
とあるシンガーソングライターは、かつてラジオで

とあるシンガーソングライターは、かつてラジオで
「表現する仕事に就いている以上、歌の内容が実体験だと思われてしまうのは仕方ないことだと思う」
と語っていた。
そう。
作品には、多かれ少なかれ表現者の履歴が垣間見えるものだ。
映画監督・野本梢の作品には、特にそんな匂いがする。
『青三十二才』
『私は渦の底から』
『はじめてのうみ』
『わたしが発芽する日』
『あの頃と甘いシュシュ』
『次は何に生まれましょうか』
『アルム』
葵、希子、紗耶、南、聡美、友佳……
野本梢監督が生み出した登場人物は、いつも悩み、いつも迷い、いつも頑張る。
どの作品も愛すべき主人公で、野本監督の「写し身」的な存在と思わせる。
そして新たに、監督の「分身」に是非とも加えたい主人公が生まれた。
野本梢監督作品『愛のくだらない』を、レビューする。

ヨシは景に黙って芸人を辞め、転職したものの体調不良で仕事を休みがちで、結婚に対してもハッキリしない。
うんざりした景は、ヨシを置いて部屋を出て、子育てに追われる親友・椿 (橋本紗也加)の家に転がり込む。
順調そのものに思えた景の仕事だが、取材対象の栞 (村上由規乃)についてプロデューサー・金城(長尾卓磨)と揉め、徐々に軋轢は大きくなる。
煩悶する景は飛び出した家に戻ってみると、そこには見知らぬ女性(根矢涼香)がいて――。

一般公開されるや否や、大変な評判を呼んでいる『愛のくだらない』。
それもそのはず、『愛のくだらない』は、沖田修一監督(『横道世之介』)や岨手由貴子監督(『あのこは貴族』)らを輩出した【田辺・弁慶映画祭】で弁慶グランプリを受賞した野本監督の渾身の一作。
しかも、映画.com賞を異例のダブル受賞した話題作なのだ。
監督・脚本・編集を務めた野本梢監督は、【田辺・弁慶映画祭】【東京国際レズビアン&ゲイ映画祭】【福井駅前短編映画祭】など映画祭で愛され、グランプリを獲得し続けている俊英。
学習院大学文学部を卒業後、シナリオセンター、映画24区、ニューシネマワークショップ(NCW)で映像制作を学んだ実力派だ。
『愛のくだらない』は、野本監督にとって『透明花火』に続いての長編作品となる。

職場で頼りにされ、パートナーに大切にされているにも拘わらず、空回りで窮地に陥る主人公・景には、誰もが共感せずにはいられない。
景は、野本監督の写し身なのかもしれないが、観る者一人ひとりの分身でもあるのだ。
そんな、身につまされるほど愛おしい主人公を見事に演じ切ったのは、処女作から出演している「野本梢のミューズ」・藤原麻希。

景の彼氏・慶(ヨシ)には、お笑いトリオ「ななめ45°」の岡安章介。
『探検隊の栄光』(山本透監督)など役者としてもキャリアを積む岡安だが、本作では後になればなるほど印象が変わる、物語の最重要キャラを熱演している。

物語のキーマンといえば、栞役の村上由規乃にも注目してほしい。
『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)『ロストベイベーロスト』(柘植勇人監督)『街の上で』(今泉力哉監督)と、近年話題作への出演が続く村上だが、本作で更にキャリアアップした感がある。
『カランコエの花』(中川駿監督)『かく恋慕』(菱沼康介監督)で高い評価を得た手島実優が演じる紗希子とのコンビネーションも、素晴らしい。
また、『私は渦の底から』の橋本紗也加、長尾卓磨、『次は何に生まれましょうか』の根矢涼香、等など「野本梢オールスターズ」とも言うべきキャスト陣が脇を固め、野本監督の熱の入れようをひしひしと感じる。
出番は少ないながらも存在感を示す、「野本梢もう一人のミューズ」・笠松七海もお観逃しなく。
表現者の実体験を見たかのような錯覚を覚える作品には、丁寧に紡ぎあげられたリアリティが欠かせない。
映画というジャンルにおいては、役者の技量、スタッフとの連携という多様な要素が不可欠となる。
巧くハマれば傑作になるし、ハマらなければ噴飯ものの駄作となるだろう。
『愛のくだらない』は、紛れもなく前者だ。
これは、野本梢監督の力量と言って良い。
さて、とあるアーティストの発言を前述したが、別の大御所はこんなことを言ったことがある。
「歌をつくることによって、私小説を発表しているつもりではありません」
作品とは、味わうものであって、詮索するものではないのだ。
『愛のくだらない』、身につまされる愛おしさを、存分に味わってほしい――。

