7月17日(土)~25日(日)、シアターカフェ(名古屋市東区白壁4丁目9)で開催される、【『のさりの島』公開記念 山本起也監督ドキュメンタリー作品特集上映】。

『ジム』レビューは、こちらをどうぞ


今回は、『ツヒノスミカ』を紹介する。

『ジム』が、青春から朱夏へと移らんとする若者たちを追ったドキュメンタリーとするならば、
『ツヒノスミカ』は、白秋、玄冬という人生を長く過ごした者たちに焦点を当てたドキュメンタリーである。

『ツヒノスミカ』(2006年/80分)

監督:山本起也 
出演:山本マツ、山本耕三
ナレーション:寺島進

静岡県にある一軒家で暮らしていた祖母ちゃんは齢90を越え、ひとりは寂しいと言い出す。
息子の家族と同居するため、住み慣れた家は取り壊されることになる。

取り壊しの日を前にして、家の中を片付ける祖母ちゃん。
息子たちも手伝って荷造りするものの、なかなか思うように進まない。

それは、取っておく。あれは、捨てる。これは使っているから、まだ片付けない。
家からは、どんどん品物が出てくる。

それは、思い出を掘り起こす作業なのだ――。

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『ジム』で時間の不可分性に気付いた山本起也監督は、自身のお祖母さんにカメラを向ける。
祖母ちゃんが「終の住処」と考えていたであろう家が取り壊されるまでの一夏を、レンズは静かに写しとる。

だが、そんな極めて限定された期間を被写体と過ごすだけで、やはりカメラは時間の不可分性を証明するような映像を残す。

家に溢れる品々を整理していくと、お祖母ちゃんの、息子の、そして孫である監督の、思い出話が次々と掘り起こされる。

自身の、家族の、そして亡くなった者の思い出を掘り返すうち、過去、現在、そして未来が曖昧模糊としてくる。

映像は確かに時系列を追っているはずなのに、かえって時間の概念が不明瞭になっていく不思議。
過去と未来の狭間(あわい)である今という瞬間がどんどん領域を増やし、いつしか作品世界には独特の死生観すら漂いはじめる。

これはまさしく、『カミハテ商店』と、そして『のさりの島』と、共通する世界観に他ならない。

『ツヒノスミカ』は、山本起也監督が撮った2本の劇映画の直接の祖先にあたる重要作品である。

シアターカフェの【山本起也監督ドキュメンタリー作品特集上映】は、新作『のさりの島』と合わせ、監督の作品遍歴を一気観できるまたとない好機なので、是非ともお観逃しなく。

『のさりの島』鑑賞後では随分と違う印象を持つことができるので、過去に『ジム』『ツヒノスミカ』を観たことのある方にもお薦めだ。

シアターカフェ

【『のさりの島』公開記念 山本起也監督ドキュメンタリー作品特集上映】


7月17日(土)~25日(日) ※火・水定休 
13:00『ツヒノスミカ』 / 15:00『ジム』
料金:各作品1000円+ドリンク(600円~)

7月23日(金)には山本起也監督がシアターカフェにやってくる予定だというので、こちらも要チェックだ!

シアターカフェ公式サイト


『のさりの島』山本起也監督インタビュー


映画『のさりの島』公式サイト