「ばあちゃん、オレオレ」

それは、一本の偽りの電話から始まった、かりそめの祖母(原知佐子)と孫(藤原季節)の物語。

『カミハテ商店』(2012年)に引き続き、山本起也監督が【北白川派】で撮り上げた最新作『のさりの島』。


『のさりの島』山本起也監督インタビュー


天草市オールロケで撮影された『のさりの島』は地元・熊本県での先行上映を皮切りに、全国でロードショーが始まっている。

愛知でも名演小劇場で6月19日(土)から、刈谷日劇で7月23日(金)から、待望の公開が始まる。


名演小劇場では初日6月19日(土)、刈谷日劇では7月25日(日)、舞台挨拶が予定されているそうなので、登壇者等の情報は劇場・作品の公式サイトで要チェックだ。


特に、名演小劇場では6月19日(土)、10:10〜回の上映後、 12:40〜回の上映後、17:35〜回の上映前、なんと山本起也監督は3回も舞台挨拶に立つそうなので、この機会をお観逃しなきよう。


映画『のさりの島』公式サイト




そして、シアターカフェ(名古屋市東区白壁4丁目9)では、『のさりの島』公開を記念して、山本起也監督のドキュメンタリー作品『ジム』『ツヒノスミカ』を上映する。


長編映画4本という監督作のうち、2本がドキュメンタリー作品という山本起也監督。

ドキュメンタリー映画を観ずして山本監督は語れないと言っても過言ではないので、今回の貴重な機会をお観逃しなきよう。


まずはドキュメンタリー作品『ジム』を紹介する。


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『ジム』(2003年/124分)

監督:山本起也 

出演:北澤鈴春、矢原隆史、清水高志


山本起也監督デビュー作。

北澤鈴春は、かつて元世界チャンピオン鬼塚勝也をも苦しめた元プロボクサー。

惜しまれつつ若くして現役を引退した北澤は、川崎市にボクシングジムを開設する。

ジムに通う若者たちは、ボクシングに、生活に、何を見ているのか。

カメラはいつしか、北澤から若きボクサー達へと視線を移し、彼らを思いもよらぬほど長い期間にわたり追い続ける。

ストイックなまでに時系列を順守し、演出めいた編集を施されることもない「ドキュメント」は、だからこそ朴訥に人となりを語る。

音楽やナレーション、字幕テロップすら最低限に抑えられたフィルムは、124分という尺を忘れるほど瞬く間に過ぎる。

そのさまは、まるで減量により磨き上げられたボクサーの身体のようにも映る――。


あと少しでチャンピオンに手が届いた、ボクサー。

学問とボクシングの両立に悩む、練習生。

照れながらも家族に感謝する、若者。

逃げている自分を見つめ続ける、挑戦者。


様々な人間模様が交差するドキュメンタリー映画『ジム』だが、特筆したいのは、実は登場人物についてではない。

いちばん注目してほしいのは、カメラの視線の変化、即ち、山本起也監督の心境の変化である。


一人の非凡なボクサーを追っていたカメラ=山本監督は、北澤鈴春の選手生命が絶たれたことを知る。

レンズが追いかける相手は、北澤本人から、彼が若くして設立したボクシングジムに集まる人々へと広がっていく。


しかし、そのうちカメラは気付いてしまう。

人が思い描くような区切りなど、結末など、ゴールなど、決してやってこないということに。


「第2ラウンドは、どう?」という問いに答える北澤を、観逃さないでほしい。


『ジム』は、観終わった後も尚、作品世界に浸り続けていたくなる。

それはきっと、被写体とカメラが真摯に共有したからに他ならない……人生という、時間の連続体の一部を。


シアターカフェ

【『のさりの島』公開記念 山本起也監督ドキュメンタリー作品特集上映】


7月17日(土)~25日(日) ※火・水定休 

13:00『ツヒノスミカ』 / 15:00『ジム』

料金:各作品1000円+ドリンク(600円~)


シアターカフェ公式サイト