーエスタライヒ州
制作 :アイヒホルツァー・フィルムプロダクション有限会社
オーストリア映画/2020年/ドイツ語/カラー/デジタル/16:9/88分
© Aichholzer Film / Dominik Bochis / Andreas Buciuman
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