ボーカル&手話パフォーマンスグループ「HANDSIGN」(ハンドサイン)の、実話をもとにした楽曲を原案にしたラブストーリー『僕が君の耳になる』。
新型コロナウイルス(COVID-19)禍により公開延期となっていた本作だが、間もなくロードショーが始まる。
『僕が君の耳になる』ストーリー
純平(織部典成)は、大学の授業やアルバイトの傍ら、路上でオリジナル曲を披露している。
投げ銭どころか足を止めてくれる人も少ないが、ひとりの女性がハンドサインを送ってくれる。
その後、純平は学内でダンスサークルの一員として踊る美咲(梶本瑞希)を見掛け、あの女性だと気付く。
そして、ハンドサインが拍手を意味する手話だと知る。
外見上はごく普通の女性だが、美咲はろう者なのだ。
純平は美咲に惹かれていくうち、耳の聞こえない世界の現実を知っていく。
純平の親友・満彦(松井健太)や同じバイト先の遥香(岡田結実)らのように、障がい者を理解しようとする人々もいるが、心ない陰口が囁かれることも多く、美咲だけでなく純平も心を痛める。
純平のポジティブな性格もあり、二人の距離は順調に縮まっていく。
美咲の両親(三浦剛、森口瑤子)も純平を認めてくれ、正式に交際するようになった。
ある日、美咲が恩師である麻生(忍足亜希子)に紹介したいという申し出を、純平は断る。
それは気遣いから出た言葉だったが、結果的に嘘を吐いたことは美咲を深く傷付けてしまう――。
HAND SIGNの楽曲の中でも「僕が君の耳になる」は、YouTube再生数1000万回超という人気楽曲。
ろう者を取り上げ、世に理解を広めたいという映画制作プロジェクトは、クラウドファンディングでも多くの賛同者を集めた。
主人公・純平を務めたのは、演劇集団「劇団番町ボーイズ☆」、ダンスヴォーカルユニット「銀河団」の織部典成。
映画初主演となる織部だが、期待に応える好演を見せる。
ヒロインであり、もう一人の主人公・美咲には、重度先天性感音性難聴で、アジア太平洋障害者芸術祭 (TRUE COLOURS FESTIVAL)に出演したダンサー梶本瑞希。
ダンスシーンだけでなく、ろう者でなければ表現できない熱演を見せる。
忍足亜希子と三浦剛の実話を基に作られた「僕が君の耳になる」だが、劇場版では本人たちが手話指導だけでなく出演しているのも見逃せない。
また、森口瑤子、小松みゆき、坂東彦三郎、川﨑麻世など、ベテラン陣がしっかりと物語を締めている。
メガホンを取ったのは、【モナコ国際映画祭】グランプリ受賞作『笑顔の向こうに』(2018年)の榎本次郎監督。
脚本は、『マリア狂騒曲』(井土紀州監督/2013年)などの川崎龍太。
ろう者と健常者のラブストーリーを描いた『僕が君の耳になる』は、ただ心温まるだけの物語ではない。
当事者や支援者が直面する現実の一部がつぶさに描かれており、何気ない日常のシーンに色々と気付かされることも多い。
そして、障がいを持つ者にしか表現できないシーンは、痛みを伴うほどに観る者の心を打つ。
榎本監督としても相当チャレンジングだが、演者である梶本瑞希は想像を絶する負担があったことだろう。
しかしながら、そんな心を痛める要素にこそ、『僕が君の耳になる』の存在価値があるのだ。
私たちは、存分に心温まり、存分に心を痛めよう。
私たちが更なるダイバーシティ(多様化)を実現するためには、一つでも多くの痛みに気付く必要があるのだ――。
映画『僕が君の耳になる』
6月3日~シアタードーナツ
6月25日〜ヒューマントラストシネマ渋谷
6月26日~名演小劇場
ほか全国順次ロードショー
出演:
織部典成 梶本瑞希
松井健太 三浦大輝 岡元あつこ 小松みゆき 中西悠綺 袴田彩会 坂東彦三郎
三浦剛 忍足亜希子
阿部祐二 新藤栄作 川﨑麻世 岡田結実 木村祐一 森口瑤子
監督:榎本次郎
脚本:川﨑龍太
製作総指揮:瀬古口精良
エグゼクティブプロデューサー:井内徳次
音楽プロデューサー:上阪伸夫 浅見トマル
プロデューサー:中川健 安藤大 瀧川剛史 津田康輔
音楽:フジパシフィックミュージック
主題歌:HANDSIGN「僕が君の耳になる」
手話指導:三浦剛 忍足亜希子
ドローン撮影:市川範之
2021年製作/86分/G/日本
配給:テンダープロ
『僕が君の耳になる』公式サイト
©「僕が君の耳になる」製作委員会