その空気感を目一杯に体感するなら、今週末シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)を訪ねると良い。
1月15日(土)より『愛のくだらない』が封切りとなるシネマスコーレでは、1月15日(土)16日(日)、初日舞台挨拶に野本梢監督と藤原麻希さん、橋本紗也加さんが登壇する。
藤原麻希/岡安章介/村上由規乃/橋本紗也加
長尾卓磨/根矢涼香/手島実優
櫻井保幸 鈴木達也 綱島えりか 山下ケイジ 岡田和也 後藤龍馬 松木大輔 桑名悠 高木悠衣
永野翔 樋口大悟 市川沙耶 中嶋ひかる 阿部勇馬(ラビットラン) 沼沢悠希(ラビットラン) ますいたかみち 北山由季 冨田智 小川修平
プロデューサー 露木栄司 ラインプロデューサー 田中佐知彦
撮影・照明 野口高遠 録音 横田彰文 助監督 市原博文 小川和也 田中麻子 美術 大高雛希
ヘアメイク 田部井美穂 松村南奈 制作 永野翔 小松豊生 メイキング 小川和也
撮影応援 上川雄介 助監督応援 川崎僚 制作応援 知多良 映像効果 白川祐介 整音 宋晋瑞
ビジュアル撮影 Fujikawa hinano デザイン 本木友梨
劇中曲 「天気がいい日は」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
主題歌 「嘘でもいいから」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
制作協力 ニューシネマワークショップ 製作 株式会社 為一 株式会社 Ippo 野本梢
脚本・監督・編集 野本梢
©2020『愛のくだらない』製作チーム
と語っていた。
そう。
作品には、多かれ少なかれ表現者の履歴が垣間見えるものだ。
映画監督・野本梢の作品には、特にそんな匂いがする。
『青三十二才』
『私は渦の底から』
『はじめてのうみ』
『わたしが発芽する日』
『あの頃と甘いシュシュ』
『次は何に生まれましょうか』
『アルム』
葵、希子、紗耶、南、聡美、友佳……
野本梢監督が生み出した登場人物は、いつも悩み、いつも迷い、いつも頑張る。
どの作品も愛すべき主人公で、野本監督の「写し身」的な存在と思わせる。
そして新たに、監督の「分身」に是非とも加えたい主人公が生まれた。
野本梢監督作品『愛のくだらない』を、レビューする。

『愛のくだらない』ストーリー
テレビ局で働く景(藤原麻希)は、忙しいながらも充実した日々を過ごしているが、同棲中の彼氏・ヨシ(岡安章介)に不満を抱いていた。ヨシは景に黙って芸人を辞め、転職したものの体調不良で仕事を休みがちで、結婚に対してもハッキリしない。
うんざりした景は、ヨシを置いて部屋を出て、子育てに追われる親友・椿 (橋本紗也加)の家に転がり込む。
順調そのものに思えた景の仕事だが、取材対象の栞 (村上由規乃)についてプロデューサー・金城(長尾卓磨)と揉め、徐々に軋轢は大きくなる。
煩悶する景は飛び出した家に戻ってみると、そこには見知らぬ女性(根矢涼香)がいて――。

一般公開されるや否や、大変な評判を呼んでいる『愛のくだらない』。
それもそのはず、『愛のくだらない』は、沖田修一監督(『横道世之介』)や岨手由貴子監督(『あのこは貴族』)らを輩出した【田辺・弁慶映画祭】で弁慶グランプリを受賞した野本監督の渾身の一作。
しかも、映画.com賞を異例のダブル受賞した話題作なのだ。
監督・脚本・編集を務めた野本梢監督は、【田辺・弁慶映画祭】【東京国際レズビアン&ゲイ映画祭】【福井駅前短編映画祭】など映画祭で愛され、グランプリを獲得し続けている俊英。
学習院大学文学部を卒業後、シナリオセンター、映画24区、ニューシネマワークショップ(NCW)で映像制作を学んだ実力派だ。
『愛のくだらない』は、野本監督にとって『透明花火』に続いての長編作品となる。

