ドキュメンタリー映画『普通に死ぬ ~いのちの自立~』が完成したのは、新型コロナウイルス(COVID-19)によりオリンピック・パラリンピックの延期が余儀なくされた2020年夏のことだった。


【あいち国際女性映画祭 2020】で招待作品に選ばれた本作は、名古屋、東京、静岡、大阪、京都、兵庫と上映を重ねたが、コロナ禍は更に世界を席捲し、2021年の公開予定が順延されるという憂き目に遭った。


こうして公開が待望されていた『普通に死ぬ ~いのちの自立~』だが、いよいよ5月22日(土)横浜シネマリンから上映再開となった。

名古屋でも、6月5日(土)よりシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)でのアンコールロードショーが決まっている。


『普通に死ぬ ~いのちの自立~』は、ドキュメンタリー映画『普通に生きる ~自立をめざして~』(2011年)の続編にあたる。


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『普通に生きる ~自立をめざして~』は、重度の障がい者と、その親たちが「普通に生きてゆく」ために奔走した重く長い5年間の記録であった。

『普通に生きる』では、障がい児にとって養護学校卒業後の日中の居場所となる生活介護事業所(通所施設)「でら~と」(静岡県富士市)、「らぽ~と」(静岡県富士宮市)設立までの道のりが克明に記録されている。


『普通に死ぬ ~いのちの自立~』は、『普通に生きる』から更に8年後。

年齢を重ねた親子たちが、故郷で「普通に生き」、「普通に死ぬ」ことの現実をカメラに収めた。


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念願だった新たなグループホーム「GoodSon」が開設する。

「もし自分たちに限界が来たら、どうしよう」と、常に気がかりを抱えている障がい者をケアする家族の、受け皿となる施設だ。


通所だと一日数時間だが、グループホームだと24時間になる。

「滞在」ではなく、「生活」なのだ。


また、癌を患い、我が子の介護が出来なくなった母は苦悶する。

治療に専念する決断をした彼女は、「私の方が子離れ出来ていなかった」と述懐した。


生活に疲弊する人々。

利用者への対応に苦慮する職員と、家族の紛糾。

そして、否応なく押し寄せる老いと病。


在宅ケアの中心である親が倒れてしまったら、障がい者の介護は、生活は、どうなってしまうのか。

地域は、行政は、社会は、何をしてくれるのか。


厳しい現実に直面する中で、当事者は外に目を向ける。

向かったのは、兵庫県伊丹市の施設「しぇあーど」と、西宮市で「青葉園」。

そこで見たものは――。



監督は、『普通に生きる ~自立をめざして~』に引き続き、貞末麻哉子。

貞末監督は、劇映画『ゴンドラ』(伊藤智生監督/1986年)『あーす』(金秀吉監督/1991年)、ドキュメンタリー『おてんとうさまがほしい』(1995年)『梅香里』(2001年)など、多くの映画で制作・上映プロデューサーを務めた。

2002年に梨木かおり、洪福貴と共に映画共働制作プロダクション「マザーバード」を設立して以来、本作も含め4作のドキュメンタリー映画をリリースしている。


『普通に生きる ~自立をめざして~』、『普通に死ぬ ~いのちの自立~』、ふたつのドキュメンタリー映画に共通するのは、当事者たちの「気づき」だ。


障がい児の母が、気づく。

「私が死んだら、この子はどうやって生きていくんだろう?」


娘を亡くした父が、気づく。

「笑顔でこれだけ人を集めるのは、凄い」


福祉の受け手である人々は、気づく。

「障がい者が暮らすには、私たちが担い手とならなければ」


では、私たちは『普通に死ぬ 〜いのちの自立〜』から、何か気づけるだろうか。

障がい者と家族、そして支援者が置かれた現実を観て、何を気づけるだろうか。


コロナ禍により、私たちは疲弊している。

 疲れ、弱りきった心を、更に弱いものを叩くことで慰める。

そんな殺伐とした令和の世を、私たちは生きている。


SNS等では、各種「正義」が横行している。

自称「正義の使者」たちは、ネット社会で網を張り、火種を見つけると火を焚べる。

彼らが探しているのは、悪いものではなく、燃えやすいものなのだ。


しかし、しかしながら、気づきたい。 

そんな脆弱な正義は、いつでも悪徳になり得ることを。

両手いっぱいに他者に投げるための薪を抱えた正義の使者は、いざ火が点いたなら、さぞ燃えやすかろう。


そして、もうひとつ、気づきたい。

あなたの弱りきった心は、あなたが叩いた弱いものに、救われたのだ。

あなたは、あなたが糾弾した悪ものに、生かされたのだ。


私たちは『普通に死ぬ 〜いのちの自立〜』を観て、何を気づけるだろうか――。


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映画『普通に死ぬ ~いのちの自立~』 

長編ドキュメンタリー映画/HD/カラー/119分

製作 : マザーバード ・ Cinema Sound Works/著作・配給 :マザーバード/2020年度作品

監督 ・撮影・構成・編集 : 貞末麻哉子

プロデューサー : 梨木かおり ・貞末麻哉子

録音 : 中山隆匡

音楽 : 木 -kodama- 霊

ナレーター : 余 貴美子


©2020 マザーバード


『普通に死ぬ 〜いのちの自立〜』公式サイト

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http://www.motherbird.net/~ikiru2