職場で頼りにされ、パートナーに大切にされているにも拘わらず、空回りで窮地に陥る主人公・景には、誰もが共感せずにはいられない。
景は、野本監督の写し身なのかもしれないが、観る者一人ひとりの分身でもあるのだ。
そんな、身につまされるほど愛おしい主人公を見事に演じ切ったのは、処女作から出演している「野本梢のミューズ」・藤原麻希。

景の彼氏・慶(ヨシ)には、お笑いトリオ「ななめ45°」の岡安章介。
『探検隊の栄光』(山本透監督)など役者としてもキャリアを積む岡安だが、本作では後になればなるほど印象が変わる、物語の最重要キャラを熱演している。

物語のキーマンといえば、栞役の村上由規乃にも注目してほしい。
『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)『ロストベイベーロスト』(柘植勇人監督)『街の上で』(今泉力哉監督)と、近年話題作への出演が続く村上だが、本作で更にキャリアアップした感がある。
『カランコエの花』(中川駿監督)『かく恋慕』(菱沼康介監督)で高い評価を得た手島実優が演じる紗希子とのコンビネーションも、素晴らしい。
また、『私は渦の底から』の橋本紗也加、長尾卓磨、『次は何に生まれましょうか』の根矢涼香、等など「野本梢オールスターズ」とも言うべきキャスト陣が脇を固め、野本監督の熱の入れようをひしひしと感じる。
出番は少ないながらも存在感を示す、「野本梢もう一人のミューズ」・笠松七海もお観逃しなく。
表現者の実体験を見たかのような錯覚を覚える作品には、丁寧に紡ぎあげられたリアリティが欠かせない。
映画というジャンルにおいては、役者の技量、スタッフとの連携という多様な要素が不可欠となる。
巧くハマれば傑作になるし、ハマらなければ噴飯ものの駄作となるだろう。
『愛のくだらない』は、紛れもなく前者だ。
これは、野本梢監督の力量と言って良い。
さて、とあるアーティストの発言を前述したが、別の大御所はこんなことを言ったことがある。
「歌をつくることによって、私小説を発表しているつもりではありません」
作品とは、味わうものであって、詮索するものではないのだ。
『愛のくだらない』、身につまされる愛おしさを、存分に味わってほしい――。

その空気感を目一杯に体感するなら、今週末シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12 アートビル1F)を訪ねると良い。
1月15日(土)より『愛のくだらない』が封切りとなるシネマスコーレでは、1月15日(土)16日(日)、初日舞台挨拶に野本梢監督と藤原麻希さん、橋本紗也加さんが登壇する。
映画 『愛のくだらない』
(2020/日本/95 分)藤原麻希/岡安章介/村上由規乃/橋本紗也加
長尾卓磨/根矢涼香/手島実優
櫻井保幸 鈴木達也 綱島えりか 山下ケイジ 岡田和也 後藤龍馬 松木大輔 桑名悠 高木悠衣
永野翔 樋口大悟 市川沙耶 中嶋ひかる 阿部勇馬(ラビットラン) 沼沢悠希(ラビットラン) ますいたかみち 北山由季 冨田智 小川修平
プロデューサー 露木栄司 ラインプロデューサー 田中佐知彦
撮影・照明 野口高遠 録音 横田彰文 助監督 市原博文 小川和也 田中麻子 美術 大高雛希
ヘアメイク 田部井美穂 松村南奈 制作 永野翔 小松豊生 メイキング 小川和也
撮影応援 上川雄介 助監督応援 川崎僚 制作応援 知多良 映像効果 白川祐介 整音 宋晋瑞
ビジュアル撮影 Fujikawa hinano デザイン 本木友梨
劇中曲 「天気がいい日は」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
主題歌 「嘘でもいいから」 作詞・作曲・歌 工藤ちゃん
制作協力 ニューシネマワークショップ 製作 株式会社 為一 株式会社 Ippo 野本梢
脚本・監督・編集 野本梢
©2020『愛のくだらない』製作チーム
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